42.二人の過去話
「久しぶりだなー」
(しばらく体が痛くて来れてなかったからな)
ユイスはまた、魔王城の地下に忍び込んでいた。すると、コツコツと階段を降りる足音が響いた。
「……ミレカさんか?やばい!今回はマジでやばい!」
(どっかに隠れるか?でもここ、全く物がない!……こうなったら)
ユイスは床に手をつき、土下座をした。やがて、階段を降りてきた人物がユイスの目の前に立った。
「ごめんなさい!許してくれよ!」
「何してるんですか?」
ユイスが恐る恐る頭を上げると、そこにいたのはセシアだった。
「……って、なんだお嬢かよ」
ユイスはそう言うと、その場に座り込んだ。
「その言い方なら様つけてくださいよ!……それで、何でまたここにいるんですか?」
「決まってるでしょ?前に話したじゃん」
「ミレカに惚れてるからですよね」
セシアがそう言うと、ユイスはひらめいたような顔をした。
「あんた、俺の恋愛相談に乗ってくれない?」
「はい?」
セシアは困惑しながらも、ユイスの隣に腰を下ろした。
「……まず、ユイス様はミレカのどこが好きなんですか?」
「様づけやめてくれない?むず痒いから……好きなところか。全部だね。ミレカさんの全部が好きだよ」
ユイスは微笑みながらそう言った。
「へーそうなんですね……幼馴染って言ってましたけど、いつ出会ったんですか?」
「えー、俺とミレカさんの出会い、知りたい?」
ユイスは笑みを浮かべた。
「その言い方なんか腹立ちますね」
「まあ、知りたいなら教えてあげても良いよ。あれは今から何千年も前の話かな」
「あれ、もしかしてこれ、回想入ります?」
◇ ◇ ◇
「ふわぁ〜、眠いな」
少年ユイスは原っぱで寝転がっていた。
「俺に家の仕事は向いてないんだよなー父さんも、こんなバカ息子を持って可哀想だ」
ユイスが目を閉じて寝ようとすると、隣に誰かいることに気づいた。
「……うん?」
横を見ると、そこには傷だらけの少女が寝転がっていた。
「あんた誰?」
ユイスがそう声をかけても、少女はただ空を見上げているだけだった。ユイスは立ち上がり、少女に手を伸ばした。
「……!」
少女は目をぎゅっとつぶった。だが、ユイスは少女の髪についていた葉っぱを取って、地面に捨てただけだった。そして、そのまま少女の隣に寝転がり、口を開いた。
「俺さぁ、家に居場所ないんだよね……父さんは、俺に家の仕事を継いでほしいらしいんだけど、俺、そういうの向いてないんだからさ。こうやって原っぱに寝転がってるほうが性に合うんだよね〜」
ユイスがそう言ってしばらくすると、少女は小さく口を開いた。
「……そんな余裕があるだけマシだろ」
「そーかもしれないけど、俺は逃げ出したいわけだよ。この現実から……あんたもそうだろ?」
「……」
ユイスは立ち上がると、少女に手を伸ばした。
「俺と一緒に逃げないか?」
「……うざ」
少女はそう言うと立ち上がり、その場を立ち去った。
◇ ◇ ◇
夜、ユイスは布団の中で、昼間の少女のことを考えていた。敵意丸出しの目、傷だらけであまりにも痩せ細った体。
「あいつ、大丈夫かな?」
ユイスは少し考えると、ゆっくりと部屋を出た。そして使用人に見つからないように、外へと出た。そのまま原っぱへと走っていくと、そこには昼間の少女が横になっていた。
「……おい、ここだと風邪引くって!」
ユイスがそう声をかけたが、少女は目を開けなかった。
「……仕方ねぇ。待ってろよ!」
ユイスは一度家へ戻り、誰にもバレないように掛け布団と枕を持ち出した。そして原っぱへ戻ると、少女の頭の下に枕を入れ、布団をかけてやった。ユイスはそのまま、少女の隣で眠った。
◇ ◇ ◇
「ふわぁ〜」
ユイスが目を覚ますと、自分が枕を使い、布団をかけられていることに気づいた。
「えっ、俺、ぶん取った!?」
ユイスが起き上がると、少女がその横に座っていた。
「……何のつもりだ?」
少女は大きな声でそう言った。
「は?」
「……だから、何のつもりだって聞いてんだよ!私に恩を売って利用するつもりか!?奴隷にして、面白おかしく見世物にでもするつもりだろ!」
「うーん?よく分かんないが、元気そうで良かったよ。こんな時期に外で寝んなよ?風邪引くって」
ユイスはそう言うと、布団をたたんだ。
「おい、私の話聞いてたか?」
「何でもいいけど、別にあんたのことを利用するつもりもないし、奴隷にするつもりもないよ。好きなように生きればいいじゃん。出来るんだからさ?」
そう言うと、少女はユイスを押し倒し、胸ぐらを掴んだ。
「……私は自由になれるの?」
「痛ってぇ。なれるけど……何なの?」
少女はその言葉を聞くと、ユイスから手を離し、その場に寝転んだ。
「……?とりあえず、これ戻してくるから。待ってろよ」
ユイスは布団と枕を持って、家へ戻ることにした。家の扉を開けると、そこにはユイスの父親が立っていた。
「あ、父さん……ただいま」
バチン――乾いた音が響いた。
「と、父さぁん……?」
ユイスはそのまま尻餅をつき、地面に倒れ込んだ。
「お前は失敗作だった。家業は次男に継がせる。分かったら、とっとと出て行け。役立たずが」
