33.不朽の血族編(前編)
「……これ、美味しいですかね?」
「それはぁ、食べ物じゃないですぅ」
セシアとキャッタンは、魔界の花屋にいた。その路地裏では、複数人の男達が二人の姿をじっと見つめていた。
「……あれが、不朽の血か」
両目に眼帯を巻いた男がそう呟いた。
「どうします……?捕らえますか?」
「いや……横にいる女が気になるな」
眼帯の男は、セシアへ視線を向けた。
「ただのガキに見えますが。あの程度なら、我々の障害にもならないでしょう」
「油断は敗因につながる……それは、この身をもって知っている」
そう言うと、眼帯の男は片目を押さえた。
「先の路地……あそこなら人目につきません」
男達は、ゆっくりと二人の後を追い始めた。セシア達が歩いていると、突然、背中を押された。
「「わっ!」」
二人はそのまま路地裏へと押し込まれた。二人が振り返ると、そこには複数の男達が立っていた。そして、その中心には両目に眼帯を巻いた男がいる。
「……誰ですか、貴方達は?」
セシアがそう問いかけた。
「その者を我々に引き渡せば、命だけは助けてやる」
眼帯の男はそう言うと、キャッタンを指差した。
「残念ですが、私はキャッタンも命も何一つ、渡すつもりはありません!」
セシアはそう言い放つと、後ろを振り返った。
「……キャッタン?」
そこにいたキャッタンは、セシアが今まで見たことのないほど虚ろな目をしていた。次の瞬間、男がセシアへ向けてナイフを振り下ろした。
「……!」
セシアは咄嗟に身をひねり、ナイフをかわした。
「火炎魔法」
セシアがそう唱えると、巨大な炎が男達へ向かって放たれた。すると、眼帯の男が口を開いた。
「防御魔法」
その瞬間、男達の前に巨大な一枚の壁が現れた。炎は壁にぶつかると、その勢いを失って消えていった。セシアはそのまま走り出すと、跳躍して壁を飛び越えた。
「岩弾を飛ばす魔法」
セシアがそう唱えると、無数の岩弾が男達に向かって飛んだ。
「「ぐあっ!」」
男達は岩弾をまともに受け、そのまま地面へ倒れ込んだ。だが、眼帯の男だけは立ったままだった。セシアは着地すると、眼帯の男を睨みつけた。
「これは驚いた……ふふ。お前の横には、いつも強者がいるのだな」
眼帯の男はそう呟くと、背を向けて立ち去ろうとした。
「貴方の行き先は、魔衛隊ですよ!」
セシアはそう叫ぶと、跳び上がって飛び蹴りを放った。だが、眼帯の男の前に、再び巨大な壁が現れた。
「……!」
セシアの蹴りは壁に阻まれ、びくともしない。そして次の瞬間、その巨大な壁がセシアとキャッタンへ向かって迫り始めた。
「……!」
セシアは咄嗟にキャッタンを掴むと、高く跳び上がった。巨大な壁はそのまま建物へと激突し、周囲に煙が舞い上がる。
セシアは着地すると、すぐに前方を確認した。しかし、そこに眼帯の男の姿はなかった。残されていたのは、倒れている男達だけだった。
「さっきの方は、一体……?」
セシアがそう呟くと、キャッタンが彼女の手を掴んだ。
「……この人達はぁ、魔衛隊に任せますぅ。王女様ぁ……早く、帰りましょぉ」
キャッタンは、乾いた笑みを浮かべながらそう言った。
◇ ◇ ◇
「――ということがあって」
魔王城でセシアは、先ほど起きた出来事をエレントスに話していた。
「眼帯の男か……」
「聞いたことがあるんですか?」
「我はないが……お前はあるんじゃないか?」
そう言って、エレントスはキャッタンへ視線を向けた。
「……」
キャッタンは虚ろな目をして、下を向いていた。
「ダンマリか?……まるで昔のお前を見ているようだな」
「昔……?」
セシアはそう呟くと首を傾げた。
「キャッタン様は昔……といっても、あの二人が出て行った後のことなんですが、ストラント様に拾われて、この城に来たんですよ」
ミレカが小さな声でそう耳打ちした。
「……知らないですぅ。知っていたとしてもぉ……みんなに伝えることなんて、何一つないですぅ」
「何でですか……?私達は仲間であって、家族でしょう!そうキャッタンが言っていたじゃないですか!」
セシアはキャッタンを見てそう言った。
「……」
だが、キャッタンは何も答えない。
「……別に、言いたくなかったら言わなくても良いだろ。そんなんで、我々は仲間じゃなくなるのか?違ぇだろ」
「……っ」
セシアはエレントスを見て口を開いた。
「確かにそれは違いますね!……私達は、キャッタンが話してくれるまで気長に待つとしましょうか」
セシアはそう言うと、その場を立ち去ろうとした。
「……自分達一族は、不朽の血を引く者ですぅ」
「……!」
セシアは驚いたように振り返った。キャッタンは少しだけ顔を上げると、三人を見つめた。
「……聞いてくれますかぁ?」
キャッタンは乾いた笑みを浮かべた。




