08.捨てれないぬいぐるみ
キャッタンは自室を整理していた。その時、扉をノックする音が響いた。
「入るぞ」
エレントスはそう言うと、キャッタンの部屋へ入った。そこに広がっていたのは、物で埋め尽くされた惨状だった。
「……キャッタン」
「何ですかぁ、魔王様ぁ……」
「今ここで断捨離をしろ」
「嫌ですよおおぉぉ!」
キャッタンは全力で叫んだ。
「嫌なら、ミレカを呼ぶが?」
「それだけは嫌ですうぅぅぅ!」
「お前、ミレカに何されたんだよ」
エレントスが呆れながらそう言った。
「とりあえずぅ、魔王様。断捨離、手伝ってくれませぇん?」
「……仕方ないな。我の城から死者が出ると困る」
エレントスはため息をついた。
「……まず、これは何だ」
エレントスは、近くにあったメッシュケースを手に取った。
「見れば分かるじゃないですかぁ。中身が見える半透明の網目状素材で作られた収納ケースですよぉ」
「メッシュケースの説明はいらん」
エレントスは周囲に積み上がったメッシュケースを見回した。
「こんなにいるか?」
そう言うと、一気にゴミ箱へ放り込んだ。
「何するんですかぁ!」
「一つで十分だろ」
エレントスは次に大量のぬいぐるみへ目を向けた。
「これも多すぎるな」
そう言って、一つのぬいぐるみを手に取った。
「誰に対して言ってんだぁ、お前」
ぬいぐるみが喋った。
エレントスは反射的に床へ叩きつけた。
「おい、キャッタン」
「……何ですかぁ、魔王様」
「今、このぬいぐるみ喋ったよな?」
キャッタンは乾いた笑みを浮かべた。
「ぬいぐるみが喋るわけないじゃないですかぁ。嫌だなぁ魔王様、寝ぼけてるんですかぁ」
「テメェら、あんま舐めんなよぉ。このクソ野郎が」
ぬいぐるみはむくりと起き上がった。
「……しゃ、喋りましたああぁぁ!」
「何だお前、口悪ぃな?」
エレントスはそう言い放った。
「女経験がねぇ奴は黙ってろ。そもそもテメェは14歳の少女を攫った犯罪者だろ。このロリコンが」
「口悪すぎでしょぉ、このぬいぐるみぃ……魔王様、気にすることないですよぉ」
キャッタンが振り返ると、エレントスは両手で顔を覆っていた。
「魔王様ああぁぁ!」
「犯罪者……ロリコン……」
エレントスは、ぶつぶつと呟き続ける。
「くそう……魔王様の仇は自分が討ちますぅ!」
キャッタンはぬいぐるみを見た。
「何だテメェ。俺に立ち向かうってのか?そもそもテメェは、自分がマスコットキャラとでも思ってんのかぁ?」
「ち、違うんですかぁ!?」
「テメェには個性がねぇ。猫に角が生えただけって、どっかの可愛いキャラ作ってる企業にもいんじゃねぇか。この二番煎じが」
「いぎいいぃぃ!そんなことないですよぉ!」
「消えろ。ぶっとばされんうちにな」
ぬいぐるみはそう言い残し、部屋を出て行った。
「みんなぁ……すまねぇ……こんなはずじゃなかったぁ……」
キャッタンは床に倒れ込み、小さく呟いた。
◇ ◇ ◇
「あれ?あんなところにぬいぐるみが」
セシアは廊下に落ちていたぬいぐるみを拾った。
「触るな。低脳バカ」
「て、低脳バカぁ!?」
「そうだテメェは――」
「うるさいですううぅぅ!」
セシアは容赦なくぬいぐるみを床へ叩きつけた。
「テメェは――」
「ドォン!」
セシアはまた叩きつける。
「だから話を――」
「ドォン!」
「一回くらい聞け!」
「聞く必要ありません!」
セシアは微笑んだ。
「私達には暴力という手段がありますから!」
「子供に悪影響すぎるだろこの作品!」
「人気ないから大丈夫です!」
「そこは否定しろ!……誰か助けろおおぉぉ!」
ぬいぐるみの悲鳴だけが廊下に響いた。
◇ ◇ ◇
数日後。
「コンコン」
セシアがキャッタンの部屋をノックした。
「どうぞぉ」
部屋へ入ると、そこには見違えるほど綺麗になった部屋が広がっていた。
「わぁ、キャッタンの部屋、とても綺麗ですね!」
「でしょぉ?」
「……あ、このぬいぐるみ可愛いです」
セシアはそう言って、棚の奥のぬいぐるみに手を伸ばした。
「ひいぃぃ!」
キャッタンは飛び上がった。
「キャ、キャッタン?」
「驚かさないでくださぃ!」
「はい?」
しばらくの間、キャッタンはぬいぐるみを見るだけでも身構えるようになったのであった。




