報告は誰のもの?
ナビカについて問題が発生する。
これからダンジョンに行く3人とダンジョンに行かない3人が揉めた。正確には、デオドラが駄々をこねた。見事なまでに別れ際のメインストリートで駄々を捏ねたのだ。
「俺も行きたい!!俺も行きたい!!」
場所を言わないのが大人の駄々である。あまり手段を選ばない冒険者ではあるが、ここまで行くとドン引きである。デオドラのパーティーであるベニーラ、ジョイレゾまで声を失っていた。
すっと近づいたカナデが声をかけているのが見え、急に黙り込んだデオドラが額に汗をかいていた。一体、何を言ったのだろう・・・。俺の読唇術では『獣人のプライドすら捨てたのか、犬ころ』と吐き捨てるように言っているように見えた。ドッツの躾はかなり厳しかったと思われる。
そんなやりとりを遠巻きに見ながら、少し離れたところでジョイレゾと話をする。
「全部お願いしていい?」ねだるように声をかける。
「あのさ・・・。まぁ、仕方がないか」右手で後頭部を抑えたジョイレゾが答える。
「今回正規に報告すると全員拘束されるよな?」
「間違いないな。ベヒーモスを帝国けしかけたり、まして鍛錬を受けるなんて誰も信じない」
冒険者登録もしていない俺たちが北の森で狩をしていた、くらいなら問題に値しないだろう。だが、ベヒーモスを帝国首都へ仕向けるなんて事案は冒険者レベルでは話にならない。帝王や上級文官、その他貴族の出番となる話だろう。ゴ○ラが出て来たのに子供達で話がついた、なんて大人は信用しない。
「ほんっといつ気がついたの?」
「いや、正直いまでも分かってないよ」
ジョイレゾがあまりに俺を買いかぶり過ぎているので正直に話すことにした。『アナライズ』結果でも帝国兵とは出ていないし、2枚舌というのが出ていただけだと告げると「私が自分から漏らし過ぎたのね。デオドラの影響なのかしら。短慮ね」と笑った。これまでの駆け引きを抜いた笑顔は底抜けに明るかった。「もう少し冒険者してたかったなぁ」とデオドラを見ながら伸びをする。
多分、大人にはいろいろとある。「じゃぁ、冒険者本格的にやれば?」とか簡単には言えるものではない。この世界に最初から俺もいたら別の価値観で育っていただろう。その場合、しがらみは足枷となっているかも知れないし、自分を守ってくれる揺りかごになってくれたかも知れない。簡単に人の価値や考えに声をかける気にはならない、ただ、自分の意見やアイディアを誠意をもって伝えるくらいだ。
「大人にお願いします」折り目正しくお辞儀をする。
「あんた、ほんっとに変なヤツだよね」そう言ってジョイレゾは笑った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ナビカにも戻ってから3日が過ぎた。
俺はダッケンリットへの食料や野営道具の準備を済ませ、痛んだブーツや籠手もこの際だから買い換えることにした。ナビカは首都だけあって、商品の品揃えは良く、上等な装備がいくつも店先に並んでいた。ついでに分かった事だが、上級冒険者に『アナライズ』をかけると当然気がつかれるが、装備品に対して『アナライズ』をかけた場合は殆ど気がつかれない。なので、「おっ、かっこいい装備」と思ったら即座に『アナライズ』をかけてアイテム名を調べることにした。
そうやって北の門の出入り口で冒険者を眺めながら軽食店でお茶を過ごす。ソウもロマン装備が大好きなのでお互いに「あの装飾はガサイ」とか「あの剣って魔剣じゃね?」とかTV画面を見るように話をしていた。うちらの生活はジョイレゾがいろいろと暗躍しているお陰で変化は無かった。
”尖り耳の戦慄”は解散になった。
まぁ、解散した方が良いパーティー名であるのは疑わないが、お笑い担当としては呼ばれる可能性が高かったと思う。そういう個人的な感想を抜きにしても、魔術師とジョイレゾの2名が抜け、デオドラとベニーラの2人ではパーティーを維持できなくなったためだ。
「あの2名が居なくなったから名前も変える」
そう横でデオドラは大きめの声で独り言を漏らしている。まったく誰も興味をもって聞いていなく、唯一、ベニーラだけがハラハラして周囲を見ている。
「あのさ、おまえらって何で俺に冷たいの?」
ついに心が折れたデオドラが泣きに入る。
「あの、私、回復と土魔法ができます。入れて頂けないで」
「いいですよ。オトハと言います」ベニーラの発言に被せ気味に答える。
「それじゃぁ、ベニーラの加入に乾杯しよっか!!」明るい声でカナデが店員を呼ぶ。
「おう!ベニーラの加入に乾杯!!!」ソウが酔っ払っているかのようにお茶を掲げて言う。
4人で活動することが決まったらしい。ヒーラーが2名いるけれど、カナデもアタッカーしたいだろうしバランスは良いかも知れない。少なくともギルド推奨の4名以上は確保できたわけだから。それにしてもソウは客観的に見てもハーレムパーティーなんじゃないだろうか・・・。
ちなみにベニーラは、ゆるめのツインテールの髪型で肩上でピンクかかった白銀の髪を結んでいる。目の色もウサギのように赤っぽい色をしている。
「ベニーラが何かに似てると思ったら白兎だ!!」
カナデがドヤ顔で言い切る。ソウが無言の賛同をしているのが表情から分かった。たしかに可愛さも含めて『人化した白兎』のイメージで、本人には失礼だが挙動不審な点も結構リアルである。
「俺も入れてください」
「パーティー名ってどうする?」
「うちらの冒険者登録どうしよっか」
マジで通報されるレベルでデオドラが悲惨である。ただ、オトハにはジョイレゾのフォローがあったから問題なく過ごせていることを伝えてある。多分、そのうちデオドラもパーティーに入るだろう・・・マジで入れるよね?
「デオドラ、アモンって獣人知ってるか?」
「あ”ぁ”?アモンって『炎のアモン』か?」
「フレイルのアモンかは知らんが、火炎の盾装備してたアモンって獣人」
「おまっ、どこで見た!?」
なんか燃料入れてしまったようで少しだけデオドラが復活する。同じ獣人族でもあり、デオドラが師事を受けたこともあるらしい。冷遇されているのだろう、獣人族は横の結束が固い気がする。サードリアのダンジョンで会ったことを伝える。
「じゃぁ、俺は明日出発するから」
最後に荷物を確認するため宿に早めに戻ることにする。
「ケント、奢ってね」去る俺に両手で頬杖をするカナデ。
『まぁ、仕方がないか』と大人しく支払う自分も相当カナデには甘いのではないかと思う。




