火炎魔術師とローブ
朝の鍛錬を行う。あれだけ盛り上がった晩だが、きちんと早起きできる自分を褒めたい。
体が温まったところで刀に魔力を通す。ヒィーーーンと微かな高音が鳴る。どれほど切れ味が増すか分からない。魔力を維持したまま、いつも通りゆっくりと刀を水平に通す。淀みなく、次の動作の流れを意識し刀でなぞる。
いつも以上に没頭し、汗も吹き出していた。結構消耗することが分かっただけでも収穫がありだ。木剣とは違う感触がある。もしかすると、魔剣それぞれに特性があるのかもしれない。
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朝食を食べているとメイプルが話しかけてきた。
「リヒト、あの3人も今日からうちに泊まるって」
にこにこしたメイプルの頭を撫でながら、しっかりマスターに胃袋を掴まれた3人の気持ちを察する。
「ここの料理は美味しいし、かわいい看板娘もいるから泊まりたくなる」
「リヒトはほんっとキレイだね」メイプルは椅子の上に膝立ちしている。
「空いててよかったな、あの3人」
「そのまま同じ部屋で泊まってもらってるよー」と事もなげに言う。
まぁ、オーク5体相手でも余裕で対処できたし、Cランクにすぐになるだろうから収入も問題ないか。
「ここに泊まると冒険者は出世するかもしれないな」
「しゅっせってなぁに?」メイプルはまた俺の髪をいじっている。
「美味しい料理を食べるために頑張り、時には安全を考え、撤退する判断を即す。嫌なことがあれば皆で騒いで忘れ、良いことがあれば皆で宴で騒ぐ。ほんとにいい宿だ」
「できたよー」とメイプルが言う。鏡がないから分からないが出来栄えは良いみたいだ、メイプルが俺を見て頷いている。
「じゃぁ、行ってきます!!」
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イヴォーグの店に行きドアを開けると、前の感じの悪い店員がいた。
「イヴォーグはいるか?」
「おまえがリヒトか?」と店員は俺の言葉を無視し聞き返してきた。
「そうだ」なんでこんな態度なんだ、こいつは。
「おっ、来たか」店の奥からイヴォーグが出てきた。
「できてる?」
「あぁ、久しぶりにいい仕事ができた」美形エルフの笑顔は眩しい。
「し、師匠?」
「あっ、弟子だったのか。態度悪いし、なんだと思ってた」
「おまえに何がわかる!!」煽り耐性が無さすぎる、店員にはむいてないだろう。
「ローブは?」弟子を無視した俺が言う。
「そうせかすな。クーデ、あれも取って来てくれ」
「まさか、師匠、こいつに渡すの?」
「ほぁああ、もう眠い。早くしろ」
リザード・マスターの軽装鎧は前よりも磨きこまれており、修復箇所は修繕よりも強度が増すような施しがされていた。
「あのさぁ、俺は素人だからよく分からないんだけれど、イヴォーグ、ありがとう。すっげー大事な人から貰った鎧だから、こうして大事にピカピカにされ、補強されているのがすごく嬉しい」
想像以上に自分がこの鎧に愛着があるのが改めて分かった。すぐに装備をし、可動部分の干渉を確認する。
「大丈夫そうだな」
「あぁ、完璧だ」
「そうそう、リヒト。前に言おうと思ったが、基本的に前払いで支払うヤツはこの世界にはいないぞ」
どうやら前金を一部払うことで修理を依頼し(契約成立)、依頼者が死亡や取りにこなかった場合は、それを売り払って補填する仕組みらしい。逆に前金全部を支払うと、踏み倒される事(直して売られる)もあるため、よっぽど信用がないと成立しないとのこと。ちなみに高額な取引になると魔法契約をすると教えてくれた。それで全額前払いした時にイヴォーグが笑ったのだと納得した。
カウンターに広げられたローブは全体的に赤く、精巧な銀と青の模様が所々に刻まれている。遠くから見ると、その模様がなにかの牙のように見えた。生地の感触が非常に手触りがよく、安心感もあった。一瞬で高額な値段が頭に浮かべた俺は『アナライズ』した。
○火炎のローブ
火魔法上昇(中)
火耐性(中)
咆哮耐性(小)
水魔法防御(小)
こないだ店に並んでいたローブより効果が高いんですけれど・・・。
「なぁ、その『火炎のローブ』って俺に買えるのか?」と言うとイヴォーグがびっくりしている。
「あははは、おまえ分かるのか」美形エルフが大爆笑している。クーデはきょとんとしてる。
「いや、だから金額的に無理かもって相談をだな・・・」
ほんっとよく分からんエルフだ。弟子も固まったままだ。
「予算は?」
「金貨10枚以内だった」
「じゃぁ、10枚で」
ほんとに大丈夫か?と何度か聞いたところで「眠たいんだからさっさと行け!!」と怒られた。笑ったり怒ったり忙しい店長だと思ったのは内緒である。原因の一部は俺なわけだし。なんとなく申し訳ない気持ちのまま店を出ようとすると、クーデから丁寧な謝罪を受けた。
さっそくローブを纏うとすぐに変化を感じた。鎧も直り、新しいローブでテンションが上がった俺は予定を変更して北の森へ向かった。




