39. オタクに彼女を作らせよう!
「……私は、彼女が帰って来たら想いを伝える」
カラリリは窓枠に寄りかかりながら、そう呟いた。
「それ、僕に教えていいのかい?」
ラジアはソファに座り、微笑みながらそう言った。
「教えてない。お前が勝手に聞いた……死ね」
「ハハ、上手くいくと良いね〜」
「……思ってないくせに言いやがって」
「思ってるって〜僕にとってカラリリも、一人の大切な友人なんだからさぁ」
「……私は嫌い。死んで」
「ハハ、手厳しいね〜」
◇ ◇ ◇
「……きろ。起きろゴミカス守銭奴」
カラリリは、ソファで眠っているラジアへそう声をかけた。
「……おはよう、カラリリ。何か用かい?」
「もう昼……早くお店開けて」
「もうそんな時間かい?準備するから、もう少し待っててね〜」
ラジアはそう言うと立ち上がり、奥の部屋へ向かった。すると、店の外から声がした。
「あれ、まだお店開いてないんですか?」
セシアは店の前でそう言った。
「セシア、ごめん。もう少し待ってて……あのバカが寝坊したから」
「そうなんですか!分かりました!待ってますね」
カラリリはその声を聞くと、奥の部屋へ向かった。そこでは、ラジアが髪をといていた。
「セシアがもう来てる……早くしろ」
「分かってるって〜勝手に入ってきて、もし僕が着替えてたらどうするつもりだったのさ?」
「確かに……目に毒だもんね」
「ぶっ飛ばすよー?……最近、眠りが浅くてね。なんでだろうね」
「ソファじゃなくて、ベッドで寝て……どうせ、遅くまで起きてたんでしょ……早く寝たら」
「心配してくれてるのかい?」
「違う……死ね」
「ハハ……手厳しいねぇ〜」
ラジアの支度が終わると、二人はそのまま店を開けた。しばらくすると、一人の男性がソルブの天秤へ依頼をしに来た。
「せ、拙者に嫁をください!」
その男性はチェックのシャツに黒縁メガネをかけていた。絵に描いたようなオタクである。
「これがオタクですか!」
セシアは珍しいものを見るような目でそう言った。
「なるほどね〜でも、いきなり奥さんは難易度が高いんじゃないかな?まずは彼女からどうだい?」
「うっ……でも、籍は入れたいでござる」
「まずは……身の丈に合った願いにして」
カラリリはソファに寝転びながらそう言った。
「それで、君は気になる人でもいるのかい?」
「……拙者、これまでの人生、二次元の嫁一筋で生きてきたでござる。しかし!先日、行きつけのアニマイトで現実の女子に一目惚れしてしまったのでござるよ!」
「なるほど!つまり、その女性と付き合いたいんですね」
「女の子って言ってたけどさ……さすがに成人してるよね?」
ラジアはそう問いかけた。
「滅相もない!拙者、ロリには興味がないでござる!」
「あったら犯罪ですね!」
「それなら……まず見た目を変えないと」
カラリリは男性を見てそう言った。
「そうだね〜じゃあ、その依頼、引き受けるよ。まずはカラリリの言う通り、見た目からだね」
◇ ◇ ◇
「ウィーーーン」
椅子に座った男性の後ろには、セシアがバリカンを持って立っていた。
「あのさ、普通は美容室だよね。何で君がやるんだい?」
「そんなの決まってる……この提案をしたのは私達だから、美容室の代金はこっちが出さなきゃいけない。けど、それすらもケチる」
カラリリは真顔でそう言った。
「僕が言うのも何だけど、美容室代なんて痛くもかゆくもないよ?」
「ふんふん!提案したのはこの私ですよ!一回やってみたかったんですよね!今日の私は美容師です!」
セシアはハサミをカチャカチャ鳴らしながらそう言った。
「君は好奇心旺盛な子供かな!?これは遊びじゃないんだよ!?あと、それ危ないからやめてね!?」
「……ここで一句。大丈夫、何とかなるさ、セシアなら」
「何、詠んでんの!?」
「じゃあ、行きますね!かっこいい髪型にしてあげますよ!」
