誰の手癖が悪いのか?
「エスプリ、慣れない火魔法はどうだった?」
カナデの表情からおおよその見当が付いていたのか、オトハが警戒を露わにする。カナデも警戒を解いていない。ソウはあまり雰囲気に出ていないが驚いてはいない様子だ。
「んんー・・・聞きたいことがたくさん有るんだけど」
エスプリが伸びをしながら話す。
「まずはケント、おまえだな」
言った瞬間にエスプリはバックステップで距離を取ると、着地地点の地面にシワが寄ったかのように急に盛り上がる。少し気を取られた分だけ初動が遅れ、アイルランダーの城壁くらい高い土壁にエスプリの姿が見える。
「『アース・シェイク』」エスプリの声が高い位置から響く。
確か地震・地割れを起こす呪文だ。すぐにソウ、オトハ、俺の3人に『ラ・イド』をかける。
「相手はAランク冒険者だ。絶対に気をぬくな!!」
そう声を張り上げ、俺は盛り上がった土に『ファイヤ・ボール』をぶつけてへし折る。
『倒れるぞー』とか言いたくなるほど、ゆっくりと大きな土壁が傾く。アイルランダーの防壁ほど高いところが崩れていくのは戦闘中じゃなければ圧巻である。
傾いた先にいるはずのエスプリの姿を見失う。ただ、隠密セットは常時ONなのでどこにいるかは分かっている。
「オトハ、7時の方向に水魔法!」
「『ウォーター・バード』」
はぁっ!?と驚きそうになるが、オトハが魔法を使うと水の鳥が現れる。なにそれ?水魔法なの?召喚魔法なの?と味方の魔法なのに不安になる。
グウォオオオオオオ!!
咆哮とともにウォーター・バードが水の塊を何発も穿つ。どうやら召喚魔法のようで、オトハと同じくらいの身長の鳥が撃つ水の塊は土ごと抉っていく。何発か撃って手応えを感じたのかウォーター・バードが水の塊を打つのを止めると、そこには片腕を抑えたエスプリが立っている。
「・・・すげぇな」
何魔法か分からないけれど、躊躇なくぶっ放す度胸といい、魔力コントロールといいレベルが高い。
「でも油断はできないね」
カナデがオトハの真後ろ3mくらいの地面に向かってウィンドアローを数発撃つと叫び声が聞こえた。
「やっとダメージ入ったな」カナデを見て俺は言う。
「オトハも分かってたんでしょ?」カナデが言うとオトハが頷いた。
地面から出てきたエスプリは呼吸を乱し、腕から血を流しながら立ち上がった。
「なぜ分かった?」
エスプリの短い間隔の呼吸音がしずかな街道の空気を揺らす。土人形にはエネルギーが入っていなかったし、『サーチ』には本人の居場所が丸わかりだったから迷うはずがない。
「匂い」
空気をぶった切る1名が言う。確かに獣人だから、そういう方法もあるのだろう。
「くそっ!!」
そう言ったエスプリは土壁を分解したらしく、辺り一帯が土埃で視界が見えなくなる。粉塵爆発狙いに切り替えたようだ。
「『レイン・スコール』」
オトハの声が響くと辺り一帯に文字通りスコールが降り、視界を遮っていた砂埃は一瞬で収まる。オトハの水魔法ってここまでレベル上がってなかったよな?
