第33.5話_番外編_踊らない朝のイゾ公
※このお話は番外編です。読まなくても本編の進行には関係しません。※
※時系列的には第33話の途中であった小噺的なナニカです。※
これはヴァルズールに着いて魔術士どもと2連戦した翌朝、砂漠船の前に集まった時のことだ。
サンドワームの金勘定が始まる前、俺はイゾルデに言った。
「削り出してもらった小刀、壊れちったわ」
イゾルデはいかにも眠そうにしていた。昨日は随分と仕事に精を出したらしい。やってる場合か、とは思うが、ドワーフは鍛冶仕事が始まるとガンガンのめり込むというし、そういうものなのかもしれない。
「壊れたって……何がだぁ……?」
「だからサンドワームの牙のアレ。見るか?」
そう言って俺は一本のゴボウ――否、皮をむいたゴボウのようになったサンドワームの牙製小刀を懐から取り出した。昨晩にボゥ・パゥと戦い、酸雨の魔術でギリギリまで溶かされたものだ。軽くどこかに引っ掛けてしまったらポキンと逝きそうだが、何やかんや形状を保っているのはやはり材質が良いからなのだろう。
「何だそれぇ……ゴボウ……?」
「朝一で懐からゴボウ取り出すハンターがいると思うか?」
「いるじゃねぇかよぉココ……いや待てテメェそれ」
段々とほわほわしていたイゾルデの顔が厳しくなっていく。目が覚めたらしい。
「は? なん……は?」
「すまん、名誉の負傷だ」
「テメっ……な、えええ……? なっ、どうしたら何をこうなンだこらァ!?」
イゾルデは真っ赤になって怒鳴った。イゾルデは毛量が多い。そのハイツインテールは一面見事な紅だし、付けている胴鎧も紅だしで、全身真っ赤な火ダルマのようだ。
俺はそれなりにしっかり状況を説明した。つまり相手が酸の使い手だったこと、他に手持ちの武器が無かったこと、それしか方法が無かったこと――。
「ホントにそうかァ?」
イゾルデは訝しんできやがった。
「そばの柱なり地面なりブチ抜いて投げつけりゃ良かったんじゃねェのかよ。そりゃそ……武器だし壊れるけどさァ……!」
「すまんそんな筋力ねンだわ」
というかそれは筋肉ムキムキマッチョのカルディンですら厳しい。力自慢の種族ならともかく、ヒューマンはとにかく全般的にステータスが低いのである。おまけに寿命も短い。誇れるのは頭数くらいだ。……まぁそういう種族都合は良いとして、イゾルデの怒りはごもっともだ。
「マジで申し訳ねえ。出来れば今度、ちゃんとした詫び入れの機会をくれ」
懇切丁寧な仕事に対して昨日の今日でブチ壊しましたは流石に俺が悪い。なので極々《ごくごく》真面目にそう言った。俺がいつまで生きていられるかなんて正直言って分かったもんではないが、可能な限り死にたくはない。騙し騙し生きていけばそういう機会も作れるかも知れない。
「詫びの機会だァ……?」
イゾルデは俺をぎろりとにらんだ。凄まじい眼光だ。
「……ふん! いいけどな別に!! 作ったモンどうするかなんて持ち主の自由だ、あたしが知ったこっちゃねえ!!」
「マジで申し訳ねえ」
「謝んな! それで勝てたんだろうが!! ならそいつも立派に役目を果たしたってコトだろ!?」
「さっきゴボウって言ったよなお前」
「言ってましたよゴボウって」
「うわっ突然出てくんなよ飯の話じゃねえぞ!」
「何ですその言い草」
「とにかく! ……ふん!」
そんなワケでイゾルデはぷんすかしていた。別れる前もぷんすかしていた。とにかくさっさと立ち去りたい感じだったのもそのせいだろう。そんな風に思っていた。
……まぁ、実際は違ったわけだが。
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イゾルデも踊ります。




