お客のアシライ
3/21 誤記修正
入るとすぐに依頼掲示板の前にルイがいた。やはりルイが仕事しているのを離れて見ると新鮮に感じる。
「なぁ、ルイ。リザード・マスターって何ランクだ?」
俺の笑顔とは対照的にルイの顔色が曇る・・・。
「まさか、リヒトさん、今度はリザード・マスターですか?」
ルイのコメカミがわずかに震えている。なんだろう、怒られるのか?
「前から思ってたんだけれど、ギルドの評価とモンスター評価って合わないのか?」
「どういうことですか?」
「例えば、グリーンオークはギルドでC+ランク、でもCランクパーティーでも討伐できるのは少ない」
「あぁ・・・リヒトさん。本当にそこから何ですね。モンスターのランク付けは4人パーティーの戦力を基準につけられてます」
「ん、んん?」
「Cランクパーティーでもパーティー内の全員がCランク相当とは限りません。そのため、CランクパーティーでもC+ともなると難しい相手になります」
「あの・・・それって、もしかして」
「そうです。リヒトさんはおかしいのです!!!」
なぜかルイがドヤ顔で俺を見ている。俺がいかにズレているか認識してくれたか?と言わんばかりの表情だ。でも、そうなると俺ってC+とかソロで狩まくってたのにランク上がるの遅くないか?
「それなら俺は4倍早くランク上がっててもおかしくないのでは?」
「あのですね・・・ソロでやる人なんて極々わずかです」
「その人達って?」
「SSSランクです。ギルドでは測定不能って意味になってます」
はぁ〜、そりゃソロに揚げ足取り(前の絡んで来た3人組とか)がでるのも理解できる。SSSランクに憧れてソロなんだろ?とか今まで思われてたのか・・・しばらく誰にも会わずにネットの海に浸かっていたい。
「じゃぁ、昼間の人は?」
「モーランさんもソロでBランクまで上がってますね」
「ふ〜ん、それじゃやっても良かったな」
「ほんとうですか?」
後ろから喜んで話しかけて来た。そもそも俺が戻るのをずっとギルドで待ってるくらいだからな。
「頼むからストーカーしないでくれ」
「すとかーって何ですか?」
「いや、模擬戦は1回だけにしてくれれば良い」
なんか急にドッと疲れがでた。こいつのスキルか?
「ルイ、訓練場借りるので手続き頼む」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ルイが訓練場を借りる手続きをしているとセルドまで観客席にいた。ギルマスの仕事はないのだろうか?そんなにサボると隣にいるルイに蹴られるぞ。結構効くからな(本人談)。
「それではこれより模擬戦を行う。モーランとリヒトはお互いの誇りをかけて行うこと」
ん?どういうことだ。普通の打ち合いじゃないの?
「それでは始め!!!」
よく分からない内に合図がかかり、モーランが剣の柄に手をあてる。
あっ、これヤバイ
瞬間的に全力でバックステップをする
さっきまで立っていたところにモーランが振り切った姿勢でいた
居合か?とロマン溢れる考察とかする余裕は無い。そもそもソロでBランクになるってことは、Cランク4人分の戦力以上はないと話にならないのだ。ランク間の圧倒的な壁である。そして、思うに下手したら死ぬ威力を放たれているんだが・・・。
「なぁ、これって決闘なのか?」なんとも緊張感の無い俺の声だ。
モーランも応えない。仕方がないので俺は木剣をマジックポーチから取り出す。もうマジックポーチ持ちがバレてもいい、刀だと手加減できずに斬ってしまう可能性がある。
「ほんとうに木剣なんですね」とローランの目が笑う。
やっと話したと思ったら武器の話題か・・・。えぇ、もうやりましょう。いろいろ面倒だし。ってか報告聞きにきただけなのに何で死ぬかもしれない模擬戦なんだよ!!
