魔女の名は
3/8 誤記修正、重複修正
地上に帰り、そのままシワシワ魔女の道具屋へ行く。カナデは俺の陰に隠れながら薄暗い店に入る。
「ちわー」
あれ?前回よりも『ハイド』のレベルが高い。
「ちわー、おばちゃん」
ヌッとカウンター奥から顔だけ出してきた。禍々し爪で頬をかいている。
「よく来たね、お嬢ちゃんも」にっこり笑うシワシワ魔女。
カナデは更に2歩さがる。
「あまり脅かさないでくれ。お眼鏡に叶うか、面白いのもってきた」
竜の血(瓶付き)をテーブルに置く。シワシワ魔女、まだ名前を聞いていなかった。
「ごめん、俺はリヒトだ。名前を教えてくれ」
そう言うとクックックと喉奥から笑い声をあげた。なぜか首を傾げている。
「私に名前を教えるなんて酔狂だね?」
「どういう意味だ?」
「相手に名乗るなんて、信用しないとできないもんだよ」
「礼儀じゃなくて?」
「礼儀ねぇ・・・久しぶりに聞いたよ」
そういうシワシワ魔女は俺を品定めするように見る。『アナライズ』をかけられているような感触さえある。
「私のことはローズと呼びな」
「老婆?」
「死にたいの?」凄まじい殺気が一瞬あり、カナデが小さく悲鳴をあげる。
カナデだってミニ・ドラゴンの咆哮に耐えれるくらいなのに。もろに当てられ俺は膝をつかないのが精一杯だった。
「ごめん、悪かった」
「あっ、そう」もう俺のことなど見ていない。
ローズは熱心にミニ・ドラゴンの血を眺める。
「10階層のミニ・ドラゴンかい?」
「そう」
「それで何を望む?」
少しずつ冷静を取り戻すよう呼吸を整えていた。後ろにいるカナデの呼吸はまだ乱れている。
「いや、何をって・・・ローズが興味を持ってくれるかなぁと」
「ちょっと待っておくれ。あんた何も知らないのかい?」
ほんとうに笑った顔になったローズはお茶目なおばあちゃんみたいになった。結構、昔は美人だったのかもしれない。言い切る前にこの世とおさらばするので、絶対に間違っても口にはできないけれど。
「いや、すっげーアイテムとか、注文は無理としても見せてくれたらなぁ、って」
「これの価値は知ってる?」竜の血を緑色の爪が指す。
「金貨30枚くらい?」カナデが初めてローズに話しかける。
「ばかだねぇ、金貨1,000枚は超えるよ」
カナデも俺もさすがに固まった。カナデの喉が鳴る音が響いた。
「ほんと動くお宝だね」カナデが俺の心を汲み取って言う。
「また潜るか」文字通り一攫千金だ。
そんな俺たちのやりとりをローズは指でテーブルを叩きながら見ている。
「で、どうするんだい?」
「なんか同じくらいの価値の見せてくれ」
「騙されたらどうするの?」
「自分の見る目が無かったって思う」
俺はもうテンションが上がっていて、さっきのことは忘れている。
「ふん、ちょっと待ってておくれ」頬杖をといて、ローズが店の奥へ入る。
「ねぇ、リヒト!!金貨1,000枚ってすごくない?」
「あぁ、ちょっと考えられない額だなぁ」
「なんでそんな普通なの?」
「いや、装備品以外に欲しいのって美味しいご飯くらいか?」
「そろそろお家のご予定とかは?」
「今のところない」
「きれいな奥さんもいらっしゃることですし、ご相談してみては?」
「いや、誰だよ」
「わ・た・しだよ!」
カナデが妙にテンションが上がっていて小芝居まで始めた。そんなコントいらんから。あと、カナデを奥さんにする気もない・・・いまのところ。「あまり騒ぐとローズに捌かれるぞ」と言うとすぐに静まった。耳までペチャンコにきちんとなったのが面白くて吹いた。
