教育的指導 その①
あれから常宿である”ピコ鳥の休息”の食堂に3人を連れてきた。マスターは3人連れの俺にびっくりしていたが、すぐにメイプル@できる子がテーブル席に案内してくれた。ダライは目が合ったが何も言わなかった。
それでいまテーブルの上に空いた皿がマンガみたいに山積みされている。
カナデは泣きながら食べ
ソウは無言でひたすら掻き込み
オトハまでも至福の表情だった
あのさ君たちにはいっぱい言いたいことがあるぞ。
「あぁ、幸せ」カナデがお腹をさすりながら言う。
「3人ともいつもあの食事だったのか?」
「そうね、あそこでも奮発した方なの」とオトハが言う。
「ここの料理はほんっと美味しいね!!」
まだ食べ続けるソウを放置して、これまでの経過をオトハが説明してくれた。
まず、3人とも黄色(グーム公国)を選択し、初日から一緒に行動していた。最初の街で冒険者になり、武器を買って少しずつお金を貯める。まず稼がなければ詰むので、ソウは剣の鍛錬、オトハは魔法、カナデは弓や索敵を鍛えたようだ。
稼ぎもある程度貯まったのと、他のクラスメイト達といざこざが起きたのをキッカケにアイルランダーまで移動してきたとのこと。いざこざの内容は3人とも語らず、表情が暗くなった。まぁ、話したくなれば話すだろう。
「おまえら荷物って他にあるのか?」と聞くと一同首を横に振る。カバンも背負っているから常に持ち歩く生活をしているのが分かった。
「すまんけど今晩3部屋空きは無い?」と料理を持ってきたメイプルに確認する。
「んと、3部屋はなくて、2人部屋が2つなら空きがある」とマスターに確認せずに答える。
「それじゃぁ、そこを5泊分頼む。お代は今日のご飯代と一緒で後で請求してくれ」
「いいの?」とオトハが聞く。
「うん、その代わり少し口出しさせてもらう。イヤだったら出て行けばいい」
「言うわけないじゃん、ケントありがとーー!!」カナデが席から飛びついてくるのを顔を抑えて防ぐ。
獣人だからなのか、結構力がある。
「ソウもなんかあるか?」
「・・・何もない。助かる」と目でお礼を言うと食べ続ける。遠慮とか無いのか。
「それじゃ、リヒトも延長になるの!?やったー」と話を聞いていたメイプルが喜んだ。
俺から話したのは、他の国でダークエルフとして始まったこと。マジックポーチや魔剣のことは伏せつつ、ソロで活動しており、今後は”リヒト”と呼ぶよう説明する。あと、食事はいままで恵まれていたことが分かったと伝えると、「いままでどれだけ贅沢してきたんだ」とカナデからツッコミが入った。「いや、自分の稼ぎでだからね?」と笑顔で言うと、今度はオトハとソウが小さく固まっていた。
最後に、明日から5日間だけ訓練に従うことを条件に宿泊費と飯代を持つこと提案すると、予想以上にオトハの食い付き、即採用された。話が決まったタイミングで、メイプルが鍵を持ってきて「お部屋に案内します」と話す。メイプルのできる子っぷりが半端ない。
案内が終わったメイプルに6日間(今日分含む)の宿泊費と夕食代の支払いを確認する。
「2人部屋が1泊夕食付きで銀貨8枚、それが2部屋の6日分で銀貨96枚になるよ」と計算まで卒なくこなす。
「ついでにチップ込みで金貨1枚で払うな、いろいろありがとう」メイプルの頭を撫でる。
「ううん、リヒトの延長もあるし、こっちは大歓迎だよ。ありがとう!!」と受け取った金貨をマスターに持って行く。なぜかマスターが厨房から頭をさげていた。チップが多かったのだろうか?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、いつもの早朝鍛錬の時間だが1人だけ起きないヤツがいたので叩き起こす。
「痛ったぁ、ほんとに叩かなくてもいいよね、オトハ」カナデが同意を求める。
「あのね、条件を飲んだんだから緊張感が足りないと思う」オトハはまっとうな返答だった。
「それじゃぁ、冒険者ギルドの訓練場にダッシュで行く。最後のヤツは追加で鍛える」
言ってすぐに隠密セットを使用する。3人は慌ててギルドまで走るが、やはり職業的に有利なカナデが早く、続いてソウ、オトハの順番だ。先回りをしてギルドで訓練場を借りる手続きを済ませる。ルイはカウンターにはいなかった。
