40.サーカスへようこそ
「良い天気ですね〜」
セシアは、ミレカとキャッタンと一緒に魔界を歩いていた。すると、地面に紙が落ちていることに気づいた。
「何ですか、それぇ?」
セシアは紙を手に取り、裏返すとそれは「ミサキルクスサーカス開催中」と書かれたチラシであった。
「風で飛んできたんでしょうか?開催日は今日ですか……そうだ!三人で一緒に行きませんか?」
セシアは二人を見てそう言った。
「……ミサキルクスサーカスですか」
「知ってるんですか?」
「……はい。昔あった有名なサーカス団ですよ。あまり、良い噂は聞きませんでしたが」
「サーカスですかぁ?行ってみたいですぅ!」
キャッタンは上機嫌にそう言った。
「……では、行きましょうか?」
ミレカはそう言うと、微笑んだ。
「じゃあ、レッツゴーです!」
「おぉー!」
三人はチラシに書かれたサーカス会場へと歩き出した。
◇ ◇ ◇
「わあ、凄いです!」
そこは赤いスポットライトで照らされており、中央の円形ステージは金網のケージで囲まれていた。客席はステージを360度取り囲むように階段状に配置され、多くの観客で埋め尽くされていた。
「あそこ、空いてますよぉ!座りましょう!」
セシア達は、キャッタンが指差した三席並んだ空席に座った。
「檻があるってことは、割と危険なショーがあるんですかね?」
「……さあ、どうでしょうか」
ミレカがそう言った直後、辺りが暗くなり、軽快な音楽と女性の声が響き渡った。
「ようこそ、紳士淑女の実に幸運な皆様!皆様は、あの一枚の紙片によってここに導かれたのでしょう!お代は見てのお帰り。もしもお気に召せば、客席へと置いていってくだされば結構でございます!これから、皆様を世にも奇妙な夢へと誘いましょう!さあ、ショーの幕開けでございます!」
ステージにスポットライトが照らされると、そこには一人の、見覚えのあるおじさんが立っていた。
「……あ、あれはぁ!」
「自己おじじゃないですか!何であそこにいるんですか!」
「ついに見世物になりましたか」
「あの方は何をするんでしょうか!?」
セシアがそう言うと、女性の声が響いた。
「さあ、皆様!今からお見せするのは、45歳の中年男性の魔族が、猛獣など足元にも及ばない、火を吹く怪物とも呼ばれるキメラをもひざまずかせる、命懸けのカーニバルでございます!今、始まります!」
すると、頭がライオン、体がヤギ、尻尾がヘビの魔族が檻に入れられた。キャッタンとセシアは引きつった顔をした。
「……そういえば、自己おじは魔族でしたね。その辺、作者が少しあやふやになっているのですよね」
ミレカがステージを見ながらそう言った。
「そんなこと言ってる場合じゃないです!このままだと、自己おじが死んじゃいますって!」
「そうですよぉ!あんなのに、勝てるわけないでしょぉ!?」
「……実は、自己おじが、漫画とかによく出てくる最強おじさんの可能性がありますよ?」
ミレカがそう言った直後、キメラがおじさんに向かって火を吹いた。
「ええぇぇー!避けてください!自己おじ!」
だが、おじさんは笑みを浮かべた。
「はっ、あの余裕は何かありますよぉ!」
すると、おじさんは床に手をつき、土下座した。そして、危機一髪で火を回避した。
「なに土下座してるんですか!無理ですって!」
「でも、ナイスですよぉ!攻撃を回避できましたぁ!」
「……本当に見世物ですね」
ミレカが小さくそう呟いた。土下座しているおじさんに向かって、キメラが近づいていく。
「やばいです!自己おじ、立ち上がってください!」
すると、キメラはおじさんを見るなり、涙を流した。
「泣いてますよぉ!?」
「もしかして、自身のやっていることに胸を痛めたのかもしれません!」
キメラは前足でお腹を押さえると、その場でうずくまった。
「おーっと、これは今朝食べさせた肉が腐っていたのかー!エサ係は誰なんでしょうか?名乗り出てください!」
