お初のナビカ人
「早く行きましょう!!」とオトハが言うかと思ったが、予想以上に皆、腰が重い。
・・・スルーでいいんじゃないでしょうか?
お互いにお互いを見つめ、しぶしぶ感の意思疎通をしたところで馬車に近づくことにした。だれも馬車にいちばん近寄ることはしなかった。皆、「あっ!どーぞ、どーぞ」とサラリーマンのように譲り合っている。あくまで想像のサラリーマンだけど、具体的なサラリーマンは会計時に「まぁまぁまぁ」という言い合いしか見たことはない。あれ、意味あるのだろうか。(トオイメ)
「ちわー」
急に諦めたカナデが横転した馬車のドアを空に向かって開ける。
グバン!!!
火魔法を使ったらしく、空に爆発音が響く。カナデに怪我はなく、同じような体勢で中に声をかけている。
「大丈夫ですかー」
すげぇ緊張感がなく、小慣れている感じが否めない。すでに火魔法を避けたことさえ無いことにしている。すでに大物の気配がするカナデである。絶対に面倒事だと思っていても人助けをする心を無くさないカナデである。
「きゃぁ!!」
馬車の中から聞こえる女性の悲鳴に俺のダークエルフ耳が反応する。間違いなく、20歳前の美女の声だ。馬車を見ると俺を制したオトハがカナデの横から馬車の中を覗く。まぁ、確かに女性2人の方が相手も気が楽だろう。全然悔しくない。
「非礼をお詫びします。通りすがりの冒険者ですが助けが必要でしょうか?」
オトハが用心深く声をかける。いきなり扉を開けたら火魔法を使うくらい緊張している相手だから気も使う。そして、それが間違いだったとしても”問題ない”と処理できる身分はあるのだろう。また目頭を押さえたくなる。
「私を誰と思ってい」
「助けは必要ないのですね、わかりました。失礼いたします」
オトハ・・・今話している途中だったよね?カナデが横で頰をかいているのが見える。爪、少し切りなさい。
「というわけで、リヒト、行きましょう。ってかヤバイ!!」
「どうしたの?」
「なんか見覚えあるなぁって思ってたんだけど、このマーク、帝国家のロイヤルクラウンよ」
「いや、もう十分マズイんじゃね?」
オトハとカナデが馬車から降りてこちらに来ると、扉から白くて細い腕が伸びている。
「ちょっと!!誰か出しなさい!!手伝いなさい!!!」
3人で強烈にため息を吐く。
ソウがなぜか馬車に乗って手を貸したのが、まるごと他人事に見えた。あぁ、絵面だけ見たら、眉毛と顔が濃い男が美女を救いだし、これからいい雰囲気なんですね、おめでとうございます!!とか言えるのになぁ。映画って映画だから良いっていうのがあるよな。フィルム切れが大事。
「なぜ貴方達は手を貸さないのですか!!」
3人とも誰も目を合わせようとしない。今回ばかりはカナデも動かないどころか、耳をほじり始めてる。あっ、獣のふりしてるよ、コイツ。爪切れば良いのに。
「そこのダークエルフ!!貴様だ」
ダークエルフは今在庫を切らしております・・・。
「あの通りすがりの冒険者に何を期待してます?」
顔を傾け、苦笑いを無料トッピングサービス中である。さすがに目の前のお嬢様も黙っている。
「さらに俺の大事なパーティーにいきなり火魔法使う方に手を貸せと?」
逆側に首を傾け、今度はジト目の無料サービスをする。明らかに過剰サービスである。
そういうとお嬢様はフルフルと震えだし、怒鳴られると身構えていたのだが急に大声で泣き出した。
「だって、怖かったんだもーん!!」
白い腕の持ち主は、金髪が腰まで伸びていて、頭上に光る髪飾りの細工が所有者の身分の高さを掲げていた。緑色の瞳は濡れていても光を失わず強さがある。今は幼さが抜けないけれど、気品高い美人になることは確定事項だろう。着ている白を基調にしたドレスも、この世界にその驚きの白さ!!ってレベルである。
「わたしは絶対にナビカに辿り着かなきゃいけない」
ツリ目がかった表情が一層凛々しくなる。さっきまでオンオン泣いていた女の子に見えない。
「で、いつまでにナビカに着く必要があるの?」オトハがさり気なく聞く。
「ビスネットを出て馬車で3日ほどしか経っていない、歩いたら4日はかかるだろう」
そこまで説明して女の子がハッと警戒した。頭の回転も悪くないようだ。
「すまん、俺たちも初めてビスネットの東の村から出て首都に向かっている。地理と距離感は薄いんだ」
「ところでこれからどうするの?」カナデが空気を読まずに言う。
「えぇと、お嬢さん。お嬢さんが色々と訳ありなのは事情から察するけれど、①俺たち冒険者と一緒に首都に向かう、②ひとりで向かいたいから俺たちにさっさと行けと命令する、③しゃべりたくもないから近寄るなと命令する、のどれが良い?」
・・・ジト目でお嬢さんに見られる。
「よっぽど関わりたくないのね」
「できる限り平穏に首都に向かいたい」
「できると思う?私を襲ったと言うかも知れないのよ」
「だから関わりたくないんだよ」
道端の石を拾い、街道の西側の森へ投げる。八つ当たりに当たった樹が音を立てて折れた。魔力さえ通したら投石も十分な威力になるのが分かった。
「で、ほんとうに関わりたくないんだ」素の笑顔をする。
「うわぁ、それガチで引くわ」カナデが話をはさむ。
「まぁ、でも身分の高い方と一緒にいると、良くも悪くも目立つよ。あと、万が一にも守れなかったら私たち死刑だけじゃ済まされないわよ」オトハがカナデに説明する。
罠の可能性が高い以上、そこに見合った報酬は俺には見つけられない。仮に王女だったとしても、初めての国の初対面の人間に自分と友人3名の命をかけるなんてことはしない。
「なぁ、俺が護衛を請け負うってのはダメか?」ソウが意見を出す。
「理由は聞かない。ソウがそうしたいのか?」
辺りが静かになった気がする・・・。横で赤い頰をしたオトハが咳払いをする。あっ、ダジャレ?
「ごめん、ダジャレじゃなくて。ガチで」
「あぁ、役に立ちたい」
「ソウって美人に弱かったっけ?」と小声でカナデがオトハに確認している。
「わたしが頭を下げなければなら」
「すまん、話さないでほしい」当然のごとく俺はお嬢さんの話を遮る。
ソウは意見を変える気は無いようで、まっすぐに俺を見ている。この目の時のソウは意見を曲げないだろう、例えひとりでも護衛をする気だ。
「なぁ、ソウ。条件がある」
「?」
「まず、お嬢さんの身元、身分を俺たちは知らないし、名乗らないで欲しい。それであれば、万が一に守れなかったとしても『途中の旅路で着いてきたから事情を知らない』で済む可能性がツチノコを見つけるくらいのレベルである。あと、事情を知らない俺たちは道中でお嬢さんに気を使う必要がなくなるし、首都に着いたら無事にバイバイできる。街に着いた直後に変なところに連れてかれて事情聴取とか、報酬を与えよう等の面倒ごとの回避もネッシー発見レベルで期待できる。どうだろう?」
この状況になった時点で、護衛を受けても逃げてもダメなんだよな。いっぺんに話した俺はすでに無駄な徒労を感じていた。