訓練場はギルドの裏庭にあり、陸上の400mトラックくらいの規模だ。中央に空間があって簡素な塀で囲まれており、見学できるように不揃いなベンチが設置されていた。
「まず、先に言うけど、いままで生き残れたのはラッキーだっただけ」俺もそうだけど。
3人とも何も言わないので続ける。
「それと考え方が甘い。異世界に来たのに隙が多過ぎるし、油断しすぎている。そのうえ体力もない」
ここまで言ってカナデが反発する。
「いくらケン・・・リヒトでも言い過ぎだよ?私たちだってがんばってきたんだよ」
「3対1で模擬戦やるけれど、そっちは俺を殺す気でやれ」
「いくらなんでも・・・分かった」とオトハが了承する。
3人が構えたところで、以前絡まれた時に使った威圧をする。この時点でカナデが膝を着いたので、軽く蹴飛ばす。簡単に囲いまで吹っ飛んでいった。すぐに切替えたソウが手加減なしに剣を唐竹に振ってきた。割切りが素晴らしいが、軽く木剣でいなし、前蹴りでカナデの隣に飛ばす。オトハは『ウォーターアロー3』を使ってきたが、すべて木剣で払い飛ばし、微笑んでから蹴飛ばす。
1回目の模擬戦はすぐに終わった。
「では、感想戦です。それぞれどうぞ」
囲いに固められた3人が話す。
「なにもできなかった」
「いなされた瞬間に衝撃があった。何をされたか分からん」
「魔法を余裕で迎撃され、その上で蹴飛ばされた」
「しっかり聞いてほしい。昨日、グリーンオーク戦で俺が加勢しなければ、ソウは死んでいたか重症を負っていた。重症まで回復魔法で治せるのか、オトハ?」
無言でオトハは首を横に振る。
「いや、だけど」とソウが何か言いたそうだ。原因が分かった。
「ソウ、俺の木剣を渡す。それで俺と1対1でやってみろ」
すぐに正眼に木剣を構える。見事に剣道の構えである、もちろん、前世では俺よりも剣道は圧倒的に強かった。でも、ここは前世ではないのだ。
「やっぱり、お前が原因だ」きっぱり言ってから顔面を殴り飛ばす。全く反応できないソウに手加減はもちろんした。
「オトハ、なぜソウを止めない?誰か死ぬどころか、全員死ぬぞ」
オトハは返事をせず、カナデは下を向いていた。
ソウは気絶したため放置する。
オトハには魔法鍛錬を教えた。『ウォーターアロー3』とかで3本出るのを俺はしらなかったが、各1本の威力が下がるなら、全てを1本に込めた方が良いと思う。手数について理解できるが、アタッカーとして魔法を使うなら威力が低いと足手まといにしかならない。あと、『サーチ』と『ハイド』の隠密セットを伝える。誰も知らなかったみたいで、『サーチ』で探知したマップに驚いていた。
カナデは隠密が使えたのに常時使用していないことを指摘する。どこにいても自然と隠密を使い続けるよう癖をつけろと指導する。「頭がもやもやする〜」とゴロゴロし始めたので軽く蹴って黙らせる。もう、この世界に来てからは女性だろうと躊躇なく殴れるし、蹴れる。理由は『死んでほしくない』からだ。俺の主観だけである。
あと、カナデはせっかくの風魔法があるのに使っている形跡がなかった。風魔法訓練と瞬間強化をそれぞれ指導する。といっても俺も使えるわけじゃないので体で覚えてもらうことにする。
そうこうして1時間が過ぎた頃にソウが目を覚ました。
「具合はどうだ?」
「ほとんどダメージは無い。手加減まで完璧にされるほど差があるのか・・・」
なまじ武道を習っていただけに、その実力差が分かったのだろう。
「このままじゃ、おまえのせいでオトハもカナデも死ぬ」
「いや、無理じゃないかどうかなんて」
「なにを焦ってるんだ。物語の主人公じゃないんだぞ?」
「・・・なぜお前はそんなに強くなったんだ」
「ソロだったし、生き残りたかったから・・・だな」
「俺はこの世界で名を上げたい」
「あほかと・・・ばかかと・・・」
「おまえには分からない。だが真剣だ!!」
「今日、軽く2回死んでるぞ。分かってんのか?」
さすがにソウは黙り込んだ。
魔力切れを起こしそうな二人に休憩を取ることを伝える。あと、「頑張ったからイチゴを食べていい」とオウヒメイチゴをそれぞれに5個ずつ渡すと喜んでいた。俺はグリーンオークの魔石を交換すべくギルド受付に向かった。