父親はそう言うと、部屋の奥へと歩いていった。すると、次男がその後ろから現れ、笑みを浮かべた。
「お前なんかどっかで野垂れ死んじゃえよ!ねぇ、母さん?」
その横には、ユイスの母親もいた。
「あなたにかけたお金も愛情も、全て無駄だったわね」
母親はそう言うと、扉を閉めた。
「……っ」
ユイスはゆっくりと原っぱへ向かった。彼の目からは、涙がこぼれていた。
「何で!……どうすれば良かったんだ?俺は完璧じゃなきゃダメだったの?役立たず……俺は、一体何のために生まれてきたんだ?」
ユイスが原っぱに着くと、そこにはあの少女がいた。少女はユイスが今まで見たことのない、穏やかな顔で寝転んでいた。
「……!」
ユイスは乱暴に涙を拭った。
(あの子の前で、涙は……見せたくないな)
ユイスはそのまま少女の横に寝転んだ。
「俺さぁ、家を追い出されちゃった。言うことの聞かない不良少年はいらないんだって……俺、どうすれば良かったのかなぁ?」
ユイスは震えるような声でそう言った。
「……別に何もしなくて良かっただろ。私達は自由に生きられるんだから」
「……そうだな。そうだよな!」
ユイスは笑顔で起き上がった。
「あんた、名前は?」
「……ミレカ」
「俺はユイス。よろしくな」
ユイスはそう言って笑顔を浮かべた。
◇ ◇ ◇
そこから何年もの間、二人は一緒に過ごした。万引きやスリなんかの悪事を繰り返した。それでも、ユイスは楽しかった。
「今日はたくさん収穫が……ミレカ?」
原っぱで、ミレカは後ろを向いて立っていた。ユイスが後ろに回り込むと、ミレカの顔はとても赤くなっていた。
「熱!?大丈夫か?」
ユイスはそう言うと、彼女のおでこに手を当てた。
「違う……聞け!」
ミレカはそう言うと、ユイスの手を掴み、小指を絡ませた。そして、照れながら口を開いた。
「大人になったら、私と結婚して……嫌か?」
「えっ?」
カシャ――その時、シャッター音が原っぱに響いた。
「な、何撮ってんだよ!?」
ミレカはそう言うと、カメラを探した。すると、草むらに紛れてカメラがあることに気づいた。ユイスは慌ててカメラを回収した。
「おい、それ寄越せ!……消すから」
「ヤダよー貴重な一枚なんだから」
「てか、この時代にカメラないだろ。ふざけんな!」
「この作品はそーいうの適当だからね……あ、さっきの返事は、いいよ」
「……!それはそうと、消せよ!」
ミレカはそのままカメラに向かって手を伸ばした。
「やだー!」
◇ ◇ ◇
何百年もの間、ユイス達は一緒に過ごした。二人は成長し、悪事をやめて共に働き始めた。そして、二人で一軒の家を借りた。だが、ある日――
「ただいま……ミレカ?」
その日を境に、彼女が家に帰ってくることはなかった。
「……ミレカ、ミレカ!」
ユイスは魔界中を探し回った。だが、彼女が見つかることはなかった。何十年も、何百年も探し続けた。そんなある日、ユイスは魔導書を見る機会があった。そこには、空間移動魔法について書かれていた。
「この魔法は、人界に君臨する魔王の資格を持つ者でしか使えない……?」
ユイスは魔導書を置くと、魔法を詠唱した。
「空間移動魔法」
◇ ◇ ◇
「それで、人間界をさまよってたら、魔王城にいるミレカさんを見つけたわけよ」
「そうですか……」
セシアは少し落ち込んだ様子でそう言った。
「可哀想とか思ってる?そういうのは別にいいよ」
「いえ、誰であっても、家族や……大切な人と別れるのは辛いですから」
「……まあ、こうしてミレカさんに出会えたから、良いんだけどねー」
ユイスはそう言って笑った。
「そういえば、前はミレカ呼びだったのに、何でミレカさん呼びになったんですか?」
「えっ……そりゃ、何百年も会ってなかったんだよ?久しぶりに会ったら、距離感忘れちゃった」
「それだけ経ってるのに、覚えてる方が凄いですけどね」
セシアはそう言うと立ち上がった。
「ふんふん!前言撤回です!協力しますよ!恋愛相談でも何でも、どんと来いです!」
「……はは、ありがとう」
その時、コツコツと階段を降りる足音が地下に響いた。
「とりあえず、今日は逃げるよ。ありがとね、お嬢」
「だから、その言い方なら様つけてください!」
ユイスはそのまま抜け穴を通り、魔王城を出ていった。
「こんなところでどうしたのですか、王女様?」
階段から降りてきたミレカは、そう言った。
「何でもありません!」
セシアはそう言うと、階段を上がっていった。
(でも、何でミレカはユイスにあんな態度を取るんだろ?照れ隠しにしては当たりが強いし……本当に嫌いって感じもしない。それに、何でミレカは失踪したんだろ。それで、何で魔王城に?なぜ、彼女は傷だらけだったの?……まあ、それはミレカの口から話してくれるのを待つしかないか!)
「でも、あの二人……推しカップルかもー!」
セシアは上機嫌で廊下を歩いていった。
◇ ◇ ◇
「……」
ミレカはその場に立ち尽くしていた。
「何百年も待ち望んでいた……ついに、歯車が動き出した。今度こそ、決着をつける。そのためには……王女様には犠牲にでもなってもらおう」
ミレカはそう言うと、ゆっくりと階段を上っていった。




