サードリアの街歩き
今日はダンジョンに潜らないので朝の鍛錬を多めにする。
新しいメニューとしては『ラ・イド』を使いながら、意識的にゆっくりと動くという地味なものだ。このゆっくり動くことが出来れば、感覚としては素早く動くときに精度が増す、と俺は考えている。体が温まってから、カナデにも『ラ・イド』をかけて素手で模擬戦をした。
正直、負けないだろうとは思っていたが、ここまで苦戦するとすら思っていなかった。
簡単に言うと、俺が素手だけでカナデの瞬間強化&風魔法を使われると負けることが分かった。いままでカナデに負ける、なんてことは無かったわけで、魔法と併用したとはいえカナデのハシャギっぷりは無かった。く、悔しいぃいい!!!
それにしてもカナデの成長が著しい。特に『ラ・イド』との親和性が異常に高く、空中に弾き飛ばしても体勢を立て直し、こちらの想定する動きを超えてくる。
「なんでそんなに上手い?」
「なんだろうねぇ。無くてもそれくらい動けるようになりたいんだよね」
「普段の感覚がそっちに寄ってる?」
「効果が切れたときに自分の動きが遅く感じるのはある」
「それってどうなんだ?」
「遅いのが悪いから、早くなればいいんだよ」
カナデの回答は軽い。『ラ・イド』なみに俊敏性が上がれば、かけた時の効果はもっと上がる。そのレベルに更に俊敏性を引き上げる、効果は更に上がるだろう。結果、イタチごっこである。
ただそうなるとカナデの考え方って弊害が余りでない。割り切り方が良すぎるくらいか・・・。気づいてしまったのは、感覚だけでいったらカナデの方がセンスがあるという事だ。非常に認めたく無いけれど。
ある程度、自分も『ラ・イド』の効果に慣れたところで鍛錬は終了した。
少し遅い朝食をカナデと向かい合って頂いていると、周りの冒険者が出て行くのが見えた。この時間帯が一番ダンジョンも混むのだろう。5階層までは比較的に混んでいて、8階層まで来ると極端に人が減る印象がある。そこら辺からはBランクがパーティーに居るか明確に分かれるところだと思う。
「カナデって普段から『サーチ』使ってるか?」
「うん、教わってからは意識的に『サーチ』使ってるよ」
「ふーん」
『それで?』という顔つきでカナデはこちらを見ている。全部言われないと気がつかないのだろうか。
「昨日のシワシワ魔女は『サーチ』できなかったんだよな?」
「あっ!!!・・・」
「多分だけれど、『サーチ』で分かる人しか相手にしないんじゃないかなぁ」
「ヤバイね。なにその変な駆け引き」
カナデはほんとうに言われるまで気がつかなかったみたいだ。あの時に「いない」って自分で言ったのに変なヤツだ。戦闘センスがあるだけに余計に不思議で仕方がない。
「いや、異世界だし、意図は知らん。時間を無駄にしたくないんじゃない?」
「今度から気をつける。また行こう」
「変に近づかない方がいいぞ。戦ったら負けるぞ」
「リヒトでも?」
「絶対に俺じゃ勝てない」
そんなしようもない話をしながら、今日の予定をカナデの希望を聞くと、①防具屋、②武器屋、③雑貨屋、④服屋、⑤商業ギルドと言った。⑤の商業ギルドは俺も興味が湧いたので行くことが決定する。その他も時間が許せば全部行ける。そのことを話すと「初デートだね」とウキウキしていた。なんだかなぁ。
防具屋も武器屋も似たり寄ったりで大した物がなかった。なんというか、ダンジョン街として急発展しているせいか店は多いものの、元来からの武器屋や防具屋がないのかもしれない。つまり、本職としてのレベルが低い。変なところだと、ダンジョンで亡くなったパーティーの物がメンテナンスもされずに売られていたりする。
「アイルランダーの方が明らかに品質が良い」
「まぁ、そうだな。明日行くか?」
「里帰り早くない?」
上京するのに3日で里帰ってきました〜的な恥ずかしさがカナデにはあるのかもしれない。
「いや、強くなるのが目的だし、冒険者だし?」
「そうだね、そこはこだわる必要もないのか」
「そうなると、服屋も商業ギルドも行かなくていいな」
「うん、こっちでしか出来ないことなら道具屋かダンジョンの2択だ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結果、俺たちは今5階層の安全地帯にいる。2人なのでお互いの行動も流石に予測もつくし、敵もさほど強くないため、俺が魔物を狩って素材回収はカナデがやる分担であった。「ここからは役割を変えよう」とカナデから提案があり、5階層から10階層のボス部屋まではカナデが狩り、俺が素材集めとなった。
