ナビカ 北の森
朝食を終えた俺たちはすぐに勤勉冒険者の努めのごとく北の門を通って北の森へ向かった。門番でのチェックは無事に終わった。
「北の森」という響きにアイルランダーの北の森を思い出す。あそこで狩るときは申請が・・・すっかり忘れてた!!と一瞬焦ったが、冒険者ギルドに登録すらしていない状況である。申請も何も有ったもんじゃないだろう。アイルランダーでは申請が必要だからね、と3人に諭すとジト目で見られた。帝国ルールなんて知らん!!
街道を北に進み少しすると街道は東にふれていた。このまま進むと港町であるコーガに続くらしい。海の魚とか興味あるけれど、今は食べ物より戦闘力である。自力を上げるのが急務だ。北の森の入り口らしきところには冒険者が先に今日の行動について打合せしているのが見えた。
「じゃぁ、そろそろ別行動だな」
「うん、お互い気をつけて」
「私、ドラゴンの矢を試すから近くに来る時は気配だしてね」
「おっ、おう。変なところで使うなよ」
試すところを見たいが諦める。本当に打ち終わった後に戻ってきたらグングニルみたいじゃないか!!と俺は心の中で喝采をしていた。
「リヒト、危なくなったら呼ぶから」ソウが冗談を言う。
「フラグ立てるなって言ってるだろ!」速攻でオトハに蹴られている。
「ソウ、カナデの矢の軌道みといてね。あとでグングニル・レベル教えて」
「わかった」指を立てて応えるゲジ眉。
俺はすぐにサーチのマップに従い、他の冒険者の行動範囲から外れることにする。一応、「『ラ・イド』」を使うため一定距離が離れたところで詠唱する。詠唱するだけで効果のモチが良くなるのを体感したので、余裕のあるときは詠唱に切り替えることにした。なんでも無詠唱がいいわけではないだろう。フル詠唱は恥ずかしくてできない。決して覚えられないから、ではない。
隠密セット(ブロッセ含む)を起動しっぱなしで行動し、3体で移動している魔物の背後で『アナライズ』をする。
種族:リザード・マスター
種族:リザード・マスター
種族:リザード・キング
こちらの『アナライズ』に気がついた個体が振り向く。多分、あれがリザード・キングだと思われる。隠密には気がつかないまでも、『アナライズ』はバレてしまった。
『ファイヤ・アロー』を2体へ撃つ
速度も威力も当社比20%増
うまく当たった2体はそのまま横倒れ、動かない
「すまん、人族領なので不意打ちだ」
「・・・」
沈黙を保ったリザード・キングは両手剣を構え、悠然とこちらを見ている。俺も刀に魔力を通し、正眼に構える。
フッと視界からリザード・キングが消える
サーチから右と判断し、即座にサイドステップをする
追うように両手剣が振り切られる
リザード・マスターの鎧が一部切られる
肉には届かず
血は出ない
『ラ・イド』を使ってこのレベルかよ・・・。久しぶりに冷や汗をかく相手と見合う。
そう考えた瞬間、地面に違和感を覚え少し離れた樹へジャンプで移動する。土魔法を使うらしい、単体になったので再度『アナライズ』を使う。
種族:リザード・キング 性別:男
適性:土魔法適性、魔力操作適性、両手剣技術、隠密技術、魔闘気適性、身軽
スキル:土魔法レベル4、水魔法レベル2、両手剣レベル3、隠密レベル3、身軽レベル2、魔闘気レベル2
魔物なので人族と同じレベルで計れるのか謎だけれど、いろいろとレベルが高い相手だ。間合いを開けると土魔法を撃たれるのも分かった。短期決戦で相手をする。
刀に魔力を通し
躰を線に見立て
まっすぐに向かう
リザード・キングが両手剣で迎え打つのを
躊躇なくそのまま斬るイメージで振る
刀は何の抵抗もなく振り抜け
すぐに残心で崩れていく相手に構えを残す
「うし!!」
結構な緊張を強いられるがラ・イドに慣れていたのは大きい。これが不慣れならば初撃を躱せていたか分からなかった。カナデのアドバイスも聞いてみるものである。納刀前に刃こぼれを確認するも、まったくその気配も見えず、刀に残った魔力が共鳴していた。血振りを行い、魔力解放をしてから納刀する。
ちょっと物騒だけど、ほんっと物騒だけれどもカバンにリザード・マスター2体、リザード・キング1体を入れる。結構な不穏な動きである。カバンから出したらアンデット化してたら笑え・・・ないか。素材が結構な上級品であるのは理解しているが、自分がうまく解体をできる気がしない。3人の誰かに報酬を払ってお願いするか、素材屋で丸ごと買ってもらうかのいずれかだな。
