2回目のダンジョン
朝の鍛錬を中止し、そのまま冒険者ギルドに向かった。
朝寝坊のカナデは「あと5分」とギリギリまで粘りを見せたが、「置いてくわ」と言った瞬間に「『ウォーターボール』だして!!」と顔を洗い始めた。ちなみにカナデは俺の前でも平気で着替えるから驚いた。前世だと考えられない行動であった。
「ほんとに行くのね」ヴェニチがジト目で俺たちを見る。
「まぁ、仕方ないよね。言ったんだから」エクモカはすっごい嬉しそうな顔だ。
以前はパーティー仲間だったのだろうか。そんなことを考えつつ、4人パーティーでダンジョンに入った。ちょっと本格的である。なにがってパーティーが。
ヴェニチは予想通りというか、魔法使いの装備だった。杖はアナライズで判定したところ専用装備品だったので、Bランクまでは間違いなくなっていただろう。
隊列は、エクモカ、俺、カナデ、ヴェニチだったが、途中から素材を拾いまくっていたカナデが最後尾になった。俺は5階層までは敵の遭遇するタイミング、数、種類をエクモカに伝え、撃ち漏らしたのを刀で手早く斬り倒していった。後ろでセッセとカナデが反復横跳びをしている。ある意味、戦闘よりも大変だと思うが、カナデはこの件で文句を言ったことはない。
「このペースで5階層のセーフティまで来れるなんて」
途中から話さなくなったヴェニチがサンドウィッチを食べながら話す。これも朝早くに宿のオヤジに作ってもらった品で、4人分の料金を俺がチップ付きで支払っている。しゃべらずにどんどん食べるカナデには別料金を請求する予定だ。
「ねっ、私が言うのわかるでしょ?」
「疑ってないわよ。それよりもどこまで行くの?」
「10階層のボス部屋までだよ」
「今日は私がボスと戦う!」
「そこはジャンケンな」
反論するカナデを無視してヴェニチにお茶をお渡す。ちょっとホッコリしたのか一瞬笑顔が出たが、すぐに警戒色を露わにした。俺はなにもしていないのだが・・・。さすがに今日はスカートは来ておらず、パンツルックだった。
「じゃぁ、エクモカリーダー、今日も5階層で連携確認して、一気に10階層ですね」俺が調子にのって言う。
「エクモカリーダー、今日もイイ声出しお願いします」カナデが被せた。
「なにそれ、あんた!」ヴェニチがツボにはまり大声で笑う。
周りの冒険者はヴェニチがギルド職員だと流石に知っていて、距離を置いていたが珍しいものを見た顔をしていた。
連携では、本当にエクモカの声が頼りになる。今回はヴェニチの水魔法もあるため、その効果は一層引き立った。マジでエクモカリーダーがいないとダメなパーティーになりつつある。ヴェニチもすぐに悟ったのか、エクモカの声に連携を合わせるようになった。
ちなみに最初にカナデの戦闘を見たヴェニチは「マジでランク上げないとダメだろ」と心の声をだだ漏らしていた。帰ったらランクアップの手続きをさせようと思う。その方が余計な絡みはなくなるだろう、戦闘狂は別にして。
そうやって階層をどんどん進むと10階層のボス部屋前まで来た。
俺の腹時計だと昼前くらいの時間で、他のパーティーは2組ほど待っていた。今回も先を譲ってもらいたいと考えていたら、ヴェニチが待っていたパーティーに話しかけていた。どうやら交渉してくれていたらしく、先を譲ってくれることになった。どっちかのリーダーと思われる戦士が「これで待ち時間が省けるなら喜んで行ってくれ」と気持ちよく譲ってくれた。お礼を言い、ドアを覗く。
「なぁ、あれなんだ?」
「・・・ヴェニチ、あれ10階層で出るの?」
「ん?・・・まずいね」
「なぁに?」
どうも座布団の上に大きな卵が載っていて、産まれて来るまで敵が分からないシステムみたいだ。なんか随分前にやったRPGゲームを思い出した。
「もっとも強い時は?」
「たぶん・・・ドラゴン」
「はぁ!!?成龍なんて出るの?」
「バカ!!ミニ・ドラゴンだ」
なにがバカなのか分からんが成龍じゃなければ何とかなるんじゃね?
