でも、デモ、でもどって
ギルドに着くとルイが2階の階段を降りてくるところだった。昨晩のディナーを思い出し、俺は恥ずかしくなるもルイからはそんな雰囲気を感じない。あの後、ルイのお父さんに殴られそうになったところをルイに止められたんだが・・・。
いつも通り2階の部屋に通される。
「おはようございます、リヒトさん」伏目のルイが言う。
もう昼である。脳内で『朝来ませんでしたね?』という自動翻訳と危険のアラートが発生する。ふと、グウェンと今まで以上に仲良くなれる気がした。
「おはよう、ルイ。報告書、ありがとう」なんだか単語しか出てこない。
「それで今日はどのような?」
「ん?報告書は?」
部屋の空気が重く感じると、ブツブツとルイが言う。
「リヒトさんが帰った後、父が私に『俺が出て行かなかったら拾ったか?』と何度も言うんです。そりゃリヒトさんはキレイですし、礼儀正しいのか悪いのか分からないところがありますが、拾ったら大人ですもの、大人な関係になるわけで、父親が怒ってるのか笑ってるのか分からない表情で、しかもお客さんの前で言われ続ける私の身にもなってください!!!!」
ごめん、聞き取れない。
とりあえず、立ち上がり俯くルイの猫耳を両手で掴む。上質なベルベット生地のような触り心地でつい揉んでしまう。
「まぁ、あまり怒るな。美人が台無しだ」
ぐふっうう
「はぁーーーーっ!!すっきりした」
両手で軽く揉んでいたため、ガラ空きの銅にオッさんオーク級の衝撃があった。断言するが、ルイは格闘系冒険者だったに違いない。あと、悔いはない。
「報告をお願いします」
よろけながら席に着く。スッキリしたルイが報告書の内容を俺に説明してくれた。
まず、風魔法についてだった。基本的に攻防のどちらにも対応できる魔法で使い勝手は良い。中級魔法上位クラスまで魔法詠唱と効果まで説明がつけられている。これはかなり嬉しい!!知らない魔法も唱えることができるし、逆に相手が詠唱した場合の対処もできる。なんでもっと早く調べなかったのだろう、と後悔した。
「それで時空魔法ですが・・・」
ルイが戸惑いながら俺に報告書を渡す。
渡された報告書の3枚目は厚く、魔法陣が記載されている。1枚目は風魔法と同じ構成で、その魔法の特性が大まかに記述されている。2枚目は実際に使っていた魔法使い名と開発アイテムが載っている。そこまでは風魔法と一緒なのに、時空魔法の報告書はたった3枚で終わったいた。風魔法なら5枚目以降が詠唱魔法名が載っている・・・。
「それで全部なんです」
手にとって俺は考える。ルイは俺がいくら巫山戯ても仕事で手を抜くような人ではない。ということは、時空魔法の報告書はこれで完成なんだ。時空・・・じくう・・・。
「1つだけ確認したい。この報告書はルイが作った?」
「いえ、私ではありません」
「わかった。ありがとう」
すぐに宿に帰って確認したくなったのを堪え、ルイに追加の調査依頼をする。
「今度は回復魔法と光魔法の報告書を依頼する」
「ほんき・・・ですよね?」
「金貨3枚でも問題ないよ」
「7日ください」
「うん、10日くらいいよ。武器ができあがるのそれくらいだし」
ギブリのあの感じだと7日では武器製作はできないだろう。しばらくグリーンオーク狩りに精をだすか・・・。
「リヒトさん」
「なに?」
「・・・何かないのでしょうか?」
あぁ、ルイは時空魔法の報告書で気を病んでいるのか。ギルドの応接室は秘匿性が高い・・・宿より良いか。
「秘密を守れよ」ルイなら大丈夫だと思うが確認する。
「はい」ルイがまっすぐこちらを見る。
俺は時空魔法の報告書の3枚目をテーブルに置き、そのまま時空魔法をイメージした魔力を魔法陣に照射した。すると魔法陣は少しずつ崩れ、生き物のように1枚の分厚い紙は5枚ほどの用紙になり、文字が次々に浮かび上がった。
「これはすごいな・・・」予想が当たったことよりも組んだ魔法のレベルの高さに驚く。
「えっ!!?」ルイはさっきまで顔が赤かったのに今は青ざめている。
「間接依頼になる理由がこれだ」
ルイはまだ目の前の起こったことを理解していないようだ。
たぶん、時空魔法の関連書物は冒険者ギルドが秘匿している。どこに行っても時空魔法の情報は無く、間接依頼でギルドにお願いすると、ギルドにマークされる代わりに情報が得られるのだと思う。当然、この魔法陣はギルド側の時空魔法使いが組んだものだ。
このレベルになると俺の姿形とか魔力まで記憶されて、転送されているのかもしれない。シュエルにある程度習っていたがまったく読みきれなかった。
まだ事態を掴めていないのか、ルイはこっちを見ている。
「リヒトさん?」
「なに?」
「・・・何かないのでしょうか?」
瞬間的に理解しゾッとした。
「それじゃぁ、その後ご飯だな」
「良いんですか?」パッとルイの表情が明るくなる。
「その前に猫耳をもう1回揉ませて」
そう言うとルイが両手で猫耳を隠した。その姿、むしろご褒美です。
区切りがついたところでルイが先に部屋のドアを開ける。開けるとギルマスのセルドがいた。
「よぉ、坊主。ちょっと用件があるんだが」柔かな表情で言う。
「あぁ、ちょうど俺も相談があったんだ」
「では、私も」と部屋に戻りかけたルイにセルドが声をかける。
「いや、ルイは下に処理してもらいたい仕事があるから、そっちやってくれ」
セルドと初めて二人きりになった。同じ部屋なのにルイの時とは別の空気が流れた。




