悟り上司と侍女
朝の鍛錬を終えて食堂に行き、メイプルに夕飯は要らないことを伝えると、「朝帰りはやめてね」と母親みたいなことを言われた。9歳のメイプルにそんなことを言われて一瞬動揺する俺もどうかと思う。
朝ごはんを食べながらメイプルに聞かれた。
「それで今日はどこでご飯なの?」雰囲気はいつも通りなのに目が鋭い。
「『ダ・ビュオレ』っていう名前のレストラン。知ってる?」
なぜか厨房から声が聞こえた。どうした、マスター?
「パパが前に勤めていたところだよ。あそこは美味しいよ!」とメイプルが太鼓判を押す。
「ほんと!?メイプルが言うなら間違いないな。って、ドレスコードあるの?」
9歳に相談する俺・・・。いいの、メイプルだから!!
メイプル@できる子にレストランの雰囲気とオススメの服屋さんを聴く。食堂を出ようとすると「ちょっと待って、今日は気合を入れるから」とメイプルが腕まくりをして俺の髪をセットする。ボソボソと「リヒトに恥はかかせない」と呟いている、大丈夫かメイプル!!
セットも終わったので、イチゴもどきの代わりにチップを渡そうとするとメイプルに拒否された。首で出口を指し、「もう早く行きなさい!!」と娘(俺)をデートに送り出す母親みたいだった。
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オススメの服屋はメインストリートを北に進んだところにあった。あたりは閑静な住宅街で周りの建物も規模が大きく、装飾も凝っている。門のある家まであり、この辺りを歩いたことがないことに気がつく。
「結局、街を出る門と森、それと宿の往復ばかりだったもんなぁ」とアイルランダーに入ってからの生活を振り返る。ルイとの食事は気分転換や視点を変える上でも良かったかも知れない。そう思って歩くだけでも少し気が晴れた。
「こんにちはー」と重そうなドアを開けると、コンシェルジュが話しかけてきた。最初は俺に驚いていたようだが、今日の食事する店を告げ、それに合わせた服装にしてもらいたいことを伝える。するとコンシェルジュは侍女を呼び、二人でテキパキと服を奥から持ってくる。
紳士然としたコンシェルジュと次女が凄まじい勢いで服をテーブルに並べ始めた。その様子に俺が唖然としていると侍女がガン見していて「あっ」と短く声を漏らした。
そこからの侍女の熱意はもう俺には理解不能だった。よく分からないがコンシェルジュも諦めた様子で、最終的には侍女に頷くだけだった。コンシェルジュ、上司だよね?
俺は今日の夕食用(暗に1着)と伝えたのに大きなテーブルには20着以上並んでいる。しかも上下ペアで。俺は貴族でも何でもない野良ダークエルフだ!!並べ終わった侍女は誇らしげに額に汗までかいていた。
「あっ、あの・・・じゃぁ、これとそれ、あとアレを」とその中から5着も買った俺はバカなのでしょうか?気が弱くもなるよ、侍女の方の目が鷲みたいなんだもん。そんな俺の気持ちを汲み取ったのか、コンシェルジュが何度も頷いていた。
結局、金貨2枚ものお金を服に払うことになった。会計をすませようと移動したところ、カッコイイ革のバックがカウンター奥に置いてあり目につく。
「あのバックは売り物ですか?」
「はい、売り物でございます。少しだけ空間拡張が付与されております」
マジックバックが高級服屋で売っていることに驚いたが、考えてみると貴族とか豪商人たちが買うのかもしれない。
「初めてで失礼にならなければ良いが、譲って頂けますか?」できるだけ丁寧に伝える。
「金額は金貨50枚になっております」
「そうですか・・・考えさせて頂きます。決して冷やかしではありません」
「いえいえ、お客様であれば十分に購入も可能と存じます」とコンシェルジュが応えた。
自分のどこを見てお金をもっていると判断しているのか謎だが、周りに相場を聞いてからでいいだろう。ケイトに聞きたいところだ。
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着替えのため宿に戻ったがメイプルの姿はなかった。オーナーにメイプルに渡すよう包装ごと渡す。中身はかわいい上下の服だ。あまりに待ち時間が長く店内を見渡していたところ、『The メイプル用』といわんばかりの服があったので買ってしまったのだ。
自室で買ったばかりの服に着替える。シンプルなグレイのパンツに仕立てのいい白いシャツ、軽いガウンみたいな銀の服が今日のコーディネートとなった。一応、腰に帯剣できる皮ベルト(魔刀付き)、ローブは装備している。もっとも時間を取ったのは、鎧をマジックポーチに入れることだった。他の買った衣類を自室に置いて外に出た。
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もう夕暮れ時で急いでイヴォーグの店にいく。カウンター越しにイヴォーグが見えたので声をかける。
「どうした、息まで切らして?」
「あの、前のローブの借りを返したくて。これ受け取ってくれないか?」カウンターにオルトロスの爪を静かに置く。
「んっ・・・これは」と手に取ったイヴォーグが途中で言うのをやめ、俺の目を見る。
「昨日戦ったが爪を斬り落としたら逃げていった」端的に話す。
「おいおいおい、おまえ、そこまでいってるのか!!」
「いや、ギルマスにも近いこと言われたけどさぁ」
「まぁ、気持ちは分かった。それじゃぁ、1番良い1本だけ貰っておく」
長くて大きい爪をイヴォーグが手に取った。
「残りはギブリに持っていけば良い」とイヴォーグ残りを俺に返した。
「いいのか?」
「こないだの鎧、間違って判定したからバカにしてやったんだ。それでちょっと凹んでるから丁度良いだろう。多分、クソドワーフが良い武器を作ってくれる」
やっぱりエルフとドワーフ不仲説はあるのか?二人の雰囲気だと楽しそうだけれど。
頭を下げお礼を言う。クーデもなぜかお礼を俺に言うとイヴォーグに叩かれていた。
外に出ると日は沈み、街には明かりが灯り始めていた。慌ただしく時間が過ぎて行き、約束した時間がくる。
ダ・ビュオレに向かって走りだした。