セシアはそう言うと、バリカンとハサミを使い始めた。
◇ ◇ ◇
「……っ」
ラジアは引きつった顔をした。男性の髪は、コンセントのような凹型の髪型になっていた。
「角刈りにしてから、真ん中を少し剃ってあげると、こんな芸術的な髪型になるんです!」
「良いね……何かパズルゲームにありそう」
「いや、良くないよ!あまりにも個性的すぎないかい!?君は本当にこれで良いのかい?」
ラジアは男性にそう問いかけた。
「これが最近流行りのヘアでござるか?」
「違うよ!?こんなの流行ってたまるか!」
「大丈夫……彼女の方を凸の髪型にすれば、テトラスカップルとして有名になる……間違いなし」
カラリリは頷いてそう言った。
「でも、凸の方にすれば良かったかもしれませんね。男性でしたら、そちらの方が似合いそうでしたし」
「それは変な意味ではないよね?」
「じゃあ、次は服装……レッツラゴー」
カラリリはそう言うと、セシアの手を引っ張って店を出た。
「いや、連れていくのはこっちだよ!?」
◇ ◇ ◇
セシア達はコンテナの後ろに隠れていた。
「えっと、ここはどこだい?」
「ここが拙者の行きつけのアパレルショップでござる」
男性がそう言った直後、目の前に銃を持った男性が立っていた。
「あれは危ないです!下がっていてください!」
「……ここ、もしかして、王女さん、待って!」
ラジアが止めるよりも早く、セシアはその男性に向かって駆け出した。そして――
「えいっ!」
飛び蹴りを食らわせた。
「うわああぁぁ!」
男性がそのまま倒れ込むと、セシアは落ちていた銃を遠くへ蹴り飛ばした。
「さすが、セシア。じゃあ……貰おう」
カラリリはそう言うと、男性が着ていた迷彩服を剥ぎ取った。その迷彩服はところどころ破れており、血のようなものまで付着していた。
「これで服は大丈夫ですね!」
「めっちゃ臭い……キツイけど、それもファッション」
「拙者、サバゲー大好きでござる!」
「……はは」
ラジアは苦笑するしかなかった。
◇ ◇ ◇
セシア達はアニマイトに来ていた。三人は本棚の物陰に隠れ、男性の様子をうかがっている。
「なぜか、あの方から次々と人が離れていきますね……道を開けてくれているんでしょうか?」
「それは、完全に不審者だからね〜」
「……話しかけそう」
男性は一人のおばあさんの元へ近づいていった。
「拙者、貴殿のことが、す、好きでござる!」
「「えーーー!?」」
セシアとラジアは驚いて声を上げた。
「おばあさんだったんですか!?」
「あの年でアニマイトはなかなか珍しいね〜!?」
二人が驚いていると、カラリリが口を開いた。
「ここで一句。恋愛に、年齢とかは、関係ない」
「もうそれいいよ?」
おばあさんは微笑むと、ゆっくりと口を開いた。
「えー、キモいんだけど何このオタクぅ?臭いし、髪も服装もキッショ〜!てか、ウチみたいなJKに話しかけるとか何なの〜?」
「何あれ……あれのどこがJKなんだい?」
ラジアは困惑しながらそう言った。
「JKは女子高校生だけの略称じゃありませんよ?ジュエリーなコリアンダーの可能性だってあります!」
「ないよ!何言ってんの!?」
「分かってない……セシアは。普通に考えたら、JKは熟女の略でしょ」
「いや、意味分かんないよ!」
おばあさんはそれだけ言うと、アニマイトから出ていった。すると男性は、よろよろとおばあさんの後ろにあった棚へと近づいていった。
「これは!拙者好みの嫁でござるううぅぅ!」
男性はそう叫ぶと、一冊の漫画を手に取り、レジへと向かっていった。
「……帰ろうか?」
「良かったですね!新しい恋が見つかって」
「後で報酬払えよな」
「僕はずっと君達に振り回されてる気がするよ……」
ラジアは苦笑した。こうして三人は、そのまま店へと戻っていった。ちなみにこの後、男性は店に来て、しっかりと依頼料を支払ったのであった。




