旅立つ準備
アイルランダーを出ることを決めた翌朝、変わらない朝練をしているとソウが近づいて来た。
「リヒト、もし旅先で『ベグード』ってヤツに会ったら逃げろ」
ソウの表情は冗談ではなく、本気で俺を心配して『逃げろ』と言っている。
「そいつは何なんだ?オトハになにかしたのか?」
「すまん、それは俺からは言えない。ただ、元クラスメイトの江國正孝がエルフになっている」
江國と言われ、思い出したのは郷田達にイジメられてた同級生だ。なにかいつもハッキリしない態度だった印象しかない。郷田達には『エグマサ』と呼ばれていた。
「その江國がどうした?あいつをぶっ飛ばせばいいんだろ?」自分がイラついているのが分かる。
「俺が『焦った』原因がソイツだ。体術使いだが成長の仕方がおかしい。今の俺でも勝負にならないし、リヒトでもやられると思う」
朝霧に包まれた街はまだ静かだ。
ソウは詳しく言わない。もともと言うヤツでもないし、それがソウの良いところだ。最初に3人に会った頃の暗い様子はそのせいか・・・。
「もしかして、俺がダークエルフだから最初の頃の様子がおかしかったのか?」
「・・・多分、それで合ってる」
「じゃぁ、目的がもう1つ増えた」
どうも自分の身近な人間になにかあると腹がたつのを抑えられない。
「リヒト、頼むから覚えておいてくれ『逃げて欲しい』と言っていたことを」
「わかった。サンキュー」
朝練が終わったのに体の熱が抜けない。戦闘における冷静さの重要性を知りながらもコントロールができないでいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そこからは日々が加速的に過ぎていった。
3人は西の森でオークを倒し続け、実績を確実に積み上げていった。俺はもう街から出るのを前提に北の森を中心に討伐に明け暮れていたしていた。もちろん、北の森の魔石はギルドに持っていくとルイを困らせるのでマジックポーチに収納している。
そして、武器を依頼して6日目の夕方、帰って来たところでメイプルから「ギルドが武器できたってー」と伝言を伝えにきた。テーブルに先に着いていた3人もすでに聞いていたらしく目が輝いていた、主にソウだけど。
「明日楽しみだな!!」
「あぁ、これでもっと上を目指せる」とソウが答える。
「杖ってどれくらい魔法を助力してくるのかしら」
「でもオーダーって言葉だけでも嬉しいよね」
平均的にオーダーで武器を頼むのはCランクの上位あたりからなので、ソウ達が装備するときにCランクに上がっていたのは嬉しい誤算だった。ちょっとした昇格祝いになった。
「ほんとに代金はリヒト持ちでいいの?こういったら何だけれど、私たちも少し稼げるようになったんだよ」遠慮がちにオトハが言う。出会う前に比べたら顔色も装備も異なるのだから、ちょっとしたキッカケで成長できる世界ではある。
「昇格祝いも兼ねてだな」
「ありがとう、遠慮なくいただくね」
「リヒト、サンキュー」カナデは軽いノリだ。
もうすぐ俺が旅立つことは伝えている。最近では風魔法の報告書を読んだカナデの飛躍がすごいらしく、案外、獣人なのに魔法も適用しているようだ。なんか脳筋ってイメージがあったの違うらしい。というか、魔法適性は当人のイメージに左右されるところが大きいと思う。
お茶で乾杯し、健全な高校生みたいな騒ぎっぷりをした。こないだ絡まれたビューリ(俺の暴言による)には謝ることもせず、ただ仲良くエールをご馳走することにした。ダライのアドバイスが功を奏し、なんとか無事乗り切ることができた。これで俺のアイルランダーの杞憂の1つが消えたことになる。




