06.魔王城の都市伝説
「やっぱり夏といったら肝試しですよね!?」
夜、セシアは目を輝かせながらそう言った。
「王女様、まだ春でございます。それと、早く寝てください」
ミレカは呆れたようにそう言った。
「大体、小説や漫画って季節の移り変わりが早いものじゃないですか!」
「まだ連載して6話目です。あと10話くらいは我慢してください」
「はぁーい」
セシアは素直に返事をすると、どこからともなく懐中電灯を取り出した。
「……レッツ、ゴーです」
「分かりました。行きましょう」
ミレカはそう言うと、セシアと並んで歩き始めた。
「ふふ。この魔王城には都市伝説があるんです!」
セシアは得意げな笑みを浮かべた。
「一つ目。夜中になると『お前を食べてやるぞ』という恐ろしい声が聞こえてくるんです。私はこれを『死者の恨み言』と呼んでいます……!」
「……確認してみましょうか」
ミレカはそう言って歩き出した。
「ミレカ?どこへ行くんですか!?」
セシアが慌てて追いかけると、二人がたどり着いたのはキャッタンの部屋だった。
「耳を澄ませてみてください」
ミレカは扉に耳を当てる。セシアも真似をした。部屋の中からは、小さな寝言が聞こえてきた。
「むにゃ……むにゃ……」
「寝ていますね?」
セシアがそう言った、その時だった。
「んー……お前をぉ……」
「えっ?」
「食べてやるぞおおぉぉ!」
「ひゃあっ!」
二人は同時に扉から飛びのいた。
「王女様が言っていた都市伝説の正体は、キャッタン様のバカでかい寝言です。どうせご飯の夢でも見ているのでしょう」
「そ、そうなんですか……!?」
まだ驚きが収まらないセシアを見て、ミレカは笑みを浮かべた。
「……死者の恨み言ですか」
ミレカは鼻で笑った。
「ば、バカにしないでください!次です、次!」
セシアは咳払いをして気を取り直した。
「二つ目。夜中になると、不定期に大きな音が何度も鳴るんです。私はこれを『夜の咆哮』と呼んでいます……!」
「よ、夜のぉ、咆哮……」
ミレカは笑いを堪えている。
いや、ほとんど笑っていた。
「笑っていられるのも今のうちですよ!」
「では、こちらも確認しましょうか」
「待ってください!なんだか嫌な予感が……」
二人が立ち止まったのは、エレントスの寝室の前だった。
「ま、まさか……」
その瞬間。
「ドォン!」
「きゃあっ!?何の音ですかぁ!?」
「今の音はですね」
ミレカはゆっくりと扉を開けた。そこには床に倒れているエレントスの姿があった。
「し、死んでますぅぅ!」
セシアが悲鳴を上げる。すると次の瞬間、エレントスはゆっくりと起き上がった。
「し、死体が動いています!」
「……誰が死体だ」
エレントスは背中をさすりながら不機嫌そうに呟いた。
「王女様が言っていた都市伝説の正体は、魔王様が寝返りを打ってベッドから落ちる音です」
「エレントス様、何回落ちてるんですか!?寝相悪すぎでしょう!」
「……うるせぇ。我は寝るぞ」
エレントスは再びベッドへ横になった。
ミレカは静かに扉を閉める。
「これで終わりですか?王女様」
「ふふ……ここまではお遊びですよ!」
セシアは得意げに笑い、そのまま地下へと続く階段へ向かった。
「地下ですね」
「そうです!私の部屋よりさらに下です!」
「ですが、下には何もありませんよ。私も掃除でたまに行きますが」
「ふふ。最後の都市伝説は、今までの合わせ技なんです!」
「……といいますと?」
「三つ目。夜中になると正体不明の音と声が聞こえるんです!」
セシアは自信ありげにそう言った。
「それだけですか?『夜の咆哮』みたいな名前はないんですか?」
「引っ張らないでください!私も分からないんですよ。何を言っているのか聞き取れませんし、音も言葉では表せなくて……」
二人は話しながら地下へ降りる。
「本当に何もないんですね」
「物置だったんですけど、昔ここに住んでいた人が地下を爆発させてこうなったんです」
「変わった方もいるものですねぇ」
セシアは懐中電灯で辺りを照らした。その光が奥を照らした瞬間、一人の男が立っていた。
「で、で、出たぁぁぁ!」
セシアが悲鳴を上げる。しかしミレカはセシアから懐中電灯を奪い取ると、その男へ向かって勢いよく振り下ろした。
「お前……お前、二度と来るなって言ったよなぁ!?」
普段の冷静な声とは思えない怒声だった。
「痛い痛い……ご、ごめんって、ミレカさん!」
男は蹴られながら悲鳴を上げた。
「えっと……知り合い、ですか?」
「はい。この男は魔王城に入り浸る、クソ雑魚乞食の魔族です」
ミレカは冷たく言い放った。
「何で地下にいる?それと、どうやって入った?」
「魔王城の外から掘ってきたんだ……お金がなくてさぁ。しばらく住ませてくれよぉ!」
ミレカは男を見下ろし、無言で後ろ襟を掴んだ。そのまま階段を上がり、男が何か言いかけるより早く、窓を開けて外へ放り投げた。
「うわああぁぁ!」
男の悲鳴が消えていった。
ミレカは何事もなかったように窓を閉めた。
「王女様。他に都市伝説はありますか?」
「……もうないです」
セシアはミレカから目を逸らすと、そのまま逃げるように走り去った。
◇ ◇ ◇
翌朝。
「昨日の夜にぃ、変な声が聞こえたんですよぉ。やっぱり幽霊ですかねぇ?」
キャッタンは朝食の席で不安そうにそう尋ねた。
「幽霊なんていませんよ」
セシアは即答した。
「えぇ……!」
セシアはそれ以上何も言わず、その場を後にした。