「いや、食中毒を起こさないでください!」
「……一体、誰がぁ?」
すると、おじさんが立ち上がり、手を上げた。
「貴方かい!」
おじさんはキメラの前まで歩いていくと、その頭を撫でた。
「この勝負はワシの勝ちです……乙やで」
おじさんはそう言うと、親指を立てた。すると、キメラはその場に倒れた。
「ただいまの勝負、おじさんの勝利となります!皆様、彼に盛大な拍手を!」
「いや、サーカスですよね!私達は闘技場にでも来たんですか!」
セシアが二人を見ると、二人とも拍手をしていた。
「まさか、こんなカスみたいなショーに、これほどの人が集まるとは」
「自己おじぃ……よく頑張りましたねぇ!」
キャッタンが嬉しそうにそう言った。
「けれど、腐った肉をあげてはいけませんよ。今回は責任を取って、この場でおじさんを解雇といたします!」
「いや、クビにされてます!」
「何か最後に一言ありますか?」
そう聞かれると、おじさんはセシア達を見て親指を立てた。
「……乙やで」
「さっさと帰ってくださいぃぃ!」
おじさんはステージから降りると、とぼとぼと歩いていった。
「さて、お次は――」
◇ ◇ ◇
「とんでもないサーカスでした……」
セシア達は魔界の街を歩いていた。
「ちょっと面白かったですけどねぇ?」
「どこがですか!?最後に至っては、道化師が観客を笑わせるところが、人生相談してたじゃないですか!」
「割と重い内容でしたねぇ」
セシアはミレカに目をやった。
「あれ、大丈夫ですか?」
「……申し訳ありません。ここで少し待っていてくれませんか?少し、買いたいものがありまして」
「じゃあ、一緒について行きますよ?」
「いいえ、私一人じゃないと駄目なので。すぐお戻りいたします」
ミレカはそう言うと、歩き出した。
◇ ◇ ◇
ミレカは先ほどのサーカス会場に戻っていた。すると、一人の道化師の衣装を着た赤髪の女性がミレカに向かって歩いてきた。
「ショーは終わりましたが、お忘れ物でございます……か?」
女性はミレカを見ると、立ち止まった。
「まだこんな非道なショーをやっていたのですね……ミサ」
「はっ、おめえこそガキなんか連れて何やってんだぁ?……ミレカ」
「驚きましたよ。まさか、何千年も前に解散したサーカス団が、再びこんなショーを開くなんて…… また首輪でも引っ張られましたか?」
ミレカは微笑んでそう言った。
「はん、ずいぶん丸くなったと思ったが、おめえのその腐った性根は変わんねぇようだな。サーカス団を再結成したつもりはねぇよ。アイツに頼み込まれたんだ」
「何が目的です?」
ミレカはそう問いかけた。
「ギャハ、おめえに教えると思うか?だが、まあ一つだけ言っておいてやる。あの連れのガキ、近いうちに死ぬぜ?」
「……それは、どういう意味で?」
「さあな。ウチにもよく分かんねぇよ。アイツが考えてることは。昔からな」
「はぁ……あの死神少女とやらに、ぜひ伺いたいのですが。無駄なようですね」
ミレカがそう言うと、女性はそのまま立ち去ろうと歩き出した。
「じゃあな、ミレカ。今度会ったら、ぜってぇぶっ殺すからな」
ミレカもそのまま会場を後にした。
◇ ◇ ◇
「遅くなって申し訳ありません」
ミレカが戻ると、そこにはセシアが大量の食べ物を買っていた。
「あっ、ミレカ……おかえり〜」
「王女様……出費は控えるようにと言いましたよね?」
「キャッタン……逃げますよおおぉぉ!」
セシアはそう言うと、キャッタンと手を繋いで走り出した。
「待てや、こらあぁぁ!」
ミレカはセシアを追いかけた。
◇ ◇ ◇
「だから、気をつけますってぇ……」
セシアは頬を膨らませながらそう言った。
「……ミレカってぇ、何かを買いに行ったんじゃないんですかぁ?」
キャッタンはミレカを見てそう言った。
「……必ず」
ミレカは小さくそう呟いた。
「何て言いましたぁ?」
「さあ?」
「はいはい。早く帰りますよ」
ミレカはそう言うと、魔法を詠唱した。