「お、おまえは何者だ!!」
既に魔力も尽きたのか、地の姿で現れたエスプラーザ・リメインが言い終えるとその場で倒れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
動けなくなったエスプラーザ・リメインを拘束した後、俺たちは野営の準備を始めた。4人での野営なんて初めてだったが、それぞれ役割をすぐに決めてテキパキとしている。「前の世界で、4人で野営なんて考えられないね」とオトハが笑いながらテント設営をした。キャンプくらいなら行ったかも知れないが、野営は全くの別次元だ。いつ襲われるか分からない場所で寝る、それ自体が日本では経験できない。携帯電話も警察も機能していない。
それにしてもオトハの水魔法を教えて欲しいのだが、問題要素しかないエスプラーザ・リメインがいる。盗み聞きされるのも嫌だし、後で聞くことにする。俺も『ファイヤ・バード』とか使えたらロマン魔法使いの仲間入りである。乗るときに焦げなきゃいいけれどなぁ。そこは水と違うからなぁ。
火をおこし終え、スープが温まったところでエスプラーザ・リメインが目を覚ます。
「エスプリも飲むか?」
エスプリには回復魔法を使っているので目立った外傷はなく、衣類の損傷だけが目のやり場に困るくらいだ。ただ、油断できないので「眼福です」とは間違っても言えない状況だ。なぜか女性陣2名より上着を羽織らせろとか苦情は出ていた。
素のエスプラーザ・リメインは茶色の髪に同じ色の瞳、少しだけ日焼けしている肌は健康そうな女性である。身長は俺よりも少し低いくらいで、5人の中では最も低い。気品のある女性は土魔法と水魔法でカバーしていたのだろう、『アナライズ』を使わなければ正体は分からないほど生々しく、修練度の高い魔法に驚かされた。しかも、戦闘中もそれを使っていたのだ。もし別の方向で魔法を使っていたら勝負は別のものになっていたかもしれない。
「う・・あぁ、いただきたい」
「はい、どうぞ」オトハが丁寧に椀を渡す。
黙って受け取った温かいスープを皆で火を囲みながら飲む。少し前に殺し合いの戦闘をしていたとは思えないほど、穏やかで気の知れた仲間のような雰囲気がある。エスプラーザ・リメインには聞きたいことが沢山あった。
「なぁ、エスプリ。いろいろ聞いてもいいか?」
「そのあとで私が聞いて良いか?」
「内容によります」オトハがすぐに答える。
「なぜあんな事をしたんだ?」
少しの沈黙の後、自分の状況をエスプリが話し始める。ナビカにある冒険者ギルドからの”指名クエスト”で、ブスネットへの街道にあるロイヤルクラウンの馬車を見つけ、馬車の中身を確認してくるという依頼だったらしい。話を聞いたときは”帝国のロイヤルクラウンの馬車”に手を出すバカなんて帝国領土内にいない、と疑っていたという。ところが現場ではその馬車は横転していて、馬車の中や周辺には誰もいなかった。
「闇ギルドとかの依頼じゃないんだよな?」ギルド違いで騙された俺が言う。
「はっ!!そんなもん私が受けるわけないだろ」喜怒哀楽を表に出しやすいんだな、エスプラーザ。
「エスプラーザとエスプリとどっちで呼ばれたい?」
急に表情を無くす。エスプラーザ・リメイン
「・・・それでバレたのか?」
「それ以外にバレる要素は無いぞ。魔法が上手すぎてソウなんて本当に王女と思ってただろうし」
無言でおかわりをするソウが一瞬だけこちらに目線をよこす。もう食べてる時、寝てる時にかまってはいけない動物みたいである。
「じゃぁ、”エス”で頼む。知合いは全部コレだ。」
「ドエスって呼んだらダメ?」
「ド・エスってなんだ?」
横にいたオトハに蹴られる。最近、俺に対する扱いが雑になっている気がする。最初の頃は皆、ルーキー冒険者って感じで・・・と中年のオッさんのように思いふける。
「ドエムって呼んで良いよ」
あっ・・・。
風が巻き起こり、後ろの林にいた魔獣を抉る音がした。まだ大丈夫な距離だったよね、カナデさん?
「じゃぁ、エス。なぜ戦い方を変えなかった?」
「まず、おまえらが馬車を襲った連中か知りたかった。当然、首都に偽装した私を連れて行こうなんてするはずが無いと踏んでいたが、まさか『関わりたく無いから勝手に付いて来い!!』なんて命知らずな事を言うとは思いもしなかった」笑いながら声を上げて笑うエスが言う。「痛快だった。あんなことを本物の王女に言う馬鹿が帝国にいるとは思わない」とフォローらしきものまでつけた。
正直に話すエスの姿に警戒が解けないオトハが確認すると、「この状況で私が殺されないのであれば、少なくとも私の敵ではない。それにご飯どころから傷まで治してくれてありがとう」とニッコリと返答されて照れていた。




