グーム公国領への道のり③
3/21 誤記修正
俺はいま馬車に乗っている。さすがファンタジーというか異世界だろう、魔法や剣があれば当然のごとく馬車に乗ることもあろう。最初はテンションが高かったが、少し経つとダークエルフの薄い尻だと痛くなる。勝手に降りて伴走したりする。
「リヒトさん、急に走り出してどうしたんですか?」と先ほどまで隣で手綱を握っていたケイトが話しかけてきた。
「いや、ずっと乗っていると鍛錬にならないなって考えてさ」ほんとうは尻が痛いのだ。
「すごいですね。リヒトさんほどの冒険者になると日常から鍛錬されているんですね」と真剣な眼差しで言われた。尻が痛いのだよ、尻が。鼻毛出ててもイケメン(自己評価)だから『尻が痛い』くらい言ってもいいのかもしれないが何と無く意地を張っている。
ケイトは行商人でアイルランダーとゲフパゴ村を行き来しているらしく、いまはゲフパゴ村の特産品をアイルランダーに持ち込むところで俺を拾ってくれた。街の規模としては話からアイルランダーの方が大きいようだ。馬車のペースは徒歩よりも早く不満は無い・・・わけじゃなく、尻が痛いのが辛い。俺の職業は話の流れで冒険者と伝えた。年齢は聞かれていない。
「アイルランダーにはあと4日くらいか」と伸びをしながらテキトウなことを言う。
「このペースなら3日後の夕刻には着くと思います。そろそろ野営の準備をしましょう」そういうと、ケイトは街道から少し離れてたところに馬車を止め、テキパキと野営の準備をする。これまでにすれ違った馬車はいなく、それほど往来がないのかもしれない。ケイトの野営準備は手慣れていることがすぐに分かった。
「それにしてもケイトはすごいな。年齢だって若いのにひとりで行商人してて」
「なんか勘違いしてません?私は17歳ですし、成人してますよ」とケイトが口を尖らせている。17歳って前世の俺と同じ年かよ!!もうすぐ7歳の俺より身長低いし、雰囲気も幼い。ただ言われて分かったが実りがデカイところはある。
「あっ、エッチなこと考えてません?」とケイトは体を捻る。
「あのな、そういうのを女の一人旅で言うこと自体が危機感が足りないと思うぞ」つい見てしまっただけに忠告だけはしておく。赤毛に大きな目、村には無かったサイズ感、やはり童顔に本物があることにホッとする。エルフはほんとうにシャープだ。
「大丈夫です。これでも私は冒険者も兼ねてますからね」とドヤ顔をする。
「いや、冒険者って感じじゃ無いよね?町娘Aって感じじゃん」と驚いた。
「なんですか町娘って!リヒトさんとならいい勝負ができますよ」と更に驚きの発言である。
「本気か?俺だってプライドがあるぞ」昨日オッさんオークに粉々にされて再生中だけど。
「じゃぁ、あとで手合わせをしましょう。まずは夕飯です」と笑顔で返された。
ケイトに夕飯のお代を払うと申し出たが「お金はいらない」と言われた。「行商中に行商以外で儲けるのは邪道」という商人のポリシーを疑う発言をした。せめてと思い、マジックポーチから自生したヴェリーとイチゴもどきを夕飯に出すと大喜びした。『女子に甘いものは正義』だ。
ちなみにマジックポーチは革のカバンの中に入れ、カモフラージュしている。魔剣も今はポーチの中だ。どれくらいの価値か分からないうちは外に出せない。
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「それじゃ始めますか」とケイトが立ち上がり、軽く土を払う。
「ほんとにやるのか?」対人はグウェンとの訓練だけだった。
「やるんです。リヒトさんは魔法も使っていいですからね」とケイトは素手で構えた。
「・・・分かった。じゃぁ、やるか」と木剣を構える。
たき火の音が聞こえて
少し間を感じる
ケイトが一気に接近し左拳が迫る
木剣で腕をいなすと
右膝を突き上げてきた
同じく左膝でブロックする
ケイトの足元に『ウォーターボール』で足を止めてバックステップ
一瞬足を取られたケイトの右腕へ
火傷程度の軽いファイヤアローを飛ばす
パチン!!
「アッツ!!!ってかリヒトさん、2極性持ちなの?なにそれ!!反則でしょ」と早口で言ったところで手合わせは終わった。
「ほんとに冒険者だったんだな」とケイトに俺は感心していた。
「あぁ〜、負けるなんてと思ってもいなかった。拾ったの間違ったわ」と顔を逸らしながらケイトが言う。
「ん?どういうことだ」と口調も崩れたケイトに尋ねた。
どうもケイトは俺が家出したばかりのダークエルフだと思っていたようだ。そもそもダークエルフ自体が珍しい上に、軽装で腰には木剣とか『どこの不殺さずよ?』と故郷の弟を思い出したとのこと。そんなヤツにDランクの自分が負ける要素も見当たらなかった。当然、エルフなんだし魔法も使えるだろうとカマをかけておいて、接近戦でシメて事情聴取をする予定だったらしい。
そこまで初対面の俺のことを考えておきながら、「もう知らん。おかわり」と今はヴェリーとイチゴもどきを強請っている。結構貴重な果物らしく街で売ることを勧められた。自分で売るとか考えないって商人としてどうなのか?と疑問は尽きないが、現金が入るので助言はありがたかった。今すぐ食べるのをやめてくれるとなお有難いが止まる気配はない。いままで普通に食べれたエルフの森(魔族領)に感謝だな。
「それで冒険者でアイルランダーに行くとなると、ダンジョン目指すの?」と口の周りを赤くしたケイトが言う。見ようによっては血のようで、焚き火の明かりが余計な演出をしている。
「いや、まずはギルドで登録か?」と真面目に聞くと「登録前かよ!!!!」とヴェリーを投げてきた。食べ物を粗末にするなと伝えたが、明らかに手合わせで負けたのを根に持っている。なんだか久しぶりに友人と話している感じがした。ヴェリーも食べた終わり、いくつか雑談をすると夜も更けていった。森の中では星空はそれほど見れなかったが、空には月が2つ浮かんでいた。ほんといろいろ異世界だよな、と慣れないことだらけの世界で、いくらか慣れてきた野宿をした。




