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第19話_ギャザリングアンド突撃

「化物」

「……ダンジョンで死ぬのに?」


 思いついたことをそのまま口に出してしまった。俺を見つめていたカケリはパチパチと目を瞬かせた。


「いや結局お前もダンジョンでは死ぬんだろ? 扱いは俺みたいなザコと同じなんだろ? それって化物になんの? なぁザコと同じ末路を辿たど各々方(おのおのがた)、どう思う? ディベートしようぜディベート」


 何だか張り詰めていた空気がイヤで、俺は両足をべろんと床に投げ出した。もうすぐ死ぬのにしんどい空気はダルい。そんな気持ちがフツフツと湧いてきたのだ。


「極端な話、アマリスでもダンジョンに入ると死んじまうのかね? 俺が思うに世界強者ランキング1位だろアイツ」

「そうですよ! アマリスさまは世界一です! だからダンジョンなんかに負けません!」

「ミレナはアマリス>ダンジョン>>その他大勢派か」

「違うよ! 流石さすがにダンジョンの方がすごいもん!」

「カケリはダンジョン>>その他大勢派な。ホラその他大勢ども、お前らはどう思う? よく考えたらあんまりマトモに喋ったことなかったよな俺ら。死ぬ前くらい楽しくお喋りしてもいいのかも知れん。そうだカルディン、お前に至っては何でここに居るのかもイマイチ分かってねえぞ俺は。ヴァレリアのところで無実を訴えといたほうが良かったんじゃねえの?」


 俺がそこで水を一口含むと、カルディンは諦めたように剣を納めた。ノクトはというと笑い出した。気が触れたらしい。


「中々面白い。確かに、ことここに至っては種族の違いなど無いに等しいか。だがアマリス様は我々とは違う。そもそもダンジョンに入ることも無いだろう。あの方には神託しんたくがある」

「神託?」


 ノクトがドカッと床に座った。あぐらをかいている。


「予知能力の一種だ。世界各地の一部の民が持つ。神からお告げを頂くことで次にすべき行動を決める。ここにアマリス様がおられぬのも、私とお嬢が貴様に手を貸すように言われてここにいるのも神託によるものだ」

「持ってるヤツはいいなぁ」

「ネモも持ってるもん! 違う、持ってないもん!」


 どっちだ、というとカケリはくすぐったそうに笑った。


「……オォオォ……」

「あの、それで言うとですよ? アマリスさまは死んじゃうようなところに私たちを放り出すワケがないんです」

「お嬢! その通りですな」

「でしょでしょ!? 私、愛されてることには自信があるので!」

「……オォオォ――」

「お花畑で羨ましいなぁ。神託ってのはそんなに細かく未来のことが分かるのか?」

「そんな能力があるなど、にわかには信じがたいが……」

「得られるのは断片的な情報と聞く。だが実際に盗賊どもを急襲きゅうしゅうし、荷を奪取だっしゅせしめたであろう。あれもまた神託によるものだ」

「――オォオォ――」

「でも結局お探しの荷はブチ壊されたじゃねーかよ。こりゃやっぱダメだな、お前らも死ぬわ。っつうかアマリスはあれ何がしたいんだ?」

「世界平和のために各国の争いの芽を刈り取っておられる」

「オォオォオォオォ!!」

「うるせえな何だよさっきから!」

「見つけたぞオォオォ!!」


 うなり声と共に何かが我ら一行に迫ってくるのが見えた。ガラガラと車輪が回る音がする。警戒して立ち上がる。俺は見た。俺たちが歩いてきた通路から、猛スピードでトロッコが走ってくるのを。


「そこで待ってろオォ!」


 トロッコから声が放たれた。そのままそいつは猛スピードで俺たちを通り過ぎた。気をつけろ、車は急に止まれない――というやつだ。少し間をあけて轟音がした。多分、トロッコを強引に横に倒して止めたのだ。


「今の誰?」

「変なヒトだろうな」


 適当に返すと「誰が変なヒトだコラァ!」とやかましい怒鳴り声が闇から返ってきた。ドスドスと床石を踏み壊しそうな足音がやってくる。やがて仁王におうのような形相ぎょうそうの女ドワーフがヌッと姿を現した。


「テメェ! 誰が変なヒトだコラァ!」

「あーハイハイごめんなさいごめんなさい。ホラこれでいいか?」


 ハイツインテールにくくった豊かなあかい髪、紅い胴鎧、巨大な戦斧せんぷというで立ちの来訪者は、チハヤ・ユキマ兄弟と戦っていたあの女ドワーフに違いなかった。カケリに説明する暇も無く、女ドワーフは俺の襟首えりくびを引っつかみ「適当な野郎だなアァ!?」と威圧してくる。


「しかしようやく追いついた! 2日くらい掛かったぞコラァ!」

「だろうな。さっきのトロッコはお前が持ち込んだのか?」

「トロッコじゃねえ! トロッコってのはレールの上を走るもんだろうが! ありゃ即席そくせき木造装甲車だ! あたしは気付いたからな、ここに微妙な傾斜があるってことを!」


