お初のナビカ帝国
3/21 誤記修正
鐘の音が鳴り止んだところで少しずつ風景が見えて来た。薄暗く、どこかの祠か洞窟に魔法陣を形成したものだと思う。出口と思われるところから光が漏れている。「アイルランダーからナビカ帝国に転送する」というのがイヴォーグの話だが、誰もナビカ帝国の街並みなど知らない。
「これ、ローンスターの森を思い出すね」
「あぁ、最初、こういう感じだったよな」
久しぶりにオトハとソウの会話を聞く。さっきまでイヴォーグに言われずっと沈黙を守っていた。
「ん。あっちに商隊っぽい気配がする」カナデが伸びをしながら言う。
「よく分かるわね。私には『サーチ』でもかからない」
「まぁ、リヒトの次に私ができるからねぇ」と胸を張る。
なんか火花が出てるような気がしないでもないけれど、冒険者同士、切磋琢磨してください。カナデは少し異世界に来てから性格が変わった気がするが、最初の事件のせいかもしれない。いい意味でオトハも柔らかくなった。ソウだけは安定の・・・ソウに戻った。
洞穴を出て森の中で少し歩く。やはりカナデが指した方向に複数の人の気配がした。結構な移動スピードな気がするので馬車移動かもしれない。
「いかないの?」カナデが先を促す。
「うん、ちょっと様子を見たいな。相手も文化も分からない」
「まぁ、それは正解かもしれない」
結構なスピードで馬車で移動しているとなるとテンプレ展開くらいしか思いつかない。あとは、どうしても漏れそうで猛烈に森に向かっているとか。ちなみにトイレ事情は街中だと補助魔法での水洗になっている。電気に一旦変換しない分、エネルギー効率でも異世界文化はバカにできない。
「それより囲まれてるぞ」ソウが待ちきれずに切り出す。
「ん、ちょっと補助魔法かけるぞ」
「あぁ、頼む」
全員に『ラ・イド』をかける。イヴォーグに魔物が強くなっていることを聞いた。油断は絶対にしない。
向こうから飛び出して来たのは、濃い紫色のコウモリとテナガザルを合体させたような魔物だった。
『アナライズ』
魔物名:フラップトルタ
素材:羽、牙
特技:麻痺ブレス、爪飛ばし
「魔物名、フラップトルタ、麻痺ブレス、爪飛ばしが特技である。遠距離でも油断なし!!」
号令をかけて相手に斬り込む。サーチに引っかかったのは6体だ。羽があるので飛行しそうだが、今のところ樹から直線的に爪を刺しにくる。
横に躱したところで、フラップトルタが羽を広げて直角に空中で向きを変える。物理法則というよりは魔法による移動法だろう、癪だがカナデの方が疾い。余裕で1体目を刀で屠る。
「うわぁ、この刀の魔力吸収がすっごい癖になる」
魔力を吸収した分だけ切れ味が確実に上がるのだろう、いままでより格段に手応えが無い。スーと通すと相手が分断される、そういう感触だ。
「エゲツな!!」
そう言うカナデも角度を変えてきたフラップトルタよりも自分が早く動き、二刀流の短剣で相手を屠る。
ソウ、オトハは連携して1体を相手にしている。横目でそれを確認し、問題なさそうなので他の2体に狙いをつける。
『ファイアアロー』を無詠唱で1体に向けて撃つと、直撃した相手に爆発音がした。少なくとも今までは貫通していて爆発など起きなかった。レジストしたため、貫通することなく爆発したことを理解する。すぐに手負いに近づくと、体勢を崩しながらもフラップトルタが魔法攻撃をしてきた。多分、『ウィンドアロー』だと思うが、目の前に違和感を感じてすぐに躱し、刀を振るう。
こちらに背を向け、逃げそうになった1体に俺は追いすがり始末する。そのタイミングでオトハとソウは1体を倒したところだった。
「うーん、素材回収を速やかにして。森を即退避だな」
オトハとソウの頭には?が付いているが、カナデは直ぐに魔物を拾い解体をする。魔石、羽、牙と正確な動きにベテラン感が出ている。
「俺が警戒に当たるから急いで」
「はい!!」
普通に「はい」と返事するオトハに吹き出しそうになったが、あまり緊張感を欠くこともできない。向こうは気がついているのにこちらにくる気配が無いのが救いである。なんかそう遠く無い距離にナニカが間違いなくいる。もし向こうにその気があったら戦闘中に来て、俺たちを全滅させていたと思う。どんな相手なのか見にいきたいが好奇心よりも3人を死なす確率を上げる方が嫌だ。ただでさえ、巻き込んでナビカ帝国領に入ってしまったのだから。
手早く6体の素材を取り、死体を集めたところで俺の火魔法で処理する。森が燃えないか心配だったが、この森にそんな心配はいらない気がするほど魔力に満ちていた。どんな天変地異でも少し経てば変化に気がつかぬほど復活するだろう。
森を『ラ・イド』の移動訓練もかねてかけたまま街道まで走る。街道に出ると、先は丘をくだった傾斜になっており、その先に倒れた馬車が見えた。車体は品のある茶色がメインで、家紋なのか金色のマークが付いているのが見えた。どうみても面倒事にしか見えなかったので目頭を押さえると、カナデが首を横に振りながら俺の肩を2回叩いた。




