Let's beat ダンジョン
「いよいよ、カナデがCランクとは言い難い」腕を組んでカナデの戦闘を見ていた俺。
遭遇したのは同じくBランク混じりのオーク4体構成だったが、カナデは難なく1人で倒した。
1発目の矢に『ウィンド・アロー』
2発目の矢も『ウィンド・アロー』
この初弾と2発目の間が凄まじく早い。思わず見惚れてしまったのは俺ノートにセーブされた。前のページにはルイとのキスがある。まぁ、冗談はさておき、これだけでグリーンオーク2体は終わった。
そこからカナデは瞬間強化と『ウィンド・ウォール』を使ってブルーオーク2体を分離し、1体の背後に周り、難なくノックダウンを奪う。最後の1体は棍棒を振るうもカナデには遅いのだろう、素早く躱すと二刀をうまく操りブルーオークを分断した。
Bランクをソロで倒している。それはAランク相当を意味しているだろう。カナデのレベルアップが凄まじい。戦闘前まで俺は参戦できるよう準備していたくらいだ。
「カナデもAランクなんだよな?」エクモカが呆然した顔で俺を見る。
「いや、間違いなくCランクだ」エクモカの気持ちは理解できた。
「あれで?」
少し前まで俺にアイルランダーの訓練所でボコボコにされていたことを説明した。訓練メニューを簡単に伝えると「なにそれ、ゲボ吐く」と暗い顔で下を向いていた。冗談抜きに俺が抜かれかねないレベルである。感覚派はこうも化けるのかと感心してしまう。
エクモカの提案により、連携を確認するため6階層で少し戦うことにした。Bランクが少し混じっている程度で、俺もカナデも苦にならない相手だったが、連携を主眼に置いた訓練はいままでのソロ活動とは異なり勉強になった。特にカナデの『ウィンド・アロー』は詠唱が聞こえたら即バックステップしないと当たるので敵よりも怖かった。これほど耳に頼った戦闘もいままで無かった。
「正直言って、私がいない方がいいと思う」エクモカが切り出した。
「それだと今後の階層が不安だな」
「それは本当に同意」とカナデが即答する。
エクモカだけが「なぜ?」という顔をしている。
まず、俺らは即席パーティーで今日が初めて連携していることを伝える。そのバランスを取っているのはエクモカの声なので、抜けられると同士討ちの可能性があった。そのことを伝えると「マジであんたら即席なの?」と全然違う反応が返ってきた。エクモカよ、人の話を聞きなさい。
「だから、エクモカに一緒にいてもらわないと困る」
今は9階層にいて、少しずつBランクの魔物の比率が多くなって来た。
「だとしたら、次の10階層でボスがでる。そこまでならついてくよ」
妙に決心したような顔でエクモカが言う。フラグが立ちそうな気配である。
「そんな顔したらフラグが」
「だまれ、カナデ!!」
「なにそれ?」エクモカがキョトンとしている。
まぁ、そうやってワイワイしながら10階層を進んだ。いままでの俺の冒険はソロだったのでいろいろと新鮮だった。
隊列は俺、エクモカ、カナデで進んでいた。少ない的ならば俺の速攻とカナデの弓、数が多い場合はエクモカが1体引き受けて時間を稼いでいる間に2人で滅殺する流れである。2体くらいならエクモカも防御に徹底している限りダメージは受けていないようだった。
そうして暫く進んだところでエクモカが言う。
「ねぇ、カナデがバックにドロップ品を入れてるけれど膨れないよね?」
困惑した顔で聞くエクモカは、ほんとうは理解しているのに念のため確認したいのだろう。カナデのバックはずっと1階層から素材を入れ続けているのに形が変わらず不自然の極みである。
「マジックバックだよ。後で素材は山分けね」カナデは即答した。