解体がないので時間的なロスがダンジョンでは極端に短い。そのため、余計な荷物も無ければ効率は非常に良いことは間違いない。
そうやってどんどんと狩りをしながら突き進み、昼過ぎには10階層のボス部屋前に到着した。珍しくボス部屋前の扉は閉まっていて誰もいなかった。ボス部屋の扉が開くまで待っていた。
「どもー」
珍しく獣人の前衛っぽい装備の男が話しかけて来た。面倒にならなければいいなぁと思っていたら、その獣人の仲間らしき人が来ない。
「もしかしてソロですか?」カナデが聞く。
「そうなんだよ」
朱色の立派な盾が目につく。褐色の肌に黒い髪、白銀のケモミミが出ていて、カナデと同じで狼系統かもしれない。背丈も180cmを超えており、体の厚みもかなりあった。ただ、単純に脳筋マッチョというよりも、必要な分だけ分厚く膂力が高いことを想起させる。そんな身体と不一致な笑顔が気になるところだった。
「前のパーティー出たら入っていい?」
ソロで10階層まで来たのだから実力もAランク以上は確定である。どこまで潜るつもりなのかは分からないけれど、似たような10階層マラソンをしている冒険者なのかもしれない。
「ダメ、私がボスとやるから」俺が答えなかったからか、カナデが答えた。
「えっ、でも、お嬢ちゃんで狩れるの?」
「カナデです。あなたは?」
「失礼、アモンという。そっちのダークエルフは?」
「リヒトだ」
アモンから握手を求められたが応えないでいた。いきなり握られたら俺の手が潰れるだろう。
「ふーん。それじゃぁ、俺も一緒に入って見学していい?」
「ダメだと言ったら?」
『ラ・イド』を唱えるところを見られたくなかった。
「先に扉に入りたい」
「それもダメだと言ったら?」今度はカナデが言った。
「うーん、すぐ終わる?」
「すぐ終わらせる」
カナデが即答すると本気でアモンは悩んでいるようだった。何度も唸り声をあげ、所々「絶対俺の方が早い」と心の声がダダ漏れしていた。
「あのさ、その盾って『火炎の盾』か?」
さっきまで煮え切らずに考え込んでいたアモンが真面目に答える。
「あぁ、そうだ。『火炎の盾』は俺のお気に入りだ、おまえ・・・『火炎のローブ』か?」
「いや、たまに言われる。似てるらしいな」
「そうか・・・『火炎』を集めるのは俺の目標だ」
「剣とかは揃ったのか?」盾もあるんだし、と勘で言う。
「『剣』は誰も見たことがない。ヘルムはナビカ帝国の冒険者が所有しているはずだ」
「ふ〜ん」
そんなことを考えてたら扉が開いた。
3人で覗くと装備品が落ちていた・・・前の組みは全滅したらしい。
「残念だな、全滅か。相手は・・・おぉ!!ミニ・ドラゴンじゃん!!」
「やったぁ!!!行こう、リヒト」カナデがはしゃいで俺の腕を引く。
それを制したのはアモンだった。
「おまえらミニ・ドラゴンに2人で勝てるのか?」
「大丈夫だろ、カナデが戦ってダメなら加わ」
「ダメ、私がやる」俺に被せてカナデが言う。
かなりやる気満点だが『ラ・イド』なかったらダメなの忘れてないだろうか?
「なんかそっちの嬢ちゃんにも奥の手あるんだな」
「冒険者なんて似たようなものだろ」
「まぁ、確かに・・・死ぬなよ」
「大丈夫だ、ちなみに前のパーティーの装備は拾う必要ってあるのか?」
「倒したあとの心配かよ」
そういって笑ったアモンだが、「タグは拾ってギルドに届けるのが冒険者としての務めだろう」と話してくれた。どうも高ランクのタグは一部の闇市場で売りに出されたりするらしい。確かに、Dランク以上は街に入るときの税金も免除になるし、Bランク以上ともなればそれなりの信用も得られる。持ち主が死んだら間違いも中々正せないだろう。
ちなみにAランクは専用装備品と同じく魔法契約をするので、一般的に偽装はできないだろう。
そう説明するアモンは、油断はできないが悪いヤツじゃなさそうだった。別れ際には「最初、獣人を奴隷のように使ってるクソエルフかと思ったぜ」と笑顔で話していた。そういうクソエルフがいるかもしれない、ということだけ頭に入れておいた。アモンの発言にカナデも少なからず気になっている様子だった。
そこまで話して別れを告げ、俺たち2人だけでボスドアを入った。ボス部屋はいつもより温度が高いように感じた。




