豆・豆・豆 その4
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横を向くと覚えのない顔だった。
「どちらさま?」
「覚えてないの!?」
「ごめん、ガチで分からん」
顔を覗かれるがまったく覚えがない。誰だ、この人。まぁ、それでもキスしなきゃだめな祭なのだから仕方がない。キスしようとすると本人に止められた。
「ちょっと待って」
「いや、それなら豆入れるなよ」
あっ、男性側からするとそういう祭なのか。豆さえ口で受け止めて投げた方が光ればキスできるという・・・。いま気がついたが結構なサバイバルである。ストレス発散orキスである。でも、この人は俺を知っているのに俺は本当に心当たりが無い。
「おまえ、私のこと蹴ったのに忘れるなよ!!」
周りで俺たちの会話を聞いていた女性が「サイテー」といい騒ついていく。俺の頭では精一杯検索君が始まっているも「該当ありません」としか出ない。
「ん?あっ、その顔の傷はあの時のイカれた魔法使いか!」
「てっめぇぇえ・・・ん”ん”!!」
面倒臭いのでそのままキスをする。それだけ顔も近ければ魔法強化が無くとも俺の方が早い。
周囲から「あのダーク・エロフ最低ぇ」と若い女性複数から言われる。とりあえず、イカれた魔法使いは放心しているので無視して先へ進む。やっと最後尾から抜け出たところだ。
段々楽しくなってきた。いままでは目立たぬよう、ひっそりとした生活をしていたし、街での日々も淡々とした日々だった。できる限り人と接触を持たないようにしていたのに、通称カナデの母ちゃんともキスしたりする。酒も飲んでいないのに『まぁ、いいじゃないか!!』と自分の中で騒ぎ立つ者がいる。もう何でも来いや!!的な感じである。
「リヒト〜、豆受け取って」
喧騒でも通る声が聞こえて来た。
何でも来いや!!とか調子に乗ってて本当にすいません。
「ん”!!無理だ。メイプル!!」声の方を見ずに答える。
流石にメイプルとキスするほど常識から外れていないし、理性も残している。と、考えていると横を風が突き抜けた。避け損なって頬をかすめる。豆に直撃した冒険者が軽く吹っ飛んでる。
「おい、変態リヒト。メイプルの豆受け取れや!!」
投げた方を見るとカナデがいた。ケモミミごと体が震えているのが通路を挟んでも分かる。横に立っているメイプルはなぜか涙目である。こ・・・これはいいのかぁ?取り敢えず、メイプルのそばまでダッシュする。
「おまえ、俺はメイプルは好きだけれどロリコ」
「うだうだ言わんと受け止めてやれ!!」
俺の気持ちを伝える前にカナデに遮られる。メイプルはカナデの鎧の端をギュッと握っている。下を見ているため、表情が確認できない。
「メイプル。俺が豆受けていいの?」
「うん。でも、リヒトがイヤならいいよ」
「わかった。豆くれ」
メイプルに豆を投げてもらい、口で受け取るとメイプルが光る。メイプルの高さに合わせるため片膝を着くとメイプルが腕を頭に回した。
ブチュウウウウウ!!!
チュパ
離れるときに音がでるほどチュウされた。そう、キスというよりかはチュウである。周りも笑顔と拍手を送るほど目立ったメイプルは頭を掻いていた。
「あっ、メイプル。その服着てくれたんたね」
「うん、リヒトから買ってもらった服だよ」
「やっぱり似合ってる。ありがとう」
メイプルには笑顔が良く似合う、というか花が咲いたかのようにパッと明るくなるのだ。周りも含めて、それでどれだけの人達が救われているだろう。本人はまったく気がついていないのがポイントだけれども。
「それにしても俺が初チュウで良かったの?」
「その聞き方、おっさんだよ」カナデとは逆側に立っているオトハが言う。
「うんん。リヒトは二人目なの。だから大丈夫」
ガチでガックリきた。あぁ、初キスじゃ無いのね。メイプルさん、結構やり手だったのね。
起き上がる俺にカナデが話しかけてくる。
「リヒト、あーん」
「はぁ!?」
「良いから、あーん」
「やがぁっ・・・ってオトハ?」
下手から綺麗に投げられた豆の軌道は俺の口。
「おまえ、なにしてんだよ!!」
「まぁまぁ、早くオイデ」
手招きするオトハを良く見ると顔が赤い。すでに酔ってるなコイツ。
「おいおいいぃいいい!!」
「ちょっと、オトハ!!抜け駆けしないでよ」
「ケント、口開けてぇ」
「口開けるってなに?」メイプル、耳を塞げ!!
固まる俺を楽しげに見たオトハはゆっくりと顔を近づける。
・・・
終わった後、満足そうなオトハの顔がエロかった。
「じゃぁ、ごちそうさま」と去ろうとする俺に再び豆が飛ぶ。
「リヒトと私もする!!」すでにカナデは泣き声だ。
周りの騒ぎも大きくなっていた。俺から諦めて口を開けて豆を貰い、カナデにキスをする。なんだろう、前世で1日にこの2人にキスするなんて死んでもないよなぁ。まぁ、死んでから有ったわけだけど。
そうして無事にキスを終えると、周りにいた女性陣が「私も〜」と豆を投げて来た。ちょ!!流石にもうテンションも落ち着いたというか、知ってる人とキスした感慨に浸りたいというか・・・と考えていると、オッさん冒険者が俺の脇を固めて「ここは任せろ!!」と口で受け止めていた。すげぇ!!罵声を浴びているのに嬉々として女性に近寄るオッさん達。キスした後にビンタされてもオッさん達は男前の顔だった。
世の奥深さを考える日である。
そうして俺に護衛が何人かついては消えていきながらゴールを目指す。俺は皆の尊い犠牲の上を走っている。




