愛刀×哀悼
「しかし我の爪を折るとはな・・・」
ベヒーモスに物理的にも高いところから見下ろされている。
「刀のお陰です」
「ふむ・・・軽んじてすまなかったな」
「ギブリ、修復してくれるかなぁ」
改めて抜刀すると先端にヒビが入っており、次に使うと間違いなく折れる雰囲気がヒシヒシと感じられた。ギブリに頼むにはアイルランダーに帰国しなければならないし暫くは戻れない。当面は木剣での生活に戻ることになる。
「ケント、あの動きなに?」カナデが言う。
「おまえ、あんなに強かったんだな」これまたボロボロになった獣人のリーダが言う。
「そういや名前なんていうの?」
「デオドラだ。名乗ってなかったか?」
戦闘が終わったことを察知した7人がやって来る。各々、ベヒーモスと俺の戦いの跡を見て確認したり、考えを言い合っている。ソウが近づいて来て肩を叩き、「頼む。俺をもっと鍛えてくれ」と請われた。ガチすぎて引きそうになる。剣の師匠とかには慣れないし、ソウとは同じ剣使いでもタイプが違いすぎる。俺の動きはどちらかって言うとカナデに合っている。
「我の爪を持ち去ることを許そう」
「ん?」
カナデとソウとベヒーモスとの戦いの感想戦をしていたら後ろから声をかけられた。近くで爪を観察していた獣人パーティーのメンバーが驚いているのが見えた。
「久方振りに『戦闘』を思った。勝手に加工せよ」
「ガチで!?いいのか!!ありがとう」
最上級のお辞儀をする。オルトロスの爪からギブリはかなりの武具を作ってくれた。きっとベヒーモスなら更に上の武器を作ってくれると思う。
「次遭うときは、それで遣り合おう」
「いえ、結構です」
お辞儀をすぐさま解いて、手のひらを相手に向けて意思を示す。こういう意思表示は俺は日本人だがキッパリしている方だと思う。
「・・・我が人を襲ってもか?」赤くチロっと舌が見えた。
「理由があるから襲うのだと思います」
きっぱりと自分の意見を伝えること、敬意を払うのを忘れないこと、それが前世の親から教わったことだ。戦いたくないから、とかじゃなく!!あるけれども!!!
「ククク、クハハハハハ!!諦めろリヒトとやら。其方とはまた戦うことになるだろう。精進せよ」
「えぇ〜」
もうせっかくの素材を手にしたのにテンションがだだ下がりである。なんつー面倒臭い展開なのだろう。ってか勝てるようになるのにどれくらい時間が必要なのかすら分からなかった。
「あの・・・厚かましいのですが」
「なんだ?」
「もう1本爪をいた」
「なにか言ったか?」
ビキッと空気が乾いた炸裂音がした気がする。
「いえ、俺が強くなる方法としてアドバイスを頂けないかと」
「・・・厚かましいな」
「はい、その言葉通りです」
ベヒーモスの子が飽きたのか親の元へ擦り寄っていった。もう俺にも唸り声すらあげてはいない。少しだけ触らせてくれたから何が気に食わなかったのか謎である。触り心地は極上というか、もう俺が寝転がるところに常にいて欲しい。常に寝転がったときに手元でファサファサしていたい。
「ここから少し西に進むとダンジョンがある。そこで戦えばいいかもしれないな」
「あぁ?北の森でダンジョン情報など聞いたことねぇぞ」デオドラが驚いている。
「そんなことは我は知らぬ。あと」
そう静かに言ったベヒーモスが一瞬で爪の近くまで行き、爪を観察していたデオドラのパーティーメンバーの1人を切り裂いた。ほんとうに一瞬のことで、声をあげるどころか誰も反応ができなかった。魔法使いっぽいローブを着た人はもう絶命しているだろう。
「テ、テメェ!!何しやがる!!」
「我は魔物ぞ。なにを油断しておる」
ベヒーモスの目が冷たくデオドラを見下す。
「そいつが原因だったのか」なんとなく、それしか考えられなかった。
「我は子を弄ぶなど許さず。貴様らがいなければ街を吹き飛ばしていただろう」
ベヒーモスを討伐できるレベルじゃないのに手を出す理由が分からなかった。
「なぁ、デオドラ。ちょっと考えて見てくれ」
「てめぇも魔物の考えに同意するのか!!」
肩を震わせているデオドラが俺を睨む。相手が違うのではないだろうか。
「あのなぁ。ベヒーモスは俺たちをいつでも瞬殺できる。それが1人だけを選び、まして鍛錬をつけてくれる。それでどう取り違えたら間違いをおかす?『なんとなくやりました』なんて相手じゃねぇ!!」
つい最後に威圧が出てしまう自分が情けない。弱いベヒーモスの子を痛ぶり、3人にけしかけたのなら一歩間違ったら全滅していたのは3人なのだ。頭に上る血を抑えきれなかった。今回はたまたまオトハが回復魔法があったから助かっただけだ。
「ぐっ、だが!!」
「まだ言うのか!?俺の仲間が回復できなかったら、先に全滅していたのはそこの3人だぞ」
そこまで言って俺の怒りや意図がわかったのか、言葉を飲み込んだデオドラが深く呼吸をする。俺も意識的に呼吸を長くする。どうもお互いに頭に血が上りすぎている。
「そうか・・・悪かった。すまんが埋葬だけさせてくれ」
「それではな」
そう言ったベヒーモスは子を口に咥え、音もなく消え去った。俺の視界には海の上を走っている姿が一瞬見えた。「住まいはどちらでしょうか?」と聞きたくなる行動である。こちらに視線を向けていたベヒーモスは、少しだけ笑っているように見えなくはなかった。
気がかりなことがあるので『アナライズ』をデオドラ含めて残り3人に使う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
名前:デオドラ 性別:男
種族:獣人族<犬>
職業:冒険者(Aランク)、両手剣使い
適性:魔力操作適性、両手剣技術、隠密技術、魔闘気適性、身軽、屈強
個性:一本気
スキル:両手剣レベル3、隠密レベル3、身軽レベル4、魔闘気レベル5、屈強レベル2
装備:ビアンヌの両手剣
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
名前:ベニーラ 性別:女
種族:人族
職業:冒険者(Aランク)、魔法使い
適性:治療魔法適性、土魔法適性、魔力操作適性、身軽、屈強
個性:視野拡張、立体思考
スキル:治癒魔法レベル3、土魔法隠密レベル3、身軽レベル2、屈強レベル1
装備:ガニラウスの杖
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
名前:ジョイレゾ 性別:女
種族:人族
職業:冒険者(Aランク)、間者
適性:片手剣技術、盾技術、頑強、探索、ストレス耐性、孤独耐性、風魔法
個性:二枚舌
スキル:風魔法レベル2、片手剣レベル4、盾レベル2、魔闘気レベル3、隠密レベル4
俺の『アナライズ』に対して1人の女性だけがビクッと動揺した。