「あんた達が気にいるかは分からんけどねぇ」
そう言ってローズがいくつかのアイテムをカウンターに置き始めた。
○火炎のリング
火魔法上昇(小)
火耐性(中)
咆哮耐性(中)
○風のダイヤ
風魔法上昇(中)
咆哮耐性(小)
○聖者の刻印
幸運上昇(中)
光魔法上昇(小)
○グリフォンの羽
俊敏上昇(小)
索敵範囲拡大
○ジェントルエンの耳
俊敏上昇(中)
魅力減(小)
並べ終わった俺は頭を抱え、すぐにその行動が失敗したと悟る。横ではカナデがそんな俺に「どしたの?」と話しかけて来た。ローズはずっとニヤニヤとした顔で俺を見ていた。
「なんかいろいろと頭が混乱する」
「若いってのはいいことだね」上機嫌のローズが言う。
「この『ジェントルエンの耳』って怖い」
干からびた耳を見たカナデが言う。
「多分、それと同じのがアイルランダーの北の森にいる。すっげームカつくヤツ」
「倒したの?」
「石ぶつけられた上に逃げられた」
ジェントルエンって名前までムカつく。投石ヤンドリルとかの名前の方が合ってる気がする。
「なにから話せばいい?」ローズの顔を見る。ローズは何も言わず、顎で「お好きにどうぞ」と示していた。ローズはアイテム名以外はなにも説明していない。
「カナデに進めるとしたら、『風のダイヤ』は風魔法上昇と咆哮耐性がつく、『グリフォンの羽』は俊敏上昇、索敵範囲拡大、最後に『ジェントルエンの耳』は俊敏上昇もつくが、魅力減もセットでつく」
「他のは?」
俺はすでにげんなりしたまま説明する。
「火炎のリングは火系、聖者の刻印は運上昇と光魔法上昇だ」
聞いたカナデの顔色が変わる。それを見たローズは声を出して笑っている。別人のように楽しそうだ。
「ローズ、『風のダイヤ』と『竜の血』って交換ってできる?」
「他はいいのかい?」にんまりとした顔でローズが言う。
「今はいいかなぁ、っていうより1対1が正当な取引な気がする」
「欲のないダークエルフだねぇ」嬉々とした表情を崩さないローズが言う。
どう見ても『火炎のリング』とか装備してたらアモンに襲われる可能性が増えるだけだ。多分、俺のローブもばれている。『火炎のリング』が有ることを知っただけでも収穫だった。
「『風のダイヤ』はペンダントとか指輪とかに加工すればいいのか?」
「そうだね、武器や防具に嵌めたりするヤツもいるね」
「イヴォーグさんならできるよね?」カナデが俺に言う。
「イヴォーグ・・・エルフのか?」
「あれ?ローズの知り合いなの?」
「あんた達はアイルランダーに行くのかい?」
「あぁ、武器と防具のメンテに行くつもりだ」
それを聞いたローズが奥に一旦下がると、巾着袋みたいなのを持って来た。
「悪いんだけど、これをイヴォーグに渡しといて」
「それ渡したら俺たちイヴォーグに恨まれる?」
よく分からないが呪いのアイテムっぽい雰囲気を発している。
「どうだろうねぇ」ローズは目を逸らす。
「やだよ、そんなの!!」がんばれ、カナデ。
「まぁ、呪いとかはないからね。頼んだよ」
「ほんとぉ?」しぶしぶカナデが受け取る。
まぁ、俺もローズのお願いは断れないな。イヴォーグには諦めてもらおう、開けなければ問題ないかもしれない。魔力感知とかで自動で開くとかは知らない。
そうして物々交換が成立した。カナデは「リヒトの装備強化しなくていいの?」と何度も確認してきたが、俺は自分の装備を使いこなせていないと説明した。魔剣すらマジックポーチの中に温存されているくらいだ。
夕方になり、ギルドへ冒険者タグの返還と報酬をもらいに向かう。