フッと短く息を吐く
ローランの剣先が揺れる
すぐに間合いを詰められる
木剣に魔力を通し
ローランの左袈裟斬りを流そうと
剣筋をずらす
その瞬間、俺が左方向に弾き飛ばされた
なんとか足で踏ん張り
土煙があがる
なんか殺気がないだけに防ぎにくい。あと、こっちも魔力を通してぶっ飛ばされるのは初めての経験だった。
「ははっ!!こりゃ楽しい」思わず顔がにやける。
試しにこちらから斬り込む
前に踏み込み
ローランが流しにかかる
それをわざと当てると
今度は右側に吹っ飛ばされる
なんとか踏みとどまるまでが1セットのようだ。さきほどと同じ状況になる。ローランの剣に当たるとこちらが吹っ飛ぶ。瞬間的に強化されている気配はなく、多分、剣の特性だと推測する。木剣で魔力を通すとグリーンオークですら軽いのになぁ。
Bランクから上は・・・オルトロスか。たまたま爪を切れただけだった。考え方を変えていかないといけない。ただ、魔法は使わないというか使えない。このレベルで有効になるものは相手を再起不能にする。魔物ならともかく模擬戦でやる内容じゃあない。
「なぜ魔法を使わない?」ローランが怒気を含める。
「いや、いらんだろ。そっちこそ本気だせ」
ローランの気勢が一気にあがる、こちらも上げないと動けなくなる。
木剣に魔力をこれまで以上に通す
力がなぜか俺に循環しているのを感じる
そのままローランに踏み込み
まっすぐに剣を振る
ローランが水平に受け
ギュィインン
擦れるような高い音が鳴り
ローランの剣が折れた
「うわっ!!ごめん、ローラン!!」大事な剣が・・・剣が!!!
「参りました」折れた剣を拾い礼をするローラン。俺も礼を返す。
「そこまで。勝者リヒト!!」セルドが宣言した。なぜかドヤ顔だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これが報酬金になります。そして、Aランク昇格おめでとうございます!!」
いつも対応されている2階の部屋でルイを待っていると、入ってきたルイの開口一番がそれだった。トレイには金貨30枚と冒険者タグがある。セルドも遅れて部屋に入ってきた。
「ルイ、説明を求める」
「まず、Aランク昇格試験として同じBランクと戦い、勝利が求められます。それと、順番が前後しますがBランクとしての討伐回数や回収した素材など、ギルドの採点を一定以上満たす必要があります。ここまでいいですか?」
「よくねぇ!!!」
そんな俺の言葉とは裏腹に満面の笑みでルイがこちらを見ている。うぅ、かわいい・・・。
つまりハメられたのが良くわかった。Bランク同士の戦いはAランク昇格に必須で、俺は知らずにやらされたわけだ。構えもせずに始められてローランに大変失礼だったと今は思う。
「せめて少し説明してからやってくれないか?」
「でも、それならリヒトさんは受けないでしょ?」
「まぁ、確かに?」
そんなやりとりをしているとセルドが吹き出した。
「ルイに先回りされたんだから諦めろ。リヒト、Aランクおめでとう」
なぜか握手を求められたのでゴリラ握手と笑顔で対応する。おっさんと握手する趣味はない。
「それで報告書の方は?」俺の今日の目的は報告書だ。
「ここにあります。説明が必要ですか?」
「うーん、必要ないかも。もう遅くなったし貰うよ」
受け取った報告書をマジックポーチに入れてる。トレイの金貨も3枚を報告書支払いに回し、残金と新しい冒険者タグもしまう。
「えっ、今日の夕飯はご一緒では?」
「その予定だったんだが・・・ルイは仕事で遅くなるし」
「いえ、今日の仕事はこれで終わりです。ねぇ、ギルマス?」
ルイがセルドの顔を見て確認し、セルドは首をかしげる。
「これをお願いします」できる限り静かに言う。
マジックポーチから最近討伐した北の森の魔石と素材一式をテーブルに置く。幅広いテーブルの一面がフリマの店みたいになった。
「明日夕方の精算でいいからね」ひっさびさの会心のドヤ顔をする。
「それでは失礼します」と軽いスタン状態の二人の横を通り抜け、隠密セット全開で宿に戻った。職員用のドアを開けたところで罵声らしきものが聞こえた気がした。だがそれも街の喧騒にすぐにかき消された。




