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花咲く都のドールブティック  作者: 冬村蜜柑
真白い輝きの冬の章
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それは なまえのない物語(その一)




「まったく、急にこっちに呼び出されたかと思えば、まさかメルの死装束を作ることになるとは」

 シャイトがため息混じりに愚痴をこぼす。


「私じゃないってば、リンネメルツェだよ、先生」

「あぁ、だからメルだろう?」


 ここはドールブティック茉莉花堂――ではなく、湖底遺跡の祭壇の間だ。

 そこにはもうすでに、皆集まっていた。

 メル、シャイト、ユイハにユウハ、ジルセウスはもちろんのこと、ウルリカやテオドル、パラフェルセーナ公爵とベルグラード男爵、マギシェン侯爵夫妻。

 それに……。


「俺までお呼ばれしちまってよかったのか?」

「リンネメルツェのたっての希望でしたので……お忙しいでしょうに、わざわざありがとうございます、マナフ・アレン様」

「いや……そう言われるとなんだか……照れるな。ありがとうよ」

 そう、マナフ・アレンもリンネメルツェのドールを抱いてなんだか落ち着かなそうに立っていた。

 今日のドール・リンネメルツェはあの日メルが納品したドレスを纏っている。

 それは、どこまでも白いドレスだった。かっちりした立ち襟の上着には、真珠に似たビーズが美しい模様を描いて縫いとめられている。スカートは腰がぷっくりと膨らんだバッスル・スタイル。裾は少し短く、かかとの少し高い白い靴が見えるのが可愛らしい。

 ドレスの銘を「なまえのない花」という。これは、シャイトが付けた銘だ。


「さて、今日の主役たちはそろそろ登場かな?」

 ジルセウスが射影器を点検しながら言う。

 そしてそれがまるで本当に合図だったかのように――


「皆、今日はありがとう、僕達の『葬儀』に来てくれて」

「……」


 白い光をまとった白い人物が、漆黒のドレスを纏った金髪の乙女を伴って、祭壇の大きな白い繭の影から現れる。

 その漆黒のドレスは、つやの少ない絹で出来ていた。

 形は、胸と肩が大きく露出するオフショルダー。その胸元には黒水晶と黒いリボンで出来た飾りがあしらわれて、可憐さを演出している。

 袖は大きく膨らみ、いちどきゅっとリボンでしめられて、そのまま手の甲まで覆うかたち。その袖の先には長い黒のレースがあしらわれている。

 腰は黒いリボンベルトで細くしめられ、スカートは横に大きく広がり、真ん中が開くかたちだ。カーテンのように開いた中央からのぞくアンダースカートもまた黒い。

 首にはリボンの形をしたチョーカー、頭はヴェールと大きなリボンのたれさがる小さな帽子。

 

 これが――リンネメルツェの葬儀のためのドールドレスだった。


「……」

 リンネメルツェが白の袖をくいくいと引っ張る。なにか言いたいことがあるようだ。

「ん……あぁ、ねぇメル、それにシャイト、このドレスの銘が知りたいんだってさ」

「お前に任せる」

「はいはい、わかりましたシャイト先生。このドレスの銘は……『なまえのない物語』というの。私の……リンネメルツェの物語の締めくくりに相応しいでしょう?」

 リンネメルツェは、表情はなかったが……こくりと頷いた。

 白も、同じく小さく頷く。

「そうだね……茉莉花堂にお願いしたかいがあったよ。リンネメルツェというドールのための最高のドールドレスを、ね」

 ドール、という単語を聞いて……ユイハとユウハ、それにジルセウスがそれぞれに複雑そうな表情になったのを、メルは見たが……あえて気にしないことにする。


「それじゃあ、ドールドレスのお代を支払うよ」

「……白、本当にいいの?」

 不安げに問うメルに、白はものすごくあっけらかんとした表情と声で言う。



「いいもなにもないよ。僕に支払えるのはこの“神の力”しかないんだからね」

 



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