挨拶周り その2
悲惨な目にあった。
冒険者ギルドに行く前に露天のおばちゃんの店に向かった。おばちゃんは「律儀な客だねぇ!」とまたもや背中を叩かれた。焼き鳥も食べおさめなのでお腹がキツイが4本ほど頼む。
「最初の頃、あんたがどんなヤツかと思ったけどね、わたしは」
あまり意図がない話で豪快に笑っていて、おばちゃんは俺にかまわず話を続ける。その豪気にケイトのことが洗い流された気がした。
「ところでどこに向かうんだい?」おばちゃんが何気なく俺に聞く。
「んー、ダンジョンに行こうかと」食べ終わった串をおばちゃんにお願いする。
「それじゃぁ、サードリア宿場だね」
案外情報通のおばちゃんにサードリアの状況を教えてもらった。
宿場の規模はアイルランダーには到底およばないが、物資はダンジョン産のため潤ってきているとのこと。ちょっと前までは集落だったのに現在は武器屋や防具屋ができており、それらの数もダンジョンのおかげで増えているらしい。需要と供給を考えれば栄えるのも分かる気がする。イメージ通りであれば。
ただ、実際にはダンジョンが出来たのは1年前くらいらしく、聞いた情報も古いからあてにならない、とおばちゃんは伝えてくれた。情報料金代わりに銀貨をチップとして渡すとニッコリと笑顔を返された。いままで一番いい顔してた。こっちに戻ってきたらまた買いに来ることを伝えた。
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冒険者ギルドは蒸し暑かった。いつものパブでなぜか競り市のようなものが開催されていて、ギルド職員が素材を手に冒険者たちに声をかけている。よく見ると立っている台もパブのテーブルだし、職員はザックだった。額に汗をかいて声を張っている。主観だが、いつもの「俺かっこいい顔」より今の方がイケメンである。
「あれ何やってるの?」
ルイが見当たらず受付カウンターにいるイカニに話しかける。
「リヒトさん!!なにしてたんですか!!!ルイさんがメチャクチャ怒ってましたよ。多分、逃げた方が・・・」途中でイカニの声が止まる。目線は俺ではなく、背後に向けられている。
「ルイなら大丈夫だ。いつもと同じく仕事に懸命に打ち込んで、それで『リヒトさん、いつもありがとう』ってやさしく言ってくれ」
最後は願望である。そして、そのまま振り返る。
「言うと思いますか?」感情が読み取れない表情のルイ。
なぜか体感温度が下がる。
「ケイトがAランクだった・・・」
「はっ?」
「だから、ケイトがAラン」
「リヒト、感電してパチっ!!ってなるよ」横を向けばケイトがいた。
前にルイ(推定:元Bランク)、横にケイト(推定:Aランク)、後ろにイカニ(推定:Eカップ)に囲まれている。全員美人だってことが共通項である。ただ、今の俺の状況の解決にはまったく役に立たない。
「言い訳を聞いてもらおう」
なぜかグウェンの声援が聞こえた気がした。
俺は切々と昨日騙されてAランク試験を受けさせられたこと。その意趣返しに北の森で狩をした成果をテーブルにならべ、ルイを仕事漬けにして夕食をドタキャンしたことを説明する。そして、最後に俺がやり過ぎたことを謝った。
口火を切ったのはイカニだった。
「ドタキャンとか最低ですよ、リヒトさん」
「いや・・・」
「だって、ルイさんがどんな思いで」
「俺だって」
「だってじゃない!!!」イカニが怖ぇ。
ほら、なぜかパブの競りの声も止まった。もう・・・俺・・・逃げたい。
「いま逃げたら尻パンチな」ケイトが淡々と言う。野球部のパイセンみたいだ。
「ルイ、今晩あいてる?」
「えぇ、喜んで」ルイに後光がさしている。
「じゃぁ、すまないけれど、前のお店頼める?」
自動で拝みそうになる手を精神力で抑止する。
「はい、かしこまりした」やっとルイが笑顔になる。
パブから盛大な舌打ちが鳴り響き、その後、ブーイングに変わった。なぜかお立ち台のザックまで親指を下に向けている。公平なギルド職員はどこにいった?
よし、おまえらいっぺんブン殴るぞ、俺は八つ当たりがしたい!!
そう思い向かおうとしたらケイトに肩を掴まれた。
「女性に内緒事はつきものだぞ」
「はい・・・もう絶対いいません」
「あと、弟倒したんだからしっかりね」
弟・・・?
