第36話_ヘディングイントゥ戦闘
「いや皆殺しはやり過ぎだろ」
断じて言うが、俺が口を出したのは巻き込まれたくなかったからだ。ヴァルズールに愛着が湧いたからとか、職人連合を擁護したかったからとか、そういうものでは決してない。更に言うとシェンを助けたい訳でもない。
場は張りつめている。玉座に座るシェン、傍に控えるタギリ・ナギリの姉妹、そしてその周囲を取り巻く屈強な男やら女やら。一触即発というやつだ。まともに考えればシェン側に勝ち目はないように見える。
「イゾルデ。何が何だか分からねえんだけど、革命ってのは何でだ? 何でこのタイミングで?」
「だから言ってんだろ!! そこの王のせいで街は無茶苦茶大変で職人たちがヒイヒイ言ってんだ!!」
では実際問題として革命渦中のシェンが不利かと言うとそんなことはない。何せこいつにはあの『飛翔』の魔術がある。追いはぎ共を纏めてバルーンのように宙に浮かせたアレだ。あれの前では数の暴力など……いや、ちょっと待てよ。
もしかしてそうでもないのか?
「確かに! 街の移動の度に戦乱は起き、戦死者も増える! 軍備のために貴様ら職人ギルドの者たちには夜を知らぬ製錬、武具の製造を求めた!」
「戦いが終わってからだってそうだろうが!」
「交易品だの何だのと無茶苦茶な発注しやがって! おかげで飯を食う暇もねえ!」
「そうだそうだ!」
「労働者を道具扱いするな!」
「度を過ぎた要求で職人たちを使い潰すな!」
「これ革命か? ストライキの間違いじゃねーの」
「ボケたこと言ってんじゃねえぞネモ! みんな命懸けで抗議してんだッ!」
真っ赤な髪で真っ赤な顔でイゾルデが怒鳴る。昨日の今日でよくもまぁ入れ込んだものだ。
「貴様ら職人ギルドの要求は分かっている! 街の移動を前提とした政策の停止、労働環境の改善、余と結んだ各種契約の撤回! それらを為すには余を屈服させる他なしとしたのであろう!」
「話が早えじゃねえか!」
「そうだそうだ!」
「なら移動のもっと前に蜂起しろよ。飛んでからじゃ色々遅いだろうが」
「余の『飛翔』魔術は燃費が悪くてな」
シェンが半分笑いながら言った。
「この規模の『飛翔』中では、追加で他を飛ばすことは難しい。不可能ではないが、着陸後の防衛力に不安を残す」
「防衛力?」
「テメェ、なんにも知らねえのな!」
イゾルデが俺を指差してくる。なお、その通りである。
「『飛翔』には街の住民のパワーを使うんだよ! 住民のエネルギーを薪代わりにして土地を飛ばす! 養分だ! ウソだと思うなら街ン中走ってみろ、非戦闘員は大体みんな自宅でウンウン唸ってる!」
纏めると、戦争前提で労働環境が過酷、『飛翔』でも街人に負荷がかかる。だから革命を、ということのようだ。
昨日聞いた話だと、『飛翔』魔術は更に「別の土地に移住する」気持ちが起きないように洗脳していくらしい。それを職人共が知っているか知らないかは不明だが、とにかく住民にとってココは蟻地獄みたいな街だったワケだ。
「認めよう。言い分に筋は通っている」
玉座でシェンが笑った。コイツもそういう点を踏まえて王の暗殺に踏み切ったのだから当然である。が。
「『イトラク・ハブス』」
シェンは呪文を唱えた。2人の化物族は揃って光に包まれ、やがて指輪とネックレスとしてシェンの身に装備される。
どよめきが職人連合から起きた。目の前でヒトが2人消えたのだからそりゃそうだが、実際のところ最大の原因はそこではない。
イゾルデが跳んだからだ。自身の背丈と同じくらいの戦斧を振りかざして。王へと。
「ヘンなことしてんじゃねぇ!」
「無礼者はいらん」
待て、と叫ぶ暇も無かった。イゾルデはその40オーバーな筋力ステータスで戦斧を振り下ろした。シェンは手をかざした。自身を斬り裂かんとする戦斧の一閃に向けて。
火薬が炸裂するような音と共にイゾルデが吹き飛んだ。
「おい!」
「待て」
突き刺すような威圧感が背中に突き刺さる。イゾルデはゴロゴロと地面を転がり、やがて停止した。
「他の者も動くな。動けば吹き飛ばす」
「何を――」
怒声が聞こえると同時に、再び炸裂音が響いた。見ると入り口近くの男が血を吐きながら宙を舞っていた。
どよめきが起きる。するとまた、炸裂音が連続する。一度、二度、三度。あちらこちらで人影が吹き飛ぶ。
「王命だ。造反者には一歩たりとも許さぬ。全身から血を噴き出したい者のみ這うことを許す」
王がそう言った頃には、全員が自身の危機を悟っていた。
その場から動けば、足下から吹き飛ぶ。そういう魔術めいた力が働いているのだ。
「ネモ。これでも余は感謝をしている」
……イゾルデを見た。
遠目にしか見えないが、顔から腕から血が流れているのは確かだ。足もヘンな方向に曲がっている。
「引き続き余の側近として尽くせ」
……シェンを振り返る。
「手伝ってくれるだろう?」
「随分と高く買ってくれてんな」
俺は笑ってみせた。シェンも薄っすら笑っている。
「ならアドバイスだ。ストライキに暴力で対抗はやめとけ。ロクなことにならねえ」
「それは出来んな。ナメられたら王の沽券に関わる。お前も似たようなドクトリンだと思うが?」
だんだんムカついてきた。完全に王さま気取りだ。
「繰り返す。余に力を貸せ。なに、愚か者共の首を一つ一つ斬り裂くだけだ。貴様の孤独も癒され」
俺はイゾルデへと歩いた。黒い裂布を引き伸ばし、ぐるぐるとドワーフの全身に巻きつける。
「ちょっと我慢してろ」
血塗れで、イゾルデは動かない。呼吸はしている。傷は……擦過傷などではなく、どちらかというと打撲に近い気がする。気道確保の為に横向きにしたら、その胸元からコロンと何かが転がり出た。
「何だ。ドワーフがお気に入りか?」
指の先くらいの、小さな彫像だった。ムポピョスポタンのカタチをしている。
「では約束しよう。コトが済めばドワーフを召使いにやる。だがその女は諦めろ。余に刃向か」
俺は思いっきり彫像に拳を振り下ろした。
バカみたいな音が鳴り響いた。
「……決裂か」
「お前に王の才覚はねえよ」
何せ俺は女が苦手だ。交渉ポイントがズレにズレている。
「北行特急に乗せてくれたサービスだ。止めてやる。お前が虐殺王にならねえようにな」
巻き込まれたくは無かったが、相手が巻き込んできたのだからしょうがない――俺はそう思い込むことにした。立ち上がりながら武器を確認する。
暗殺用に調達したナイフと小刀の残りは、どちらも後一本ずつ。カケリはイゾルデの止血に必要だ。戦闘には使えまい。こんなんばっかりだ。だが「やっぱナシ」というつもりはない。
ナメられた。だからやり返す。
それ以外に戦う理由はない。断じてない。断じてだ。
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