38.シスコン兄貴の宣戦布告
「あ、あれはああぁぁ!」
カトラスはセシアの自室の窓に張り付きながら、そう叫んだ。
「誰だ、あのイケ男は!魔王なのか!?許せん!セシアは、あんな男と一つ屋根の下で過ごしているというのかー!」
カトラスがそう言うと、ゆっくりと部屋の扉が開いた。そこにはセシアが立っていた。
「あ、また会ったな!セシア!」
セシアは勢いよく窓を開くと、カトラスを掴んで部屋の中に放り投げた。カトラスはそのまま壁に突き刺さった。
「……で、何でここにいるんですか?」
カトラスはゆっくりと壁から抜け出した。
「そりゃセシアのお兄ちゃんなんだから、妹を心配するのは当たり前ではないか!どうだ?こうして侵入がバレていないのなら王宮に帰れるぞ!」
「いや、侵入はバレましたよ?」
セシアがそう言うと、勢いよく部屋の扉が開いた。そこにはエレントスとキャッタンが立っていた。
「お前ら、何してんだ?」
エレントスがそう言うと、セシアはカトラスを指差して、口を開いた。
「侵入者です。つまみ出してください」
「……あ、どこかで見た顔だと思えばぁ、あの時、魔王城から落ちていった人じゃないですかぁ!」
「お前、あの時の奴か!その件は助かったぞ!」
「いや、早く出ていけよ」
エレントスはカトラスを見てそう言った。
「そう易々と帰るわけにはいかないな!勝負だ、魔王!」
「まずお前、誰だよ?」
「俺はこの国の王子、カトラス・プレーセスだ!」
カトラスは自信満々にそう言うと、セシアは口を開いた。
「略してカスです。早く消しましょう」
「いや、消さねぇよ……!で、我を倒しにきたのか?」
エレントスがそう問いかけると、カトラスは鞘から刀を抜き、エレントスに向けた。
「違う!決まってるだろ!どっちがセシアの婚約者として相応しいか勝負だ!」
「……帰っていいか?」
「心から思います。死んでください」
三人は冷めた目でカトラスを見た。
「まぁ、面白そうだし良いじゃないですかぁ」
「いや、一ミリも良くないですよ?」
セシアはキャッタンに真顔でそう返した。
「何かを賭けて勝負すればいいんですよぉ。あっちが勝ったら王女様はその人の婚約者にぃ、こっちが勝ったらぁ、魔王城に二度と来ないでもらうとかぁ」
「キャッタン……あんま変なこと抜かさないでくださいよ?」
セシアはキャッタンを掴んで、そう言った。
「良いではないか。その勝負、乗ってやる」
「乗らないでください!」
「我が人間に負けるわけがないだろう。任せておけ」
エレントスはセシアを見てそう言った。
「いや、普通の勝負なら問題はないんですけど……」
セシアがそう言うと、カトラスは指を三本立てた。
「決まりだな!今から3回勝負を行う!それぞれ勝った回数が多い方の勝ちだ!」
「始まりましたねぇ」
「まず最初はセシアの胃袋を掴め!料理対決だ!ルールは簡単。セシアが出された手料理を食べて、どちらが美味かったか決めてもらう!そうと決まれば行くぞ!」
◇ ◇ ◇
エレントスとカトラスはキッチンにいた。
「セシアは絶望的に料理が下手でな。代わりに俺達、夫が手料理を作ってあげるのだ!」
「何かやる気わかねぇな」
エレントスがそう言うと、どこからかナイフが投げられ、そのままキッチンの壁に刺さった。
「死ぬ気で頑張ってくださいね?エレントス様……私、まだ人を殺したくはないです」
椅子に座っていたセシアは、そう言って微笑んだ。エレントスは引きつった顔をした。
「お題はない!冷蔵庫にあるものだけを使うのだ!」
「お前、不法侵入した挙句、冷蔵庫のものまで勝手に使うのかよ……」
「まずは俺からだな!」
カトラスはそう言うと冷蔵庫を開けた。すると、顔をしかめた。
「驚くほどシケているな!ちゃんとセシアを食べさせてやっているのか?」
「勝手に勝負を持ちかけてきて何言ってんだ!」