「おまえ、ミニ・ドラゴンでギルド判定はA+だからな」
「成龍だと?」
「SS+以上だ。姿すらここ300年確認できていない」
「んじゃ、行きますか」
「私やっていい?」
「ジャンケンだ」
とりあえずドアを開けて俺とカナデが入る。すぐにエクモカが続き、エクモカが入ったことで諦めたヴェニチが最後に来た。入室後もすぐには卵は割れず、前回と同じシステムのようだ。
「んじゃ、先に『ラ・イド』を3人にかけるからね」
「これって・・・」ヴェニチが何か話しそうなのを止める。
「内緒でお願いします」ヴェニチに微笑むと、なぜか目線を逸らされた。
「今回は敵が1体なので俺がメインで、カナデはサポート。エクモカは声かけを頼む。ヴェニチはエクモカと一緒にガードして戦況を見ててくれ」
最後に、カナデに「マジで変なの射つなよ」と注意すると「デヘヘ」と頭を掻いた。言ってよかったと心から思った。フレンドリ・ファイヤとかしたらマジでぶっ飛ぶ。
「Let's ミニ・ドラゴン!!!」とカナデが声を出した。
「アフォなの!!ねぇ、アフォなの!?」ヴェニチが叫ぶ。
それを背に俺は走り出すと、俺の背丈の3倍はある卵に亀裂が入り割れた。
ピシィイイイイ!!
甲高い音がした
ひび割れた箇所から5つの爪が見え
鱗のある腕が伸びる
ドラゴンかと一瞬思ったが、リザード・マスターに酷似した鱗調の人型モンスターだった。
「大外れだ!!リザード・ネイチャーだ。体術を使うぞ」
叫ぶエクモカの声が聞こえた。
瞬間
首を傾げていたリザード・ネイチャーは一気に距離を詰め、俺に前蹴りを喰らわした。後ろに吹き飛ばされながらも『ファイヤ・アロー5』を詠唱し、追撃を防ぐ手立てにする。久しぶりに一方的に攻撃されたことに腹が立ったが、反応できた自分に成長を感じた。こいつ、オッさんオーク並みに強いかもしれない・・・。
よく見るとリザード・ネイチャーは体格は2m弱、手足が長く、頭部には派手なトサカがあった。柔軟性にすぐれたしなやかな肢体が武器だとすぐにわかる。あと、何気に爪が伸びてて切れそうだった。
「カナデ、手を出すなよ」下手に狙いを変えられると動きづらい。
刀を抜き正眼に構える
リザード・ネイチャーも構えた
魔力を出し惜しみせず刀へ通す
リザード・ネイチャーの躰が揺らぐ
すぐにサイドステップで前蹴りを躱す
そこへ突きを出すも
腕で逸らされ 左回し蹴りが飛んで来る
右手のガードが間に合う
ただ踏ん張りが効かず左に飛ばされる
魔力を右手に通してなければ確実に折れていた。リザード・ネイチャーは追撃せず、左回し蹴りの姿勢からゆっくりと戻って構え直していた。自分の血がざわめき立つのを感じる。
「リヒト、サポートいる?」カナデが声をかけてきた。その声に焦りは無い。
「あぁ、まだ大丈夫だ」
また正眼に構え
リザード・ネイチャーも合わせたように構え直す
次は外さない
リザード・ネイチャーが揺らぐ
蹴り足の軌道に刀を通す
刀は膝下を斬り抜いた
リザード・ネイチャーは片足立ちのまま
態勢を崩さず
左腕を小さく振るう
爪が頬を抉る
バックステップで距離を取り、『リカバ』と『ヒール』を無詠唱で使う。多分、毒爪だ。抉られた傷に違和感があった。
リザード・ネイチャーが細長い舌でチロチロと爪を舐めた。黄色い目の瞳孔に一瞬闇が深まったように見えた。
グァウオアオオオオ!!!
突然、咆哮をあげると斬り落とされた右足を生やし、そのまま躰を震わせていると背から腕らしき物が伸び始める。
『ラ・イド』
ダンジョン内の風景が灰色に溶け出し
すべてが遅く感じられた
リザード・ネイチャーだった魔物に
刀の筋を幾度となく通す
静まり返ったフロアに
『ファイヤ』の炸裂音が響いた
「すまん、やばかった」カナデの方を見て言う。
「リヒト、私が思うに、最初から『ラ・イド』を使うべきだよ」
思いつめたかのようにカナデが言う。
「なんで?」
「相手が格上だったら、慣れていないと話にならない」
カナデは言い切ると、魔石を拾いに向かう。確かにカナデの言う通り、自分の訓練のために使わずにいた結果、格上との勝負の時に出しきれずに終わったら意味がない。ただ、『ラ・イド』を使うと支援効果が別次元で、アイルランダーの北の森の猿(過去に逃げられた)にも余裕で追いつけるだろう。そうなると普段から『ラ・イド』頼りになってしまうのが怖かった。それも工夫次第かもしれない、前世の頃からカナデはたま〜に的を得たアドバイスをくれる。
一部始終を見ていたエクモカとヴェニチが走ってくるのが見えた。




