茉莉花堂の看板娘
長い長い冬が終わり、花咲く都にもようやく春が訪れた。
ドールブティック茉莉花堂は、今日は展示してあるドールドレスが軽やかな春の花の色に染まっている。
「よし、これでいいかな」
ディスプレイ用ドールの着せ替えを終えて、金の髪の少女は丁寧にドールを座らせる。
今日は彼女も、華やかな色合いのピンクのドレスを纏っている。ふわりふわりと動く度にひるがえる裾は、まるで花びらが舞っているかのようだった。
「さぁて、今日もお客さん来るかな?」
その言葉と共に、開店時間をしらせる鐘が、遠く鳴り響く――
そして――今日も茉莉花堂には、心ときめく可憐なドールドレスを求めて、客が訪れる。
そんな客たちを出迎えるのは、茉莉花堂の看板娘――メルレーテ・ラプティ。
花盛りの十七歳の乙女だ。
花の国ルルドの王都、花咲く都とも呼ばれるこの……ルルデア。
そこに走る無数の道の一つに、収集家小路と呼ばれる小さな通りがあるんだ。
収集家小路には、変わった店がたくさんあるけれど、その中のひとつ、一見平凡な店構えにも見える、その建物が僕の目的地。
掲げられた看板には ドールブティック茉莉花堂 と言う文字と、白い花を模した美しい飾りがついている。
大きな飾り窓を覗き込めば、ドールのためのドレスや帽子や靴やアクセサリー……そういった品々と、そこで忙しく働く一人の可憐な少女の姿が見える。
ほんのすこしばかり勇気をだしてドアを開けたならば、その少女は蕩けそうなほどの極上の笑顔で、僕を出迎えてくれるんだ。
「いらっしゃいませ……ジル!」
そう、彼女はメルレーテ・ラプティ 茉莉花堂の店員にしてドールドレス職人だ。
……そして、僕の恋人。
「やぁ、今日も来たよ、メル」
「ふふ、いらっしゃいませ、ようこそ茉莉花堂へ!」




