減点からのディナー
3/21 誤記修正
お店には約束の時間前に着いた・・・と思う。というのも、今更だけれど時計など見たこともない。なんとなく日没からどれくらいって感覚でしか指定されないのだ。
あっ!!今日の昼過ぎにギルドで報告聞くの忘れてた・・・。
しかも忘れてた相手が来るという俺、オワタ。
路地裏の
石を蹴飛ばし
防壁に
傷をつけては
連れ去られ(衛兵に)
悲壮な気持ちを詠んでいたら後ろから声をかけられた。
「なにを店の前でブツブツ言ってるんですか」
「ごっめん!!昼過ぎにギルドに」
「リヒトさん、お店に入ってからにしましょ」やさしいルイの笑顔。なぜか猫耳は後ろへ尖っている。
ドアを開け、ルイの手を握り先へ通す。メイプル先生の教わった通りの所作を実践する。イメトレだけなら前世でもしているから問題はない。ルイが少し驚いていた。
「リヒトさん、慣れてますね」
「減点から始まったから必死だ」
本気で言ったのにジョークと受け取られてルイに笑われる。
ルイはいつものパンツルックではなく、スカート姿が新鮮だった。少し先へエスコートする身長は俺より少しだけ小さいけれど、スタイルは良い。髪も今日はオールアップに巻いていて、髪留めがキレイな宝石で飾られていた。ぴょこっと出てる猫耳が硬質な美人に柔らかさを滲ませている。
なんとなく髪留めは誰かに貰ったものだと思う。
案内された席について遠慮なく見る。ガン見注意である。
「ルイはキレイだなぁ」としみじみ。
「なに言ってるんですか、リヒトさんこそキレイですよ」と笑っている。
さすがに最初の頃のようにガン見してもお互いにダークエルフ、獣人という偏見や差別を感じることはない。というか、この世界の偏見や差別を俺は知らない。カナデも差別を受けたりしなければいいけれど。
「今日の髪セットはメイプル先生だからね」
「だって、周り見てください。案内されてる最中に見られているの気づいてます?」
急に小声で言う。前傾姿勢になるもんだから・・・眼福です。
「いや、ルイ見てたんだろ」
前世のモデルよりモデルにしか見えないし、周りのまとっている空気が別格だ。ギルド職員って美男美女が多いけれど、ルイはそれを普段抑えているのだと思う。真逆だとイカニのように胸のボタンを開けている職員もいる。俺個人としては、どちらも正解だと思うしスタンスの違いだけだと思うし、どちらかを非難する気持ちもない。
「ここがギルドなら蹴ってますね」とほんとうにルイがよく笑う。
「今日は眉間にシワがないから蹴られないよ」
「料理はなにがおすすめ?」ホールスタッフに聞く前にルイに聞く。
「おまかせが良いと思います。いつも美味しいですから」
「いつも美味しいか、誰と来てるんだかねぇ」
ホールスタッフにおすすめで注文をする。ドリンクはルイのオススメでお願いする。
「それ言います?」いつも以上に笑顔なルイ。
「正直、髪留めも気になる。」ど直球で行くことにする。
「どうしたんですか、リヒトさん!?」少し困った顔をした。
「ほんとルイには感謝してるんだ。ピコ鳥の休息を紹介してくれなかったらメイプルやマスター、ゴダラスの翼の連中にも会えなかったわけだし。街を好きになることもなかく、他の街に行っていたかもしれない」
配膳されたワインをお互いに傾ける。良し悪しは分からないが美味しい。
「それは仕事ですからね。じゃぁ、慰安ということでご馳走になります」首を傾げてぴこぴこ猫耳が動く。
「いただきます。とても良い匂いだね」
それからたわい無い話が途切れなく続き、食事も美味しく、ワインは潤滑剤として話を盛り上げてくれた。店は静かだけれど、テーブルを囲う人々が楽しんでいる雰囲気が満ちている。前世でもこんな素敵なレストランで食事をした経験など無いが、すこしだけ余裕が出てきて周りを見れるくらいになった。
テーブルは5卓設置されていて、隣とは会話が聞こえない距離と顔が見えない配置になっている。キレイな床と壁、いくつかのワイン、見たことが無いお酒がカウンターに並んでいる。
「あれ、ルイ。ごめん、席間違えてた」
「今それ言うんですか!!」
もう料理はデザートの時間になっていた。前世と一緒なのが最後にデザートが出ることだった。
「そういえば、オウヒメイチゴが賞品の模擬戦って初めて見ました」
「あれはケイトがぶっちぎりだった」
正直、あそこまで強いとは思っていなかった。馬車移動の道中に手合わせをしたが「リヒトさんは魔法をつかっていいですからね」と言ったケイトを思い出す。おまえは雷魔法使えんじゃん・・・。
「ケイトさんとはどこで?」ルイも酔いが回っているのか赤くなっている。
「アイルランダーに入る前に街道で馬車に乗せてもらった」
「そうなんですね。何泊か?」
「あぁ、なんか勘違いしてて俺を世捨て人?世捨てダークエルフだと思ったんだって。心配になって話聞こうと思ったら普通に冒険者だったってオチ」
「なんですか、それ。リヒトさんなら落ちてたら拾いますね」
「じゃぁ、いま俺を拾え」
「・・・」
「あっ、捨てられた・・・」
上品な甘いデザートとヨーグルト?らしき物を頂きながらルイを見るもなにも答えてくれない。そんな時に横にスッと人が立つ。
「ゴホッ、今日はいかがでしたかな?」
見上げると料理長なのか、料理帽をしていた。ただ、鎧をきたら前衛職なのは間違いないほど鍛えられた体格だ。
「どれも大変美味しく、素晴らしい食事をいただきました。なによりも、お店の雰囲気が静かで、でも、皆さんが食事を楽しまれているのが空気に漏れていて、ルイと一緒に過ごせて幸せな時間でした」
そう答えると料理長は吹き出して大声で笑い出す。なぜか、周りのテーブルからも笑い声が漏れている。
「お父さん、ちょっとやめてよ」と中腰で止めようとするルイ。
おっ、お父さんって言った!!!
「ルイ、お父さんなの?」
「そうだ、私がルイの父親だ」
「娘さんに捨てられました」
「捨ててません!!」
「じゃぁ、オッケー?」
「ダメに決まってるだろ!!!父親の前で」
「お父さん、うるさい!!!」
さっきまでの静けさは消え去り、テーブルの人たちも事情を知っていたのだろう笑顔で料理長を見守っている。というか、おもいっきり笑っている。なんか、こういうお店が異世界にあるだけで前世と等しく価値があると思える。結局、俺の深い闇である、「GO!GO! 送り狼も『サーチ』&『ハイド』計画」は当然防がれたのは言うまでも無い。




