色は混じらない
4/2 誤記修正
朝食もソウがテキパキと用意したため、朝の鍛錬に時間を費やすことができた。
ナビカ帝国領に来てから初めての朝食後の鍛錬である。
ソウとデオドラの模擬戦っぽい脳筋対決は見応えがあった。今のところ、デオドラの両手剣の方が洗練されていて僅かにソウが届かなかった。あと、刃引きとか結界とか使っていないので結構ヒヤヒヤした俺は過保護なのかもしれない。軽い打ち身や切り傷は2人とも当然できていてオトハが『ヒール』で癒していた。デオドラがデレ顔過ぎて笑えなかった。
「おまえ、それでBランクなのかよ、嫌になるな」
そう言ったデオドラはAランクでもどれくらいの位置にいるのか謎である。見ている限り、切り札がなければカナデに勝てないだろう。カナデはあまり興味がないらしく、模擬戦を申し込まなかった。
「オトハ、ウォーターバードって2匹だせないの?」
「なんで2匹必要なの?」
「夫婦がいるだろ?」
「・・・」
割と真剣に話したのだが採用されない感じである。毎回召喚されているヤツは絶対に雄だ。ずっと睨まれ続けた俺が言うのだから間違はないだろう。『オウオウ、ウチの姉さんに文句あんのかごらぁ?』って前回睨まれてたから。
「これからの予定だけど、俺はナビカに戻って準備が出来たらダッケンリットに行く。その後に教えてもらったダンジョンに入るつもり」
「おまえ『俺は』ってなんだ?」
「『俺は』は言葉通りの意味だ」
「つまり、ソロで行くってことだよね」
「ほんっとケントってソロ好きだよね」
好きってわけじゃないが何かと気楽だし、制約が無いのが楽なんだよなぁと考えて、それを世間では『好き』と言うことに気がついた。そっか、俺はソロが好きなのか。ただ、これは前世でも1人で平気だったけれど、こっちに来てから余計にその傾向が加速したのかもしれない。種族特性なのかもしれないけど、戦闘で巻き込む心配が無いのもデカイ要素だと思っている。
「ダッケンリットには何しに行くの?」ジョイレゾの探りが入る。
「観光だよ。ついでに魔族領の見学」
そう冗談めかして言うと、ジョイレゾからは含みある笑顔が返ってきた。口角が上がると
「私はダンジョン行きたいなぁ」頭の後ろで腕を組んだカナデが言う。
「今回は俺もダンジョンに行きたい」ソウが珍しく乗り気だ。
「それじゃ私たちはナビカで準備できたらダンジョンに行こう」
オトハがそう締めくくり、俺たちの今後の行動は決まった。
「それじゃぁ、明日の早朝に北の門だな」デオドラが言う。
「はい?」オトハが的外れな声を出す。
流石にオトハが首を傾げている。言っている意味は理解できるが、デオドラの発言の意味が理解できなかったのだろう。正確には分かりたくないのだろう、気持ちは俺も十分わかる。
「おいおいおいおい、そんな面白そうなところに行くなら入れてくれ」
「ヤダ」カナデが即答する。
「同じ獣人仲間だろ?協力して進もうぜ」
「絶対にヤダ」
頑なにカナデが断っているせいか、オトハもソウも何も言わずに様子を見ている。なぜかオトハから無言の、それでもしっかりとした応援が聞こえる。
「なんでだよ!連れてけ、俺は強いぞ!!」
「私より弱いからダメ」
カナデは即答し、オトハは驚き、ソウは深いため息をする。ジョイレゾは既に特等席となる場所に腰を下ろしていた。ベニーラだけが2人の心配をしているように見える。
「てめぇ、俺と勝負しやがれ!」
「いいけど負けたら尖り耳屠るぞ」
「ふざけんな!!!」
デオドラはカナデが本気で言っているのを冗談だと思っている。その油断は命取りで、すでに蹂躙される未来しか俺見えない。
「連携に支障が出るから別行動だね」
カナデが倒れているデオドラの喉元に短剣を向けて言う。目は尖耳を見ているのでいまいち緊張感がない。
カナデの攻撃は至ってシンプルだった。「いっくよぉ」とカナデがゆるく話しかけたところから瞬間強化でダッシュし、デオドラの背中を前蹴りする。デオドラもなんとか倒れずに踏ん張り、振り返ったがカナデがキレイな水面蹴りで転ばし、喉元に短剣を突きつける。動きに無駄のない素晴らしい冒険者だと思う。多分、水面蹴りは死角で見えなかっただろう。
「くっそぉ!!油断した!!!」
そんな言い訳にカナデが躊躇するわけは無く、尖り耳を揉みしだき始めている。すっげぇ至福の顔をしているカナデである。多分、異世界に来て1番いい表情をしているだろう、それほど満足感と多幸感が身体中から溢れている。地面を殴るデオドラとのギャップが酷い。
「カナデとそこまで差がついてたか」ソウが真剣にカナデに話す。
「ソウに守ってもらわない程度にはなったかな」ドヤ顔のカナデが応じる。
カナデの決断はいろいろあったからこそだ。ちなみにカナデの手はまだ尖り耳から離れていない。もう体育座りでされるがままのデオドラが悲壮に見える。顔は真っ正面を見ているが目は虚空をさまよっている。
「それじゃぁ、準備もあるしナビカに戻ろう!」揉みしだいたカナデが元気よく言う。
戻るまでの間、デオドラの顔に斜線が見えた気がした。もちろん、デオドラは無言のままナビカまで走りきった。横でベニーラがデオドラを何度か心配そうに見ていたが、そのうち息が上がって来たのかハァハァ言った頃にソウにオンブされた。「鍛錬したいんだ」と言ったソウを蹴り飛ばしたい衝動にかられたが堪えることができた。がんばって成長している自分を褒めたい。オトハもカナデもジト目でソウを見ていたのだが、ソウはまったく意に返さなかった。もっとも図太く、直線どエロなのはソウイチロウだと俺は確信した。