ケイトが冒険者ギルドを出るのを見送る。『もう俺に近寄るな』とケイトの後頭部に念を込めまくっていると、赤髪が振返り「またね」と満面の笑みを残し去っていった。
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早めに宿に戻り、夕飯を断るとオーナーも驚いていたが「ルイとご飯」と伝えると笑ってくれた。正直、前回ほどのテンションの高さが自分に感じられない。なんだろう・・・倦怠期?始まってすらいないのになぁ(トオイメ)。メイプルには会えずに約束の時間になったので宿を出た。
ルイの父親の店に行く途中、あたりからは夕餉の匂いが漂っていた。ルイは少し遅れて到着した。少なくとも待たせるようなことが無くて良かった。やっぱり明日以降のことが頭の大半を占めているようで、ルイが綺麗にドレスアップしていても心の動揺が少なかった。
「リヒトさん、アイルランダーはいつ出ますか?」
前振りもなく、ルイがドリンクがテーブルに置かれたタイミングで聞いてきた。
「明日の昼前には出るつもりだよ」サードリアには3日後には着く計算だ。
「それまでに換金処理しますので冒険者ギルドに寄ってください」
「ん、了解」
「Aランクって何か制限とか優遇ってあるの?」
「すいません、リヒトさん。Aランクになることを望まれていなかったのに・・・」
「まぁ、自重は辞めたけれど、正直、北の森とかの制限を聞いて面倒になったんだよね」
冒険者の矜持は『自由』を全うすることだと思う。冒険者ギルドが無くても冒険者は冒険ができないとおかしい、それが俺の考えだった。もちろん、冒険者ギルドがあるお陰で身分保証を受けたし、報酬もきちんと頂いている。だが、ギルドは冒険者の身の保証をしないし、冒険者もそんなことは求めないで自己責任で行動する。どんな小さな選択もすべて冒険の集まりなのだ。
「帰ってこなければ死んでいるか、どこかに行ったと判断していいのでは?」
「その考えを否定しませんが、場合によっては捜索依頼もでます」
捜索依頼なんて考えが全くなかった。俺はダークエルフになってからどこかズレているのかもしれない。仮にグウェンやシュエルが帰ってこなかったとしても『死んだ』か『他のことで戻ってこない』としか思えない。もちろん、『死んだ』ら悲しいが本人は精一杯やったことは疑う余地もない。ただ、『助けよう』という考えに至らないのは実力の差を知っているからだろうか・・・。
仮にソウ達に何かあったとしたら・・・自分で選んだ依頼だとやっぱり放置だな。格上に攫われたとかなら間違いなく探す。やっぱり『自由』が中心にあるかどうかな気がする。
「まぁ、難しいところだね」
今回のサラダはとても美味しい。つい突いてしまう。
「リヒトさんこそダークエルフと思えませんよ」
「世間のダークエルフのイメージを知らないしなぁ」
豆がフォークに刺さらずに苦戦しているとクスクスとルイが笑う。
「まぁ、お互いに考えを押付けしないで、敬意を払えば世の中平和だよな」
「なんですか、それ」冒険者ギルドとは別人のようだ、ルイがよく笑う。
「ルイ、魔王って知ってる?」
「まさか知り合いとかですか?」テーブルの椅子が少し引いた。
そんなマズイこと聞いたか?
「いや、知らん」
「なんですかその不毛な問い」ルイは急にガックリきたみたいだ。
「これから旅するのに3国と魔族領の関係を知りたかったんだ」
ルイの長い溜息が漏れた。俺は森暮らしが長い世間知らずなダークエルフの設定だ。というか、そのまんまじゃね?という話もある。
「ほんっっと驚かせないでください」
「最後まで驚かせる冒険者で悪かったね」
言ってから自分の失敗に気がついた。
ルイが泣いた。
音も立てず、涙を流し
時々する瞬きが
テーブルクロスに後を残す
綺麗だなぁと思う。
「う”おい!!」
ですよねぇ。このテンプレな展開!!!
「すいません、泣かせました」お父さんの方を向かずに言う。
「いえ、ごめんなさい。リヒトさん」ナプキンでルイは涙を拭う。
「いや、今回は俺が明らかに悪い」
そこからはルイのお父さんも交えて食事をした。ルイは最初は反対していたのだが、元冒険者のルイのお父さんの冒険譚はやっぱり面白かった。「ルイのお父さん」と呼ぶと「リンドールだ」とぶっきらぼうに返ってきた。
「それなんども聞いてるから」というルイに、「うるせぇ、おまえに言ってない!!」というリンドール、親子の会話はどこでも一緒なのかもしれない。それを微笑ましく見ていると「聞いてるか!?」とリンドールにど突かれる。
なつかしい風景と、自分はボッチなのに孤独を寂しく思わないことに笑ってしまった。




