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第22.5話_番外編_私がマフラーになったら

※このお話は番外編です。読まなくても本編の進行には関係しません。※

※時系列的には第22話と第23話の間の、小噺的なナニカです。※

「マフラーになるってどんな感じなんでしょう?」


 ミレナが言った。カケリがピカピカ光っている間――つまりゴーレムから逃げて、ダンジョンの地下でカケリが何やら作業をして脱出経路を作ろうとしている時のことだ。


「変身してる間、意識はあるんでしょうか」

「出来るだけ発言は控えてくんねーかな」


 俺たちは半分――いや実質的に生き埋め状態だった。部屋の床底に隙間を作って潜んでいるわけだが、つまるところ空気は限られる。おしゃべりのし過ぎで酸欠で死亡――なんてアホ過ぎて涙が出る。


「言わなきゃ分かんねえか? それともエルフは酸素が無くても生きていけるタイプの種族だったか?」

「ヒューマンは脆弱ぜいじゃくですねえ。身体の作りが、じゃなくて、心の部分です」

「何だお前」

「気になりません? だってあなた、ちょくちょくその子――カケリちゃんを首に巻き付けてますよね?」


 ちゃん付けがちょっと気になったが、それよりも話題の行方が不穏だ。「その言い方はやめろ」と反論する。


「俺が HENTAI みてえじゃねえか」

「みたいじゃなくて丸っきりですよ」

「確かに少し気になってはいた」


 カルディンまで口を挟んできた。良くない流れである。


「自分が見る限り、貴公は彼女を布として扱うことに一切の遠慮がない」

「布に対して遠慮もクソもねえだろ」

「しかし実体は少女だ。つまり貴公は少女を首に巻き付けている」

「あまつさえ口元を隠すように巻いているな。もうし開きはあるか、若造?」


 何が申し開きだ、と言い返そうとしたところで異を唱えるヤツがいた。イゾルデである。


「道具の使い方なんてヒトそれぞれじゃね」


 イゾルデはあくびをしていた。ちなみに、既に首を落とすだの同胞の仇だのといった誤解は解いている。


「今のこの状況だって、コイツがちゃんとマフラーみたいな武器を使いこなした結果だろ。……センスは無かったけどな!」

「アレだって考えようによっては女の子の体をあなたに思いっきり殴らせたんですよ。自分で殴るんじゃなくてあなたに殴らせたんです!」

「自分の部下も斬られたな。考えようによっては少女に他者を斬り裂かせたとも言える」

「俺ん家に火ィつけやがった野郎がどの口で言ってんだオイ」

「古い話を……」

「最近の話だボケ!!」

「それはもう聞いたからいいです。それよりカケリちゃんがマフラーになってる間のことが心配です。どうするんです? 武器扱いされてることにその子が泣いてたら!」


 俺は「ぐぬぬ」と唸った。確かに一切考えたことが無いかというと嘘になる。裂布に変化している間も意識があったら? 少なくとも止血なんかには使えなくなる。ガキの顔を傷口に押し付けて止血させるなど、地獄の鬼でもためらうに違いない。


 いや……しかしだ。俺は思い出した。


「少なくとも意識は無いな。無いはずだ」

「なぜ言い切れる?」

「ダンジョンに入った時に言ってただろうが。『なんでこんなとこ入ったんだ』って」


 そう、俺が目を覚ました直後の話だ。カケリは確かにそう言って狼狽していた。意識が地続きならあの発言はあり得ない。


「っていうか当たり前じゃねーか、布になってんだから。考える器官自体がない」

「自分の矮小わいしょうな理屈がなんにでも通用すると? 若造、それを傲慢ごうまんだと思わぬか?」

「てめぇは俺に嫌がらせ言いたいだけだな? 大体分かってきた」

「仮に意識が無いとして」


 仮にじゃないが、と言いかけたが、カルディンは俺の言葉を手で制した。「とにかく聞け」と言いたいらしい。


「彼女は自らヒトの体に戻れるのか? 例えば先日、貴公は皇帝陛下にカケリを奪われたが」

「お前に捕まえられてな」

「そのまま貴公が殺されていたらどうなった? まさか二度とヒトの体に戻れないなどということは」

「そうだよ」


 ピカピカ光っていたカケリが突然声を発して、俺たちは全員びっくりした。絶対に全員びっくりしていた。少なくともカルディンとミレナは体が跳ねていた。びくりと。


「おまっ……その状態でも喋れんのかよ」

「だからしっかりわたしを掴んでてね」


 カケリの右手は変わらず俺の手の中だ。ダンジョンのシステムにアクセスすると言ったきりピクリとも動かず、代わりにピカピカしていたが、とにかく手は離さなかった。握ったままだ。


「ネモがいてくれないと、わたしはずっと動けなくなっちゃう」

「お前が居続けると俺の意識は代わりに消えてくそうだが」


 カケリは反応しなくなった。コイツ……!


「どうやら」


 ノクトが唸るように言った。


「我らの想像以上に、こやつの腹は決まっているらしい」

「本当に何者なんだ、君は……」


 カルディンの疑問に答えてくれるヤツは、残念ながらいなかった。


番外編まで読んでいただきありがとうございます。

もしよろしければ★評価やブックマークで応援いただけると嬉しいです。

布になったカケリも喜びます。

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