教育的指導 その③
訓練を開始して4日目の朝、つまりダッシュで移動の時間である。
訓練の成果が少しずつ出てきており、ことダッシュに限って言えば、カナデは風魔法と瞬間強化を繰り返す事で移動速度が急激にあがった。ソウ、オトハも同じく体力が上がっていて、訓練場に着いても息があがらなくなっている。
俺が思うに、こっちの世界は前世の筋肉痛などは関係なく、努力した分の見返りが非常に高い。鍛錬すればするだけ成長を感じることができるのでモチベーションも維持できる。
「今日も個別鍛錬をやった後、模擬戦をする」と教師的な振舞いをする、イケメンダークエルフの俺。キャラがまるで違う感じになっているのは、明らかに明後日の初デートのせいである。まじで思春期か!?って感じだ。7歳ですから思春期ですけれども。
訓練をやって最も効果が出ているのはカナデである。もともとが感覚よりの性格をしているから、この世界にきてから魔法の使い方や瞬間強化にどんどん適用していった。そんなカナデに「なんで今までやらなかった?」と聞くと、「だれも教えてくれなかったし、教わる余裕も無かった」とドヤ顔で回答してきた。
ちょっとムカついたので軽く蹴飛ばそうとしたら、それを躱すくらい成長していた。むぅ、カナデ侮りがたし。
最も変わったのはソウだ。デートが決まってから問答無用にボコボコにし、現状の実力だと何回でも死ねるのを徹底的に覚えさせた。最初は反抗する様子があったがすぐに自分の実力が分かり、そこからは転生前のソウに戻ったかのように静かで太い人間になった。
伸び悩んでいるオトハが今日も魔法の訓練をしている。明らかに『最適解』に執着しすぎである。地球の条件を基に答えを出そうとすることがそもそも無理な話である。なのに、それに気がついているのに、拘りを手放せないでいる。明らかに転生前の悪い癖がでている。現在の状況と環境を受け入れないと始まりさえしないのに、オトハは受け容れられずにいる。
「ちょっとヒントな。俺は魔法の後に数字を言うと回数を増やせるなんて知らなかった」
最初に『ウォーターアロー3』を見たときは驚いた。そんなに簡単なのかよ!!という意味で。
「んで、手数を多くするメリットは理解できる。『ウォーターアロー20』」
魔力が減るが20本の水の矢が訓練場奥の地面へと飛んで行く。なかなかに壮観である。「ちょっ!!」と近くにいたカナデが驚いて風魔法を乱していた。俺の中で追加訓練が決定される。
「これくらいなら手数が有効だと思う。でも、この20本分が1本の矢だった場合」
『ウォーターアロー』を無詠唱で実行し、同じく20本が狙った地面の横を抉る。
「こんな風になる。地面を見て分かる通り、相手にダメージを入れるなら1本だし、牽制や仲間のフォローだと20本くらいだと良い。目的と時々の場面で使い分けるべきだ」
「20本も撃てればそうなるのでしょうけれど」オトハはさらに下を向く。
「あのさ勝手に天井決めすぎなんじゃね?魔力切れても宿まで連れてくからやってみろ」
前世ならパワハラ&セクハラで完璧に負ける言動だ。スポ根以上にスポ根である。それでも悔しかったのか、オトハは詠唱を始めた。
「んっ、『ウォーターアロー20』!!!」
空中に20本の水の矢が現れ
なぜか俺に飛んできた
「うおぉおい!!!」と声に出すのを
合図とし、視界いっぱいに水の矢が
「あぶないから!!」と何とか躱した後にオトハに向かって言うも、すでに気絶していた。理屈屋に負けず嫌いが勝った瞬間である。あとでイチゴもどきをあげよう。
「リヒト、1本お願いします」とソウが言う。まるで弟子が師匠に対する姿勢だが、師匠の返事も聞かずに攻撃してくるのが普通と異なるところだ。俺は木剣でソウの振るう片手剣をことごとく受け流す。こちらから一切攻撃をしないのだが、ソウが気を抜いた瞬間だけ軽く打ち込む。まぁ、心折れそうな訓練であるが、ソウの太刀筋はどんどん良くなっていて、本人もそれが分かっている。
「ソウ、もう焦らずに鷹の目を目指せよぉ」と受け流しながら言う。
