第12.5話_番外編_ミレナさんのワクワク法術教室
※このお話は番外編です。読まなくても本編の進行には関係しません。※
※時系列的には第12話と第13話の間のお話です。※
これは俺たちがありがたい皇帝陛下からのお言葉を賜り、西行きの馬車に詰め込まれる直前の話だ。
「一つ聞きてえんだが」
俺たちを馬車に先導する三日月野郎、その背中へ声をかける。両脇には騎士どもが控えていて、下手なことをすれば痛い目にあうぞ、と暗に言われている状態だ。が、知ったことか。
「ラヴィ・ワゴーヌの悪党どもはあの後どうなった?」
「逃げられるワケが無いだろう。捕縛したのは自分たちだ」
後ろからカルディンが口を挟んでくる。捕まえた当事者の言葉だ、大変に含蓄がある。
「麻薬だの盗品だの人身売買だのの悪党どもだ。全員、然るべき手続きの後に法の裁きが――」
「つまり自分だけうまく逃げたワケか? よくやったなぁおい、サンセットさんよ」
前の三日月野郎がくるりと振り返る。バツの悪そうな顔をしていた。ついでに言うと顔色も悪い。性格も悪い。心根も曲がっている。伸びているのはアダ名のもとになったアゴくらいという体たらくだ。
「……何が言いてえんだって」
「お前こそなんだ? なに睨んでんだ。俺は賞賛してる。他人をラヴィ・ワゴーヌに誘ってさんざ利用した挙句、自分だけノーダメージ。他は地獄行き。明暗くっきり分かれたな?」
「だから何が言いてえんだっ――」
「ミレナさんの! ワクワク法術教室〜〜〜!!」
突然だった。バカみたいなバカデカい声が後ろから響いた。
三日月野郎と共に振り返る。カルディンと俺の間で法術士・ミレナがパチパチと手を叩いていた。
「これから皆さんのために天才法術士・ミレナさんが講義をしてあげます! 良かったですね! さぁ喜んで!!」
「ああ?」
「まず基本ですが! ほら歩いて!」
ドン、と突かれて俺は無理矢理歩かされた。三日月野郎もチラチラ振り返りつつ、再び前方に待機している馬車へと歩き始める。
「法術とは、大地の恵みを分け与えていただくための術法です。つまり大地にありがとうおやすみなさいおはようございますが言えるヒトじゃないとダメです!」
「ダメなのはタイミングだろ。いまその話する雰囲気か? なぁおい」
「私の見たところ」
ぐいぐい背中を押してくるミレナ。その勢いに、傍を歩く監視役の騎士たちも目を白黒させている。
「あなた……ネモって言いました? あなたは法術の才能がゼロ! 全く無いです!」
「知ってるよ何だお前」
「後ろの……カルディンさん? で合ってます? あなたはあるようなないような! 頑張ったら大地と通じあえるかも知れません! 最後、アゴのヒト!」
「え。あ、オレぇ?」
「あなたは結構素質アリ! です! 修行は必要ですが大地とお話できるかも知れません!」
この辺りで俺たちは馬車に乗り込まされた。三日月野郎が「じゃあオレは別の馬車だから」と去る直前、俺は一応言ってやった。
「悪党同士、多少は目こぼししてもらえるよう何とかしろ」
「テメェのことはこれでも……」
「俺のことじゃねえよボケ」
「早く乗ってください早く!」
「声デッッッカ」
両耳を塞いだところでなす術なく馬車に投入された。縦長の檻を荷台に固定した、囚人護送車みたいなヤツにだ。
やがて馬車は走り出した。めちゃくちゃ揺れる。そりゃそうだ馬車なんだから。
「法術は良いですよ。大きな存在の加護を常に感じられます。だから心が穏やかになってケンカともお別れです。あなたも法術士になりませんか?」
「なれりゃなってたっつーの」
先ほどミレナが言った通り、俺には才能が無かった。これは努力で補えるタイプのものではない。法術士の素養があるのは大体3人に1人くらいだが、残りの2人はどうあがいても大地の恵みみたいなものを感知出来ない。才能というより、感覚器官そのものが無い感じだ。
そして、だからこそ法術士は引く手あまただ。どこに行っても重宝される。町医者みたいになれる。荒事と無縁な生活がOKだ。正直言って羨ましい。
「先ほど言っていたな。自分にも芽はあると。本当か?」
騎士野郎も口を挟んだ。自分で傷を直しながら戦う騎士……戦術的価値は間違いなく高まるだろう。
「本当ですよ? 修行は必要ですけど」
「どんな修行だ?」
「大地に祈りを捧げて対話する修行です。水の底、滝の近く、山の上、雨の中、色んなところで大地に耳を傾けます。だから法術士はみんな耳が良いです。それから祈り方にも一定の精神的ルーチンがあって――」
「怪我の治療、解毒、病気の取り除き、体の強化、地形の操作などなど全部ルーチンが違うんだってよ。バカには真似出来ねえってこった」
そう言うとミレナはニッコリ笑った。コイツの笑顔は初めて見たかも知れない。
「詳しいですね! それと今、私を褒めました? 褒めましたよね!?」
「声がデケェよマジで。いい加減耳が痛い喋んな」
「じゃあこれはご存知ですか? 法術士って、何となくヒトの感情が分かるんです」
……何となくミレナから目をそらした。いよいよスピっぽい。
「……感情?」
「はい、感情です。耳を鍛えたからか、大地の加護で色んなものが見えやすくなったからか……良く分かんないんですけど」
「バカそうだもんなお前」
「少なくとも、さっきのアゴのヒト……三日月さん? は、とっても気にしてるみたいでしたよ。色んなヒトのこと」
だから、とミレナは続けた。
「あなたもあんまり心配し過ぎないでいいと思いますよ。他のヒトのこと」
俺は目をそらし続けた。絶対に見てやるかと思う。
「弱いヒトは大変ですね! 心配しなきゃいけないことが多くて!」
早くコイツとオサラバしよう。俺は心に誓った。
番外編まで読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ★評価やブックマークで応援いただけると嬉しいです。
アゴのヒトも喜びます。




