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花咲く都のドールブティック  作者: 冬村蜜柑
真白い輝きの冬の章
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それは なまえのない物語(その二)




「白……」



 応える白の顔は、どこまでも穏やかだった。


「いいんだよ――この神の力がある限り、僕はいつまでもいつまでも存在し続けることになるだろう――そんなのはもう嫌なんだ。僕はメルと――リンネメルツェと一緒に眠って、そしてゆっくりとこの優しい世界に溶けていきたい」

「本当にいいのね」

「うん……ごめんね、メル」

「いいの、ありがとうね、白……」





 そしてメルはくるりと振り向いて――





「神のちからを使いたい人、居ますかーー?!」



 そう、大声でその場の皆に問いかけたのだった。




「「「……」」」」


「メル、その聞き方、すごく軽いね」

「まるで学院で、この余った牛乳欲しい人いませんかー、って聞かれているみたいだわ」

「その聞かれ方だと逆に困るよね」

 案の定、ジルセウスとユウハとユイハに順番にツッコミを入れられるメルであった。


「皆様方、パラフェルセーナ公爵が使いたいそうですぞ?」


「な……おいベルグラード男爵! 何を言い出すか! 私はそんなこと一言も」

 ぽかぽかととても小さな拳でベルグラード男爵の頭を叩くパラフェルセーナ公爵。上司と部下だというのに、仲がいいことだ。

「言っておらん、取り消せ!」

「それはなりません。……行っておいでなさい、公爵。いえ、リーリシュカ様」

「……っ…………ふん」


 二人の間で話がついたようで、公爵はいかにもしぶしぶと言った感じでひらりひらりと白に近寄る。

「おい、神をちからとやらを使うにはどうすればよいのだ。白いの」

「簡単だよ、君自身の願いを念じながら、僕の手に触れてみて」

「……わかった」

 パラフェルセーナ公爵の小さな手が、白の手と触れ合い――白い光ががふわりふわりと雪のようにその場に降ってくる。

「あぁ……これが君の願いなんだね……わかったよ。君をその時間へとゆかせてあげる。ちゃんと言っておいで――別れの言葉を」

「……!」

 そして、しばらくしてパラフェルセーナ公爵は――ひらり、ふわりと地面に落ちた。

 地面にうずくまった公爵から聞こえるのは、涙混じりの嗚咽。

「娘よ……私は、お前を愛していたぞ……どうでもいいなどと……あるわけがないのだ……エナディアール……私の……娘……」






「リンネメルツェ、今日の君はきれいだ。……いや、いつでも君はきれいなんだが、今日はその、特に……」

「……」

 一方的に喋るマナフ・アレンを、リンネメルツェが表情無く見上げている。

 メルからもらったわずかな命の力も使い切ったリンネメルツェの、それが精一杯。

「君は、俺に絵の道を示してくれた。いや、直接示してくれたわけじゃないんだが、俺には大事なことなんだ。本当にありがとう……君のお陰で、人とは違う、楽しい人生を送ることが出来た。そして俺は……これからも生きるよ。そうだな……ジルセウスの子供の成長を見守るぐらいには、生きる予定だ」

 こくん、とリンネメルツェが頷いた。

 マナフ・アレンには……マナフォートにとっては……それで充分だった。






「大きな棺だねぇ……」

「あぁ、何しろ二人分と注文をつけられたからな」

 大いなる白い繭の前に安置された大きな棺のまえで、ウルリカと父親のシグルド・ブレイア・マギシェン侯爵が話している。

「……あのね、父様、ヴィクトリア姉様のことなんだけど」

「……」

「ヴィクトリア姉様の好きになった人は、あの教団のひとだったんだって、それだと……姉様は、姉さまの恋は、その」

 ぽふん、とシグルドがウルリカの頭をなでる。

「それでも、その少年はヴィクトリアと運命をともにした、それが――ヴィクトリアが最後の最期に手にしたものだ。それは誰にも馬鹿にすることのできない、本物の恋というものだよ」

「……父様……父様……!」

「やれやれ、最近のウルリカは甘えん坊だな」




 そして――葬儀の終わりの時間が近づく。

 白はリンネメルツェを抱き、そっと棺に横たわらせた。

 そして、自身もするりと棺の中に入り、手を組んで横になる。


「じゃあ、おやすみなさい」

「……おやすみ、白。おやすみ、リンネメルツェ」


 小さくメルは手を振る。

 理から外れてしまった命ではあるが、時をかけて輪廻に還ることは出来る。

 二人はここで眠りについて、静かに、ゆっくりと、世界に溶けていくのだ。


 メルは――あふれてくる涙をごしごしと乱暴に袖で拭った。


 そして


「この大いなる繭――神のかけらのことは、我らに任せておくがいい」

 パラフェルセーナ公爵がそう宣言する。

「私の方から国や神殿に働きかけて、まっとうな神として祀ることで鎮まってもらうとしよう。きちんとした信仰が広まれば、おかしな邪教の徒も自然といなくなることだろうよ」

「はい、お願いします」


 




 こうして――いろんなものが、世界にとけて――癒やされていく。


 そして――時はめぐりゆく。



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