第8.5話_番外編_魔物と動物
※このお話は番外編です。本編にはかかわらないので飛ばしても問題ありません※
※なお時系列的には第8話の途中の小噺となります※
これはカケリや三日月野郎、そしてアマリスと共に『キャンプ地』へ向かっていた途中のことだ。
「スポタンは魔物?」
不意にカケリがそんなことを言った。川沿いをテクテクと歩きながら。俺の右腕を抱えながら。
「スポタンは魔物?」
失血してフラフラの状態でアマリスに肩を貸している俺の隣で。
「ねぇムポピョスポタンは魔物!?」
「うるせぇな何だよ……」
「動物じゃないの? 魔物?」
「あんな動物がいてたまるか」
ムポピョスポタンとは大型の魔物である。体長は30メートルくらい。シルエットだけ見ればスリッパのような形だ。つぶらな瞳に締まりのない口と愛嬌だけはあるが、本能のままに走り回る害獣の側面もある。
「何で魔物なの?」
「逆に聞くがアレが彫像に見えるのか?」
「つまり何をもって魔物とし、何をもって動物とするのか、という疑問ではないかな?」
肩を貸しているアマリスが口を挟んできた。こいつも大概こっちに質問しまくってくるので気持ちが分かるのかも知れない。質問者同士。
「スポタンって飼えないのかなぁ」
カケリは口を尖らせながら恐ろしいことを言った。時代によっては災害とまで言われる存在である。まだヒクイドリを飼いたいと言われる方が可愛げがある。
「魔物か動物かなんて学者の気分によるんだって」
三日月野郎まで口を挟んできた。小川のせせらぎだけを聞いていたいがそうもいかないようだ。カケリが俺の右っ腹を引っ張ってくる。左側にはアマリスだから物凄く歩きづらい。
「気分? 気分によっては動物になるの?」
「なるわけねえだろ。大概の学者はお前や俺やそこの悪党よりよっぽど頭が良いってことを忘れんなよ」
「わたしバカじゃないよ!」
「一般的には」
泥沼にハマりそうなことを悟ったらしくアマリスが再び口を開いた。コイツは知力85だから間違いなくこの中で一番頭がいい。
「動物に異種の要素が混在する存在を魔物とカテゴライズする。基本的には魔族・人族のカテゴライズと同じ考え方と言えるだろう。ネモ、人族と魔族の違いは?」
「うじゃうじゃいるのが人族、少ないのが魔族」
「適当に答えたね? 正しくは二足歩行型の知的生命体が人族と規定されている。それらに異種要素――角や翼、エラなど運動器官を備えた存在が魔族だ」
アマリスが小さく笑った。隣のカケリがデカい声で言う。
「じゃあ魔族はヒューマンより魔物に近いってコトなんだ!」
「確かに、魔族よりもヒューマンに近い外見の魔物もいる。あくまでも姿かたちだけだけれど」
「魔物は何喰ってるか分からねえって話だぜ」
三日月野郎の言うことは正しい。数百年近く何も食わずに動き回っている魔物もいると聞いたことがある。
「ゴブリン族の知り合いがいるがそいつはパンが好物だった。カリッカリに焼いた滅茶苦茶硬ェヤツ」
「食物でのカテゴライズか。その手の説を唱える学者もいるな」
要するに人族や魔族にとって全く異質の存在――それが魔物だということだ。だから飼育はおろか家畜化も出来ない。せいぜい単純な奴なら行動パターンの推測が可能というくらいだ。
「それで、ネモ。改めて聞くが、キミの考える人族と魔族の違いは?」
「お前さっき自分で定義言ってただろ……」
「私が問いたいのは知識ではない、考え方だ。キミが事物をどう捉え、どう解釈するかを知りたい」
「ネモ、バカにされてるよ! 自分の15%くらいの知力の持ち主に聞いてるんだもん絶対にバカにしてる! ね!」
「ね! じゃねえようるせえな……」
俺は取り合わないことに決めた。甲高い女声は嫌いだ。イチイチ前世での死因を思い出す。そもそも右腕が切り飛ばされたお陰で痛いし血が足りなくてフラフラするしでガキの相手などしていられない。
だから気にはなったものの、深く考えることも出来なかった。何かと言うとアマリスが言ったことだ。
『知識ではなく考え方』――なるほど、知識の絶対量が多い=知力が高いではないというのは薄々認識していた。その考え方で言うとジジイババアは概ね高知力になる。
だが実際はそうではない。ステータスは15歳くらいから明確に伸びなくなる。なら――ああ、頭が回らない。血も体力も何もかもが足りない。だから、ガキの頃に散々悩んだ疑問がグルグルまわり続けた。自分の尻尾を追ってその場でくるくる回っている犬っコロみたいに。
――ステータスってのは何で決まるんだ?
その答えを、アマリスは知っているのかも知れない。
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