 俺は衝撃を受けた。コイツは頭が良い。確かにテクテク歩く必要は無い。まぁそういうものをとっさに自作出来るのがドワーフらしいとも言える訳だが。


「あの〜。結局、あなた誰なんです? 何でダンジョンを爆走してたんです?」

「何で? 何でだと!? よくも言えたもんだなドブ臭いエルフの分際ぶんざいで!!」

「臭くないです! 訂正してください!」

「あたしの名はイゾルデ。イゾルデ=ロートガルド=アンボスガルドだッ!」


 女ドワーフ――イゾルデは、そこでようやく俺を解放した。何となく嫌な予感がしたので俺はカケリと共にカルディンやノクトの近くに寄る。


「テメェらを追ってきた。テメェら……テロリスト共の首を根こそぎ刈り尽くすためにな!」


 背負っていた戦斧を俺たちに突きつけたイゾルデの目には、確かに宿る怒りの炎があった。だが俺たち一行は顔を見合わせた。カケリだけは「オープン」と唱えてドワーフのステータスを確認している。


「お前、あの兄弟との戦いの時にいたよな? 何なら俺らより先に戦ってたよな?」


 一応、聞いてみる。イゾルデは「あぁ」と低い声で言った。


「俺らがあいつらと戦ってたのも知ってるよな?」

「あぁ」

「そこまで見てて何で『俺たちがテロリスト』になるんだ?」


 コイツは真実を知っているハズだ。例え三日月野郎の言ってた通りに秘密会談をしてた両国揃って「テロリストは――こいつら!!」とチハヤ・ユキマ・俺たちを発表したとしても、現場にいたヤツにはそれを信じる道理など無い。まさか同胞どうほうの言う事は無条件に信じるとかそういうことは――。


「ウチの国がウソついてるとでも? んなワケないだろうがバカが!!」


 そういうことだった。俺は衝撃を受けた。こいつもアホかも知れない。


「チハヤにユキマ……! あいつらウチの国に恩義おんぎバリバリだったくせに裏切りやがったんだ! 許せねえ! その仲間だろテメェらも!! 絶対に許さねえ!!」


 アホのエキスパートだ。とりあえず俺はカケリを抱えた。カケリは「あのヒトも凄いよ!」とか言っている。多分それどころではない。


「落ち着いて話し合えば分かるハズだ」


 カルディンが最後の抵抗をした。結論から言うと、アホにつける薬は無い。


「あたしを落ち着けたいなら首ィ寄越せ!!」


 名前の長いイゾルデさんとやらが体躯たいくよりも大きな戦斧を構えたあたりで俺は逃げ出した。カケリを小脇こわきに抱えてだ。他のヤツラも同様に動いた。風を切る音と破砕音と「逃げんなコラぁ!」という怒声が同時に重なる。逃げないワケがない。


「戦わぬのか?」

「誤解を解いた方が良いと思うぞ!」

「ヤダね! 貴重な余生をバカに使ってられるか!」

「全然休憩取れてません!」


 直線通路を走った。湿気で吸われる足音やらは過去の話で、鎧のガチャガチャ音とかイゾルデの殺気だった足音とか振り回される戦斧だとか破壊される壁や床とかで耳が忙しい。イゾルデはそこそこのスピードで迫ってきており、マジメに走らなければ追いつかれるというのも慌ただしさを助長する。


「テメェらの首を仲間の墓前ぼぜんに供えてやらァ!」

「首が取れても帰れねえってのによくやるぜマジ――!」


 精一杯の冷笑をぶちけてやったところで広い部屋に出た。『部屋』だ。


 マズい、と思うより前に俺の耳は異常音をとらえた。幾つもの歯車が連動して回るような音。それを聞いた瞬間、足がもつれて俺はコケた。


「痛っ! 痛ーいもう!」


 『悪い』とか『すまん』とか言おうとしたのだが、口がうまく動かない。立ち上がる必要すらなく、俺は眼前に迫る無機質な足を見た。


 頭部の無い人間大のデッサン人形。かつての俺の同行者は、目前に迫るこの異形いぎょうを『ゴーレム』と呼んだ。


 ゴーレムは、恐らく石製だ。硬く、およそ肉にあたるものが無い。歯車の音は関節の辺りから聞こえるようだが、腕を吹っ飛ばしてもそういうパーツは見当たらなかった。そんな過去の記憶がフラッシュバックした。連続して風船が破裂するように。


 体中の汗腺かんせんから血液が流れ出している気がした。異常な程寒くて異常な程ノドが乾く。


 ゴーレムが腕を振り上げた。腰から先が石になったようで動かない。だから俺に出来ることは一つしかなかった。


 俺はカケリを抱え込んで目をつむった。重いものが振り回される音が頭上で響いた。

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