歩く懸念事項
夕飯時にエールを頼むとマスターが「おいおい、うちで初めて飲むよな!!」とカウンター越しに話しかけてきた。いつも横の席にいるメイプルは各テーブルを周っていて忙しそうだ。
「ちょっと珍しいことがあってさ。エールなんて久しぶりだ」とジョッキを口につける。日本のビールのように冷えているはずもなく、ヌルい液体が喉を通る。グビグビと一気に飲みきり、プハッ!!とやるとマスターの目が笑っていた。酒飲みは酒飲みを好むのだろうか。
「結構飲めるのか、リヒトは?」
「いや、エールはほとんど飲んでいない」泡が少し口元についていた。
「まぁ、飲み過ぎるなよ。冒険者に言うだけ無駄かもしれんが」
最近、マスターとも話す機会が増えてきたな。メイプルが毎日ご飯を付き合ってくれているからかもしれない。
初エールの味は海外系ビールに似ていて、温度が低くなくても飲めた。前世で父さんが楽しみにしていた海外土産ビールを飲んだことを思い出した。今更だが犯人は俺でした、ごめんなさい。これを異世界入りといっていいのだろうか。
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さてと、いろいろと整理しよう。いつもの魔法鍛錬の時間帯だが、今日の出来事を整理しないとモヤモヤして仕方がない。正解・不正解は関係なく、自分の心の置き場所の問題だ。
まず、リザードマンは知性が間違いなくあった。それにも関わらず俺は戦闘を続けたし、相手も同じ思いだったと思う。もし、俺が負けて死を間近に感じたら「刀をもっていけ」と間違いなく言えるだろう。なんというか自分の中で、リザードマンに対して敬意がある。だからこそ、時間切れ勝利(出血による)とかはイヤだったので飛び込んだ。ただ、この世界であの対応が間違っていないかは不明だ。
頂いた剣と軽装鎧の修理はギブリに明日相談しよう。滞在はソウ達に会えたので延長することを決める。
さて、本題。ソウ、オトハ、カナデと俺のことだ。まず、彼らは転生前の体に酷似していた。つまり、17歳前後の体型だった。これは獣人になったカナデを除くが、転生前からそれほど時間が経っていないことを意味している。なので、俺が覚醒するまで5年間寝ていたわけではないと推測できる。
そうなるとおかしいのは俺のことだ。実年齢で7歳前後、というのがグウェンとシュエルの話だ。仮にこの話が本当なら俺が2歳の頃持っていた『リヒト・ヴァーズ』というペンダント・ロッドが説明できない。なぜ、俺が自分で名前を決めたのに、最初の選択で紫を言う可能性も不明なのに、5年以上も前に『リヒト・ヴァーズ』のペンダントを持っているのだ?
思いつくのは・・・。
①グウェンとシュエルがウソを言い、実年齢が17歳というオチ
②俺が前世で『リヒト』でゲームをしていたから選ばれたオチ
③神のみぞ知る
グウェンとシュエルがウソをつくとしても、あの二人が言うのだから相当の理由があるように思える。グウェンなんてウソが苦手そうだ。シュエルは・・・今朝来てたな。平気で変身して騙すのだから、俺なんて簡単にあしらわれるだろう。
う〜ん、そう考えると②と③は考えるだけ無駄だし、①も実際には考えても無駄な気がしてきた。
はいっ、次へ進もう!!これは後でまた考えてもいいや。なるようになるだろう、異世界なんだから。
最後に、これからのことでソウ達と一緒に行動するのか迷っている。
別れ際に、3人いたのに俺の動きに誰もついて来れなかったのは致命的な気がする。たぶん、今日のリザードマンに4人で遭遇すると、かなりの確率で犠牲者が出る。俺も3人を庇うような戦闘になるだろう、選択肢は『逃げ』しかない。3人に『アナライズ』を使った結果が如実に語っていた。
名前:ソウイチロウ 性別:男
種族:人族
職業:剣士
適性:片手剣技術、頑強、鍛治技術、探索、ストレス耐性、強運
個性:寡黙
スキル:剣術レベル1、剛腕レベル1
名前;オトハ 性別:女
種族:人族
職業:魔法使い
適性:水魔法、治癒魔法、頑強、幸運、好奇心旺盛、集中
個性:分析
スキル:治癒魔法レベル1、水魔法レベル1
名前:カナデ 性別:女
種族:獣人族<オオカミ>
職業:ハンター
適性:狩人技術、風魔法適性、罠技術、弓技術、隠密技術、健康、幸運
スキル:瞬間強化、罠レベル1、隠密レベル1、風魔法レベル1
見事に役割分担が出来ているとは思うし、打ち合わせも無しによく出来たと感心する。特にオトハの『治癒魔法』は驚いた。初期選択で俺が光魔法を選んだ理由が霞む・・・。やっぱり俺の出自は③で神様が全部仕組んだんじゃないだろうか?
『ステータス』
名前:リヒト・ヴァーズ 性別:男
種族:ダークエルフ
職業:冒険者(Eランク)
適性:火魔法適性、水魔法適性、光魔法適性、時空魔法適性、魔力操作適性、
片手剣技術、鍛治技術、隠密技術、身軽
個性:金髪、用心深い、運が良い、モテ期(初期)
スキル:火魔法レベル3、水魔法レベル2、光魔法レベル1、片手剣レベル3、隠密レベル2、身軽レベル2
加護:おしぃ!!ヒント、④魔王は知っている
そこそこに上がっていて嬉しい。そして、・・・加護がおかしい。さらっと『④魔王は知っている』ってなんだよ!!会いにいかねぇからな、ただでさえ光魔法もってるのに。あっ、・・・勝手に魔王城から動かないイメージだが向こうから会いに来る可能性もあるのか。
ん、んっ?なんか繋がるイメージが湧きそうで逃げていく。あの全く関係ないことをしているときに思い出すアレだ。ダークエルフでもなるのが笑えるが、非常に後味が悪くて仕方がない。
んで、ソウ、オトハ、カナデの3人(多分、3人だよな)と一緒に行動した場合、戦闘力の差もあるけれど、下手したら彼らが目をつけられる。現状のように俺が1人で冒険者ギルドに行く分には、俺にしか絡んでこないと思う。だが、4人で行動となれば、オトハやカナデがひとりで行動している時に拐われたりするかもしれない。特に見目麗しい女子だけに。あと、ソウと一緒に行動できる気がしないんだよなぁ、異世界だと。なんか妙に力入ってるし怖いわ、ぼくちん。
ってわけで、どこかでお茶するくらいのお付き合いにしつつ、「付き合ってください」って言われたら「シャーないな考えて見るよ」とかいうハラタツイケメンを演じることにしよう。それでしばらく様子見とする。
考えがまとまると眠くなって来た。少しだけ「続けていた魔法鍛錬が・・・」と思いながらもベットに吸い込まれ、意識が遠くなるのを感じた。




