第22話_タクティクスオブ脱出
「カケリ。『クローズ』」
呪文を発すると、光が楔状の空間に満ちた。壁を作っていたカケリがヒトの形に戻っていく。しかしそれは積み上げたジェンガの内部の1ピースを抜いたようなものだから、カルディン・ノクト・イゾルデの3名は周囲の瓦礫に押し潰されないよう壁や頭上を支えることとなる。
「ネモ! これどういう状況?」
「全員纏めて床に潜った」
「テメェぇ……ネモっつったな。やるなら先に説明してからやれ……!」
頭上からイゾルデの声。サラッと流していたが、コイツには急遽弾丸撃ち込み係として機能してもらったので、お礼代わりに弾丸後方から飛び出させた裂布で捕まえておいた。かくして部屋にいた者は全員床下だ。
周囲の瓦礫がゴロゴロ動くような音は聞こえるものの、ゴーレムの稼働音は一切ない。結構深く潜れたのだろう、部屋からは十分に離れられた。半ば生き埋めの状態とも言える。
「部屋の外に出たから判定が……って言ってたな。これで条件は大体満たしたハズだ。時間なら幾らでもある」
「酸素が無くなったら詰みだがな」
「私もそろそろお腹が減って詰みそうです」
イヤなことばかり言うヤツらだ。無視する。
「頼んでいいな?」
「失敗しても怒らないでくれる?」
「怒る」
だから必死でやれ、と言外で告げる。カケリはプクっと頬を膨らませた。
「じゃあね、ネモ。また呪文を言ってくれる? これから私、何時間かピカピカ光り続けるから、横で応援してて。あっ、手を握ってて欲しいな。わたしはえっと、ダンジョンのシステムにアクセスして処理内容をいじって……」
途中からカケリは自分に言い聞かせているようだった。複雑な手順を口に出して整理するみたいな、アレだ。
「お前、エンジニアみたいなコト言うよな」
そう言うと、カケリはひどく驚いたように俺を見返した。ちなみにこの世界にコンピューターとかソフトウェアとかの技術は無い。
「ここから出たら全部話してもらうぞ。いいな?」
「……ネモも話してくれるなら」
「……『オープン』」
返事代わりにそう言うと、果たしてカケリは光り輝き始めた。いつもならすぐに黒い裂布に変化するはずだが、ヒト型を維持し続けている。
俺はカケリの右手を――正確には右手の形をした光を握った。感触は温かいような冷たいような硬いような柔らかなような――。
「でも疲れ切ってしばらく起きれないかも」
「は?」
イヤな予言が聞こえた。何でそういうことを言い捨てるのか、俺にはその根性がまるで理解出来ない。
その言葉がマジであったことを、俺はそれから数日もの間、噛み締めることになる。
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