「あぁ、目が覚めた!リヒトには感謝している」
そう言いながら当たれば致命傷になる攻撃をしてくる。
「まぁ、これならギリギリ合格ラインかなぁ」受け流した後にソウを蹴り飛ばす。
「まだまだぁ!!」とすぐに起き上がり剣を振るう。
「ちょっと待てって。終了だから」と今度は強めに蹴飛ばす。背中からバウンドし、うめき声をあげたところで終了である。以前なら気絶していただろう、タフさが上がっている。
「カナデ、来い!!」端で小さくなっているカナデを呼びつける。
すげーしぶしぶ感満載でこちらにやってくる。
「瞬間強化と風魔法の組み合わせでしょ」
「そうそう、やってみてくれ」
簡単に言うと、風魔法で足場を作り、それを瞬間強化で蹴って移動する。これができると漫画にある縮地みたいになるのではないか、と考えてやらせている。最初、カナデにイメージだけ伝えると、試したカナデが1回目で成功しビックリした。
いまではノリノリで左右どころか上下にまで移動をしている。これは俺でも出来ないし、攻撃が出来たらたまらんな。
「それしながらカナデって弓使える?」と目まぐるしく飛び交うカナデに言う。
「うーん、できそうだなぁ。AIMが悪いかもぉ」とFPSみたいな事を言う。
カナデはRPGよりFPS派だった。
「かなりカッコいいんだよなぁ。もしそれで打てたら」
逃げながらでも、避けながらでも射てるので結構反則だと思う。遠距離攻撃がなかったら空中から一方的に撃てる(矢がある分だけ)。
「いっくよー」と間延びした声が頭上からした。間が空いて足元に矢が飛んできた。その後も2本、3本と足元に矢が飛んでくる。「これは一方的になるかも・・・」と予想し、カナデを止めさせた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それでは模擬戦を始めます!!商品は事前に言った通り、『オウヒメイチゴ』と『キワラズベリー』が各5個!」
会場にいる1チームだけ大盛り上がりである。
「ねぇ、リヒト。それって何なの?」とムードをぶち壊すカナデ。
「『オウヒメイチゴ』は最大魔力をあげる食べ物で、『キワラズベリー』は最大体力をあげる」
「こないだ貰ったイチゴだよね?」
「まぁ、そうだな」
「・・・うっうぅ」バンジーが泣いている、空気を読めカナデ!!
「ちなみにオウヒメイチゴは1個金貨1枚の価値はある」
「はぁああ!!!!」と反応したのはオトハである。こっちにきて人間らしい反応でよろしい。
「『キワラズベリー』は?」
「どれくらいなんだ?」とアバンタに聞く。
「前衛職だと、やはり金貨1枚で安い方だ。しかもリヒトの物は効果が高い」
やっと骨折から治ったリーダーが答えた。
「だってさ」とソウを見ると明らかに燃えている。
「しっかし、模擬戦で出る報酬じゃねぇよな」と片手剣を肩でトントンしているダライが言う。もちろん、やる気に満ちている。
「それではルールを確認します。それぞれ刃引き、矢じりを丸く処理したものを使用すること。当たった場所が致命的な場所であれば、潔く戦闘から離脱してください。魔法は先に防衛魔法を付与しますので、その効果が無くなった場合は致命傷を受けた判定とするので同じく離脱してください」ルイが立会人である。
「正々堂々と欲深く勝ちにいってください。始め!!」とルイの声が響く。
俺だけずっこけそうになった合図を皮切りに戦闘は始まった。
4対4
ゴダラスの翼
アバンタ(両手剣使い)
ダライ(片手剣、盾)
ビューリ(弓、短剣)
バンジー(魔法使い)
ケイト⭐︎参上!!
ソウ(片手剣使い)
ケイト(行商人、武闘家)
カナデ(弓、風魔法使い)
オトハ(魔法使い)
※ケイトとは、模擬戦のためにギルドへ移動していると遭遇した。賞品が出る事を言うと「私が出て人数を合わせよう」とカバンから当然のように装備品を出してきた。目がガチで初対面のソウ、カナデ、オトハと役割と、それぞれが得意な事を確認していた。