「えっ・・・やっぱりマジックバックなの?」確認しておきながらエクモカは明らかに狼狽している。
「そんなに珍しいか?」
「当たり前でしょ!!ダンジョン街なら普通の街より高価で売買されるわ」
ダンジョンの荷物の運搬がネックになるパーティーは多いだろう。それ解消してくれるのだから確かにそうなるのは道理か・・・。エクモカに「アイルランダーに1個売ってたぞ」と伝えると服を掴まれた。そんなに興奮するネタだとは思わなかったが、金貨50枚と言うとエクモカは落着きを取り戻した。俺のお宝ローブにシワができる。
ん?それで5階層の安全地帯で視線を感じていたのかと納得する。堂々と皆の前でマジックバック使ってしまった。今更隠すこともできないが、エクモカもその時に止めてくれれば良かったのにと伝えたら「あっ、食事に気を取られてて気がつかなかった」と応えた。もしかすると大丈夫かもしれない・・・と期待しておいた。冒険者の優先順位が理解できた。
そうこうしているうちに10階層のボス部屋前についた。どうも安全地帯になっているのか、他に3組のパーティーが座って休憩を取っていた。
「おっ、ちょうど良く来てくれたな。これでボス部屋にいける」革鎧に片手斧、バックラー系の盾を装備した男が話しかけて来た。他のメンバーらしき人たちも立ち上がって土埃を払っている。
「なぁ、エクモカ。4組パーティーいないとボス部屋入れないの?」小声でエクモカに確認する。
「いや、10階層のボスは4組程度で倒すのが常套手段で使われている」
「君たちも早く休憩を取って準備ができたら教えてくれ」別の青いローブを着た魔法使いの男が声をかけてくる。青いローブもまたかっこいいな、俺のほどじゃないけれど。
「いや、俺たちは一緒にいかない」
「どういうこと?」青ローブの男は冷静に応えた。
「そのままだ。3人だけでボス部屋に行く」
そういうと周囲のメンバーが笑い出した。なんだかどこかのダライを思い出す。今は面白くないほど礼儀正しい。
「Aランクなんだし、なんとかなるだろ」と言うと静まった。
「うちらのことは気にしないで〜」カナデが緊張感もなく言う。
「おまえら、絶対に先にいけ」激昂した男が俺に言う。
「先に行ってもいいのか?」
「あぁ、その扉を覗いても行ければね」青ローブの男は少し怒っている様子だ。
エクモカが扉を覗き、ダッシュでうちらの隣まで来た。
「デクネスガードだ、アイツらはヤバイ」
「なんだそりゃ」
「リヒト、カナデ、いいから聞け!」エクモカが初めて怒鳴った。
エクモカが現役冒険者だった頃、最も進んだのは10階層で、ボスをなんとか倒してから帰還し、引退したとのこと。ここのボス部屋はランダムに決まり、1度ボスが決定されると倒すか、倒されてから一定時間過ぎるまでボスが変わらない。
今回のデクネスガードはギルドランクA、配下もBランク相当と大外れの部類である。先ほどのカナデが立てたフラグをしっかりと確認する。
「カナデ、おまえのせいだ」
「ごめん」
マジックポーチからシュエル特製のポーションを出し、エクモカに渡す。「危なくなったらすぐに使ってくれ。俺、本気だすから自分の身を守るだけでいい」と話す。エクモカは少し迷ったが、覚悟を決めて俺たちについて来た。
「おいおい、マジであいつら行くぞ」さっき大声を出した戦士が言う。
「おまえ、少し煩い」
強めの威圧を放つと簡単にオッさん戦士は失神した。周りのパーティーが騒ぐ。
「ごめん、こいつが悪い」カナデが速攻で俺を蹴飛ばした。お陰でボス部屋のドアに頭をぶつけた。
「さて、入りますか」カナデの仕切りで入るのが癪だが仕方がない。
「今のなんですか?」とエクモカが不安気に言う。
「単なる威圧だ」
そう応えてドアを開けた。