『ラ・イド』を改めて使用し、次の獲物を探していると見覚えのある相手がいた。多分、俺と同程度かそれ以上に強い。全力を出しても勝てるかどうか分からない。そう思うのに躰は熱くなり渇望する。自分の口角が上がっていることを自覚する。
「Re:豚で火にいるオークかな!!」
そうして俺は黒いオークの前に飛び降りた。相手もこちらを見つめている。
「とんとお会いしてません。こんにちは、蹴られたダークエルフです」
「おぉ、いずぞやの小僧か」
決して軽くは無い銀の槍で肩をトントンと叩いている。
「ご無沙汰してます。それで戦ってもらえますか?」
人族領であるが魔族領の礼を尽くすべき相手だ。前回、俺なんて全く眼中になかった相手である。あの時は魔人を探していると言っていた気がする。
「ふむ。まぁ、仕方あるまい」
そういって銀の槍をこちらに向けて構える。あぁ、すっげぇえ怖い。鳥肌は立っているのに俺も刀を抜く。
間合いはさほどなく、初回なら気がつく前に気を失っていた。少し前まで時空魔法併用で蹴られていたと考えていたが、そもそも瞬間的なスピードさえあれば可能だと分かった。今の俺なら当時の蹴られた俺に同じことができる。
2m近い巨躯なのに驚くべきスピードを発する。この林だと地面が少し濡れている分、俺の方が有利かもしれない。
来る!!
そう思った瞬間に目の前に銀の槍が迫る
左に避け、刀で武器を払おうとすると
すぐに槍は引かれ
オッさんオークは構え直す
「ほぉ、あれを避けるか」
「今回は蹴りじゃないんですね」
2人とも笑っていた。
「もう勉強は済んだか?」
「いえ、まだまだこれからですよ」
2合目は槍を左から右に水平に払う
穂先をわずかなバックステップで躱し
間合いを詰めて
袈裟斬りを仕掛ける
斬れると思った瞬間
槍の石突きが死角から来る
オッさんオークが笑った気がした
刀の筋道を崩さず
『ライ・ガード3』を発動
霧散する光の盾
稼いだ少しの間が
届かないはずの刀が先に当たる
オッさんオークの左腕半分まで刀傷をつけた。
「くっ!!ははははははは」
右手だけで重そうな銀の槍を持ったオッさんオークが笑う。
「いやぁ〜、負けた。片手じゃもう勝負にならん」
そう言ってオッさんオークは槍を置いて座る。俺はキョトンとしていたのだろう、オッさんオークから「ほら、トドメを刺さんか」と怒られる。左腕からは血が流れ、オッさんオークの座っている周りに模様を作る。
ゆっくりと俺はオッさんオークの左側に近づき、しゃがんで切れかけた左腕を正しい位置になるように持つ。
「『ヒール』」
魔力を込め詠唱をするとオッさんオークの左腕が強い青色の光に包まれる。すぐに腕は接合され、血も止まったのが分かる。実際に千切れたわけじゃないし、切断面も綺麗だから再生できるかもと思っていると予想通りできた。
この”再生できるかも”っていう感覚さえあれば、『ヒール』で実現できると思う。思いと魔法がこれほど一致しているのは『ヒール』だけかもしれない。
『ヒール』の光が消えた
オッさんオークは左腕を
グーパーして動作確認
問題なく動くようでホッとする
「こんのぉおおお!!!クソ餓鬼がぁ!!!」
いきなりオッさんオークが大声を上げる。戦闘中に無かった怒気が溢れ出し、周囲にいた魔獣が声を上げて逃げ出す。ゆっくりとオッさんオークは立ち上がり、銀の槍を拾う。地面にできた槍の跡に、その重さが推測できた。
魔獣と一緒に逃げ出したかったが、できるかぎりユックリと声をかける。
「あのさ、オッさん。俺って1回死んでるじゃん」
「・・・」
「だから、オッさんに蹴られて死んでるじゃん」
「はぁあ???」
最初は無視したのに俺の発言内容に疑問を持ったのか、首を傾げて急にオッさんオークの怒気が霧散する。それから俺は必死で前回の勉強代を返したかったこと、教わったことが多く感謝していることを伝える。
「じゃっ、次こそが本番ってことだな」オッさんオークが槍を構え直す。
「いやいやいやいや、全然違うでしょ。それにオッさん油断して魔法使ってないし」
そう言うとオッさんオークがニヤリと顔を歪める。その顔は爽やかさとは無縁のものだった。