カトラスは冷蔵庫から卵と牛乳、砂糖を取り出してカウンターに置いた。
「何だ、プリンか?」
「よく分かったな!セシアは甘いものが大好きなんだ!まずはカラメル作りからやるぞ!」
カトラスはそう言うと、フライパンに砂糖と水を入れ、強火にした。
「……少し火が強くないか?」
「料理というのは度胸がないと成功しないものだ!」
すると、カラメルは真っ黒になった。カトラスはそのままコップに流し入れた。
「……おい、焦げてるぞ」
「気にするな!次は卵割りだ!」
カトラスは卵をボウルへ勢いよく投げつけた。
「待てえぇぇ!再放送じゃねぇか!前も見たぞこれぇ!」
「何の話か全く分からないが、次は砂糖と牛乳を入れ、ひたすら混ぜていくぞ!」
カトラスは泡立て器で勢いよく生地をかき混ぜた。
「おい、待て!ゆっくり混ぜろ!」
数秒後。
「なぜか生地が半分以上減ったが、全くもって問題はないな!」
「……床を見ろ。後で拭いてもらうからな」
エレントスは汚れた床を見てそう言った。
「これをコップに移し、フライパンで蒸すぞ!」
「……なんか嫌な予感が」
カトラスはそのままコップをフライパンの中に入れて、強火にした。
「後は待つだけだな!」
「おい、まず弱火で良い。あとアルミホイルで蓋をして、フライパンの底に布巾を敷け。あと――」
エレントスの言葉を遮って、カトラスは口を開いた。
「静かにしろ!プリンに飛沫が飛ぶだろ!」
「お前が一番飛ばしてんだよ!」
「俺の飛沫は良いんだよ!……いや待て、俺の一部がセシアの体内に入ると思ったら興奮するな!今までのプレゼントは全て断られてきたから、今回は合法で受け取ってもらえるのか!」
その言葉を聞くと、エレントスはカトラスを羽交い締めにした。
「おい、何をする!」
「完成まで見張らないとな……」
◇ ◇ ◇
「……はあ、何でこんなことになったんでしょう」
セシアはため息をついた。
「あの人がぁ、前に話してたお兄さんですかぁ?」
「そうです。変わってますよね……」
「面白いじゃないですかぁ……王女様はお兄さんのことぉ、好きですかぁ?」
キャッタンはそう問いかけた。
「いや、全くもって好きじゃないです。ウザいし、キモいし、キモいですから」
「……そ、そうですかぁ!でも、嫌いではないんですねぇ?」
キャッタンは苦笑しながらそう問いかけた。
「いや、だいぶ嫌いですよ?……何であの人は私のこと、気に入ってるんですかね。人って不思議です」
「そうですねぇ……」
キャッタンはそう言って微笑んだ。
◇ ◇ ◇
二人がしばらく話していると、エレントスとカトラスが皿を持って近づいてきた。
「出来たぞ!セシア!」
二人はセシアの前に皿を置いた。カトラスの置いた皿には、真っ黒な何かが入ったコップが乗っていた。セシアとキャッタンは顔を引きつらせた。
「「……」」
エレントスの置いた皿には、丸いクッキーが乗っていた。セシアとキャッタンは顔を輝かせた。
「「……!」」
「えっと、エレントス様の勝ちで」
「待ってくれ!まだ食べてないだろ!?」
「食べなくても分かるだろ……」
セシアはクッキーを掴んで食べた。キャッタンもクッキーを掴み、口に運んだ。
「美味しいです!」
「美味しいですねぇ」
「当たり前だろ」
エレントスは笑みを浮かべた。
「ぐぬぬ!お兄ちゃんのも食べてみろ。ほら、あーんしてあげるぞ!」
「えっ?」
カトラスはそう言うと、スプーンにプリンを乗せてセシアの口に近づけた。
「じゃ、邪魔ですよ!近づくな、変態いいぃぃ!」
セシアはそう言うと、カトラスを殴り飛ばした。
「ぐああぁぁ!」
カトラスはそのまま床に倒れた。
「や、やってしまいました!」
セシアがそう言うと、二人は引きつった顔をした。
「……この間に城から追い出しましょうかぁ」
こうして、二人の勝負はお預けとなったのであった。




