32.仲直りの第一歩
「ふんふん!面白いですねぇ。でも、魔法陣を使った魔法って見たことないです……」
セシアは図書館で魔道書を読んでいた。
「おい。今、空いてるか?」
そう声を掛けられ、振り返ると、そこにはエレントスが立っていた。
「そういう言い方をされると、暇じゃなくなりますが……何ですか?」
「お前が割った魔法の鏡、治ったぞ。見るか?」
「ほんとですか!?……Dプリージ金貨11枚で修理できるんですね」
二人はそのままエレントスの自室へ向かった。部屋には、以前セシアが叩き割った大きな鏡が掛けられていた。
「久しぶりですね、魔法の鏡さん!」
セシアが声を掛けると、鏡が淡く光った。
「何が久しぶりだ。この暴力女が……あなたには死を願います」
「……おい。ちょっと待て」
エレントスは慌ててセシアを羽交い締めにした。
「誰がぁ暴力女ですか!?この鏡、もう一度叩き割ってあげますよ!」
「気持ちは分かるが、落ち着け!」
「落ち着いていられませんよ!ふざけんなぁ!」
セシアはエレントスに押さえられながら、その場でもがいた。
「お前ら、仲直りしろ!」
エレントスはそう言うと、セシアを椅子に座らせた。
「まず、お前は鏡に割ったことを謝れ」
「……分かりましたよ」
セシアは渋々立ち上がり、鏡の前に立った。
「感情に任せて貴方を叩き割ってしまい、申し訳ございませんでした」
「足りねぇんだよ。謝罪の気持ちがあるなら、土下座しろ。足でも舐めろ。……あ、足なかったわ。鏡でも舐めとけや。いや、やっぱいいわ。暴力女の菌がうつって病気にでもなったら嫌だし」
鏡がそう言うと、エレントスは再びセシアを羽交い締めにした。
「謝ったじゃないですか!?やっぱり、その腐った性根は叩き割らないと治らないようですね!」
「鏡は何でそんな言い方すんだよ!この王女、怒っちゃうから!また叩き割っちゃうから!」
「こんなのと仲直りなんかできませんよ!」
セシアはエレントスに詰め寄りながらそう叫んだ。
「落ち着け。仲直りの一歩は、まず相手の話を聞くことだ。そして、手を出さない……分かったか?」
「手を出さない、ですか……」
セシアはそう呟くと、どこからともなく鎖を取り出した。そして、それをエレントスに手渡すと、椅子に座った。
「それで、ぐるぐる巻きにしてください!」
「そこまでなのか!?」
エレントスは顔をしかめながらも、鎖で椅子を軽く巻きつけた。セシアは鏡を見つめると、口を開いた。
「仲直りしましょう。こんな喧嘩、何の意味もないです!」
「喧嘩に意味を求めんなよ。この堅物女が」
「……そ、そうですか」
セシアは少し考えるように鏡を見た。
「そういえば貴方は、アイドルが大好きでしたよね。確か、スキスキキャンディのリリイスでしたっけ。可愛い子ですよね」
セシアがそう言った瞬間、鏡が強く光った。
「何だ……?」
エレントスは目を細めた。
「お前みたいな暴力女がリリイスを語るなああぁぁ!お前は性格も知能も顔面偏差値も、全てにおいて負けてんだよ!」
「そ、そんなことありません!……少なくとも顔は良い方です!」
「お前の顔面偏差値は中の中ってとこだろ。性悪でバカな暴力女にはお似合いだ」
「……そうですか。良いんですね。最期の言葉はそれで良いんですね!?」
セシアはそう言うと、椅子に巻かれた鎖を握りしめた。次の瞬間、鎖がまるで焼き切られたかのように真っ二つになった。
「おい、待て!」
セシアは勢いよく立ち上がり、鏡へ向かって駆け出した。
「もう一度、叩き割ってやりますよぉぉぉ!」
「いい加減にしろ!」
エレントスはそう言うと、セシアを蹴り飛ばした。セシアはそのまま一直線に飛び、壁へ突き刺さった。
「お前ら、接触禁止だ!」
エレントスはそう言うと、鏡に白い布をかぶせた。
果たして、この二人が仲直りできる日は来るのだろうか。セシアと魔法の鏡の仲直りは、まだまだ遠い道のりであった。




