第17話_ビギニング濡れ衣
「なんでそんなことになるんですか!?」
「そうだ、我々は逆賊を追ってその一人を討ち取った! 評価こそされど、そしりを受けるなどあり得ない!」
アホ2人が喚いている。気持ちは分かる。だがヴァレリア皇帝陛下の意図も何となくは分かる。
「俺に言われても困るんだって。俺だって皇帝陛下に耳打ちされたことを伝えてるだけなんだって」
「意外だな。問答無用で殺しに来ると思ってたが」
いい加減に俺は立ち上がることにした。立ち上がった瞬間に眩暈がしたが、堪える。馬車のクソ硬い椅子で眠ったくらいで生命力4の貧弱な体躯が長時間稼働できるわけもない。
「今はドワーフたちだけ一方的に被害を受けてる状態だ。状況を知らなきゃ誰でも『アークベルが使者をぶっ殺す乱暴狼藉を働いた』って思うだろ」
「あの会談部屋をぶっ壊した二人が向こうの使者として来てたのは間違いないって。だから非があるとすりゃ圧倒的に奴らなんだが、そこはそれ、仮にも国と国のお話だ。向こうにも立つ瀬を用意してやらなきゃだし、用意してやることで貸しを作ってやれる」
「で、白羽の矢が俺らに立ったワケだ。テロリストは両国に潜入してた。それぞれが内部で画策して会談の場を作り、無茶して逃げた。共通の敵が出来たので一緒に頑張ってテロリストを殺しましょう――そういう筋書きで行くわけだ」
「私たちがグルだっていうんですか!? さっきの兄弟と!?」
「あり得ん! そんな道理が通るものか!」
「通るんだよ。弱者の世界へようこそ、ウェルカムドリンクはいるか?」
そう言って千切れた右腕の断面(血まみれ)を向けてやると、カルディンならびにミレナも流石に押し黙った。俺は貧血でクラクラしながらそこらじゅうの地面を探し回った。そして見つけた。
「あった。おい三日月野郎、これ持って帰れ」
泥と煤に塗れて地面に転がっていたのは、チハヤの右腕だ。我がロケットパンチの当たり所からして右腕は千切れているのではないかと見当を付けたわけだが、正しかった。
「これでヴァレリア皇帝陛下に数日だけでも追撃隊の編成を待ってくれって交渉しろ。土下座して靴を舐めてこい」
「あなたそれでいいんですか!? テロリスト呼ばわりですよ!?」
どうでもいい、と俺は言い返した。昨日の時点でこの国を離れるつもりだったのだから。
「あなたは良くても私は困るんです! 一国で犯罪者扱いなんてアマリスさまが聞いたら泣いちゃう!」
「その心配はありませんぞ」
すぐ背後で物音がした。振り返ると、背の高い白髪の男が立っている。肌の青白い、耳の尖った男。
「ノクトさま!」
「保護者が今更お迎えか」
嫌味を言ってやったが、ノクトは何も言わず何かを俺に放った。受け止める。
ヒトの腕だった。見た限り色んな骨が飛び出したり折れたりしている。何だと思ってよく見ると俺の腕だった。
「お嬢、お疲れのところ恐縮ながら、後ほどアヤツの腕を再接合いただけますかな」
「貴公は……ラヴィ・ワゴーヌを襲ったという一味の一人か」
「然様。主からの命によりお嬢に加えて私もこの男に同行することになった。旅路を補佐しろとのことだ」
「はぁ?」
「えっ」
ミレナと同時に困惑を示した辺りで、遠くから怒声のようなモノが聞こえた。チハヤの腕を抱えた三日月野郎が「ヤバいって」と焦ったように言う。
「なんかよく分かんねえけど、とにかく追撃隊が来るはずだって! 皇帝陛下にはお願いしてくるけどドワーフどもにはそうも行かねえ!」
「待てサンセット。そうは言うが自分たちにはまともな装備も準備も無い! 二か国からなる追撃隊など逃げきれるわけがない!」
カルディンの喚きを聞きながら、俺はカケリを持って考えた。『クローズ』と言って人間に戻した方がいいか? さっきの奴らについてもカケリからは何か聞けるかも知れない。だが逃走するとなると身軽なほうがいい。このまま布になっていてもらった方が――。
「路銀なら皇帝陛下から少しばかり頂いたから渡すって。テメェらが言うほど、あのお方は冷血非道残酷無比じゃねえんだ。だから逃げ道についてもアイデアは貰ってる。えっとつまりだ……ここから北にダンジョンがある」
――俺は固まった。どこかで呻き声が聞こえた。ああそういや、チハヤに顎を蹴られてノックダウンしている女ドワーフがいる。アイツは生きてるんだっけ。
「これはその……噂というか何と言うかだけどな? ダンジョンってのは入り口と出口が離れてるらしいんだって。で、中に追っ手は入れない。だからダンジョンに入って中を抜けたら別の国に出ることに――」
「嫌に決まってんだろ顎の先までバカが詰まってんのか? ええオイ」
俺は三日月野郎に詰め寄った。詰め寄る途中で足元の泥に蹴躓いてスッ転びかけたが無理やり歩いた。歩いて三日月野郎の頬をボロボロの右腕を使ってバシバシと叩いてやった。
「追っ手は入れない? そりゃそうだろ中に入ったら死ぬんだ。お前、今の話マジで言ってるか? 他人事だと思いやがってこの――」
「ちょっと、こんな時に何でキレてるんですか! ケンカはダメです!」
ミレナが割って入ってこようとする。が、そうされる前に俺は三日月野郎から退いて地面に座り込んだ。あぐらをかいた。
「結局のところもう逃げ場は無いってことだな、ああ分かった分かった! なら大人しく捕まってやるよ。拷問でも何でもすりゃいい。だがいいか、これだけは言っとく。ここまで無茶苦茶に振り回されて大人しく殺されると思うなよ。ヴァレリアっつったな? あのクソ皇帝も隙見てブチ殺してやる。死ぬまで何回でもだ! リメンバーミー!」
「ど、どうした? 貴公、急に過激過ぎるぞ。おまけに不敬だ」
「何が不敬だ木偶の坊、お前も犯罪者にさせられてんだぞ頭湧いてんのか?」
「ネモはその……昔に仕事でダンジョンに行って――」
「喋んな」
「何か因縁があるようだな」
妙にねっとりとした口調で言って、ノクトは俺の前に屈みこんだ。ヤツは俺の顔を見てニヤリと笑った。実に陰険な笑みだった。
「そうか若造、貴様にも苦手なものがあるらしい。実に面白い。そしてその口ぶり、分かっているのだろう? 他に道は無いと」
何が言いたい、と口にしようとしたところで脳天に強い衝撃が走った。天辺から爪先まで衝撃が駆け抜け、俺は目玉が裏返るのを感じた。
「ならば進むしかあるまい。なに精々嫌がるといい。目を覚ました後で。それで私も多少は胸がすく」
こうして俺の意識は途切れた。そしてうす暗く埃っぽくカビ臭い通路で目を覚ますことになるわけだ。
本当に、何一つ希望のない場所――ダンジョン内部にて。
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