ミニ・ドラゴンと火炎
扉がしまったことを確認して、カナデと自分に『ラ・イド』を詠唱してかける。効き目の長さも魔力量に比例するので、しっかりとかけることにした。
「マジで最初はソロで行くのか?」念のため確認する。
「ガチでやる」ミニ・ドラゴンから視線すら逸らさないカナデ。
こんなに脳筋だったっけ?キャラチェンジ?とか思わずにはいられない。真面目な顔をしていて、まるでオトハみたいだった。
ボス部屋にはミニ・ドラゴンが1体だけいた。十分に準備運動が終わったような雰囲気すらある。油断しているうちに勝つというわけにはいかないだろう。
「危ないと思ったら躊躇なく入るからな」
「了解」
そういうとカナデは相手に悠然と近づいていった。
ミニ・ドラゴンは明るい黄緑色をしていて肌ツヤがピチピチしていた。見方によっては結構愛らしい感じではある。ただ、そうはいっても爪の禍々しさと口を開けた時の歯並びは愛玩ペットではないことを知らしめるには十分だ。もちろん、ギルドではA+クラスだと思う。
そんな相手にカナデはある程度距離が近づいたところで弓を構えた。
「『ウィンド・スピア』」とカナデが詠唱した。
「げぇえ!!」と俺は入り口のドアまで逃げた。
ちょっと前の訓練でカナデが使った時、体重の軽い俺は巻く風にもっていかれた。
ボフゥウウウ!!!
低い周波数の音が響く
ミニ・ドラゴンが右手をかざし、ウィンド・スピアを止めたため具現化して見えた。いつもなら風の塊に隠れていて見えない。回転が止まらないウィンド・スピアがミニ・ドラゴンから血を飛ばす。
グゥオァオオオオ!!!
ミニ・ドラゴンの咆哮がボス部屋にこだまする。軽いスタン状態を引き起こすもんだと思うが、俺はスタンにならなかった。カナデを確認すると、風魔法で足場を作り、すぐに2発目をミニ・ドラゴンに射つ。
また右手でミニ・ドラゴンは『ウィンド・スピア』を止めようとするも、3発目もほぼ真後ろにセットされていて手を貫通した。ウィンド・スピアは貫通後も威力を減退せず、ボス部屋の壁に回転模様をつけていた。相性の問題もあるのだろうが、完璧にカナデのペースである。
ミニ・ドラゴンは右腕を水平に振るうもカナデを捉えきれない。通常、このボス部屋では前後左右、よくて上空くらいしか避けるスペースはないのだが、カナデの風魔法と瞬間強化スキルは上空での高速移動を可能とする。腕を躱したカナデは、そのままミニ・ドラゴンの右目を射抜いた。
これはカナデの完勝かもしれん・・・。
ミニ・ドラゴンは右目に突き刺さった矢を抜かず、横倒れ、悶絶を打っていた。その尻尾にあたるだけでカナデと俺なら余裕で吹っ飛ばせる勢いだった。その証拠に、岩が尻尾に打たれて割れてた。
カナデがまた中空まで飛び、距離をあけた。
「『ウィンド・アロー』」
無詠唱でもすでに使えるだろうが丁寧に詠唱していた。狙いは頭部だと思う。
「ごめん、リヒト!!ヘルプ!!!!」
カナデが急に中空から降り立つ。どうやら魔力切れに近いらしい。
「分かった、下がってろ」
目の前のミニ・ドラゴンは右目を閉じ、立ち上がる。近くで見ると、高さは2階建くらいで、幅はそれほどない。様子を見ているとミニ・ドラゴンが息を吸っているのが分かった。
ドラゴン・ブレス!?
ミニ・ドラゴンの口がゆっくりと開くのが見える。
「『ファイヤ・スピア』」きっちり詠唱する。
ブワァァアン パァッッス
発生時に音がなり 何の抵抗も無く
ミニ・ドラゴンの眉間を抜けて天井に届く
しばらくしてブレスの残滓が天井に漏れ
ミニ・ドラゴンの体がゆっくりと傾く
低い音と砂塵が舞うも、ミニ・ドラゴンはそこから動かなくなった。俺は残心を解かず、『サーチ』の反応が消えるまでミニ・ドラゴンに構えていた。
息吹は、高温で炎系のブレスだと思う。ただ、俺の知識は偏っているので正確性には欠けるし、なんとなく前世の記憶を頼りに思い込んでいる気もする。イヴォーグクラスなら分かったかもしれない。
「リヒト、ありがとぉ〜」
残心を解いた俺を背後からタックルしてきた。
「あのさ、『ラ・イド』が解けてないんだから痛いって」
「それよりも、リヒトの『ファイヤ・スピア』ってヤバイ」
「初めて使ったけれど結構な威力だったよな」
「・・・」なぜかジト目でカナデが見ている。
「そういや、ソロ以外で10階層ボスと戦ったの初めてかも」
「そうだね!!ってかリヒトだけならソロで勝ってるでしょ?」
そこまで言ったカナデに蹴飛ばされる。ちょっとイラっとした様子で、体重差もあるから気をつけてブロックしないと怪我をしかねない。
「あの〜、仲間割れか?」ボス部屋のドアからアモンが顔を出す。
「いや、鍛錬だ」手でカナデに合図を送る。
「それにしてもカナデが1人でやった〜、違うな、眉間に火魔法かよ」
「そういう詮索はマナー違反じゃないか?」
「まぁ、そうケチなこと言うな」アモンは腰に手をあて笑っていた。
「ミニ・ドラゴンの素材はあげないからね」
カナデはマジックバックにミニ・ドラゴンの素材をどんどん入れる。今回は、皮、爪、血(なぜか瓶入り)がドロップされた。他に想像できるのは牙だろうか。『ドラゴンの牙』ってロマン装備だなと、心の思春期が祭りを始める。今回の爪と皮だけでも武器・防具を新調できるだろう、ますますアイルランダーに戻る理由ができた。
「あとは、冒険者のタグだけ拾ったら俺たちは上がる」
「そうか、落ちてる武器・防具は?」
「知らん、俺たちは興味ない」
「うーん、俺も欲しくはないしなぁ」
ギルドに返還することもできるのだが、その場合はいろいろと手続きがある。そもそもタグの返還も完璧な善意なので、それ以上に武器・防具がギルドに返還されることは稀とのこと。例外としては、有名な冒険者が代表するアイテムはギルドに一旦保管され、拾ったものや遺族に分配されることがあるらしい。
そもそも冒険者は先をあまり考えない性質が多いのだから仕方もないだろう。
拾ったタグは全部で16名、Bランクは8人もいた。カナデと2人で黙祷をする。少なくともここまで来れる冒険者だったのだ、敬意を払うには十分だろう残念に思う。
アモンはそんな俺たちを黙って見ていた。異文化的で、黙祷をしていたのが怪しかったのかもしれない。ボス部屋前で話していた様子とは異なり、少しだけその姿は緊張していたるようだった。アモンはこれから11階層で狩をすると話していた。俺たちは別れを告げ、リターン魔法陣を起動する。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「あれはまともに勝負できねぇな」
アモンは自分の実力に自信を持っていたが過信はしていなかった。ミニ・ドラゴンは火耐性が非常に高い、にも関わらず眉間を貫通するほどの火魔法だ。明らかに『火炎のローブ』でブーストがかかっていなかったら難しいレベルだろう。少なくとも現時点では真正面ではいけない。
それだけでも収穫か・・・天井の火魔法の痕跡を見つめる。アモンは他のセットの行方と天秤にかけていた。
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