31.財布の行方を探せ!
一人の女性が、ソルブの天秤に依頼をしに来ていた。同じソファに、ラジアとセシアが向かい合って座っていた。
「「最初はグー!ジャンケンポン!」」
セシアはグーを出し、ラジアはパーを出した。
「王女さん弱いね〜これで10連勝だよ」
「……運だけで勝って楽しいですか!?」
「じゃんけんは運だよ〜」
「……あの?」
女性がゆっくりと口を開いた。二人はハッとすると、女性の方を向いた。
「あ、ごめんね〜それで、何の依頼だっけ?」
「花柄の財布を探してほしいんです」
「OK!物探しね。でも、値段は高くつくよ」
「百も承知です。どうしても大切な物なんです」
女性は依頼をすると、小さく頭を下げ、そのまま店を後にした。セシアはラジアの方に目をやった。
「物探しの魔法でもあるんですか?」
「全くないね〜だから、死ぬ気で探せー!」
「え……えぇぇぇぇ!?」
二人が店の外に出ると、カラリリが店の前に立ち尽くしていた。
「私も手伝ってあげる……」
「はぁ?別に頼んでないけど〜」
「店の評判下がる……依頼失敗すると」
二人が睨み合っていると、セシアが口を開いた。
「まあまあ、別にいいじゃないですか!?三人で協力して見つけましょう!」
「まあ、そうだね〜」
ラジアがそう言うと、そのまま三人は歩き出した。そして、商店街で足を止めた。
「依頼人の方によると、この辺で財布をなくしたことに気づいたらしいです」
「落としてたら楽なんだけどね〜スリだとキツいかもなぁ」
「……私が見つけたら、財布の中身少しだけ貰っていい?」
カラリリはラジアにそう問いかけた。
「良いね。そしたら、君は魔衛隊行きだ」
「じゃあ、もっと給料寄越せよ。ゴミカス守銭奴が」
「それとこれとは話が違うでしょ〜」
二人はそう言うと、また睨み合った。
「喧嘩してる場合ですか!?落としたとしたら、この辺に必ずありますから!探しましょう!」
セシアがそう言うと、カラリリが口を開いた。
「私が先に見つける……勝負だ」
「良いよ。罰ゲームでもつけるかい?」
「上等……負けたら死んで」
「だから、罰が重いんだよ!」
ラジアはそう言うと、顔をしかめた。
「じゃあ……給料増やせ」
「うちは歩合制なんだけどね〜」
カラリリはそのまま、奥へ走り去っていった。
「……二人って、仲良いのか悪いのか、どっちなんですか?」
セシアはラジアを見て、そう言った。
「うーん……前にも言ったんだけど、素直じゃないんだよ。僕以外、全員ね」
「ラジア様……私が見つけたら、給料増やしてくださいね。約束ですよ!?」
「いや、君もかい?」
セシアも、そのまま奥へ走り去っていった。
◇ ◇ ◇
セシアが歩いていると、床に座り込んでいるおばさんが、花柄の財布を覗き込んでいた。セシアは動きを止め、そのまま近寄った。
「……あの、その財布って、おばあさんの物ですか?」
「何だい、アンタは!まさか、この財布の持ち主かい?」
「私の知り合いが、ここら辺で財布を落としてしまいまして。その財布が花柄だったので……少し見せてもらえませんか?」
「なるほどねぇ……欲しけりゃ、ワシの言うことを聞いてもらうよ」
「何でですか……?」
「この財布はワシが拾ったもんだ。だから、取り返したいならせんとうや!」
「戦闘ですか!?……いくらお年寄りだとしても、盗っ人にかける情けはないです!ボコボコにしてあげますよ!」
セシアはそう言い放った。
「ボコボコ……?よく分からんが、行くぞい!」
おばさんはそう言うと、セシアを建物に向かって蹴り飛ばした。
「うわああぁぁ!」
そのまま一直線に飛び、壁へ突き刺さった。セシアはゆっくりと壁から抜け出すと、そこが銭湯であることに気づいた。
「戦闘じゃなくて……銭湯!?」
◇ ◇ ◇
「普通に落ちてた……」
カラリリは自動販売機の下を覗き込んでいた。そこには、花柄の財布が落ちている。カラリリは財布に向かって手を伸ばすが、届かなかった。
「……もう少し手が長ければ」
カラリリが必死に手を伸ばしていると、後ろから足音が響いた。咄嗟に振り返ると、そこにはラジアが立っていた。
「見つけたかい?」
「……!これは私が見つけた」
「でも、届かないんでしょ〜?取ってあげようか?」
ラジアがそう言って笑うと、カラリリはラジアを蹴り飛ばした。ラジアはそのまま一直線に飛び、店の外壁へ突き刺さった。
「……何か、先の長いものは?」
カラリリは周囲を見渡す。すると、そこには一本の大根があった。それは、ラジアが突き刺さった衝撃によって、店から飛び出してきた物だった。
「この大根……買った!」
「いや、それうちのだから!返せええぇぇ!」
店主が遠くからカラリリに叫んだ。
「……後から、この財布がお金払ってくれる」
店主がカラリリを睨みつけていると、店の外壁に刺さったラジアを見つけた。
「お前、店どうしてくれんだ!?」
「え〜?知らないよ。これ、僕のせいじゃないし」
「ふざけんなよ!ただでさえ私は財布なくしてイライラしてんだ!消え失せろおおぉぉ!」
店主はそう言うと、ラジアを引っこ抜き、カラリリの方へ投げつけた。
「「えっ?」」
二人は衝突し、その勢いで自動販売機が横へ倒れた。カラリリは倒れたまま、ゆっくりと財布に向かって手を伸ばす。だが、ラジアはその手を押さえつけた。
「離せ。セクハラ……」
「何がだよ」
ラジアはそう言って眉をひそめた。
(この財布を取られたら、骨の髄まで金を奪われる。だから、絶対に渡すわけにはいかない)
(この財布を取れたら、骨の髄までお金を奪える。だから、絶対に渡すわけにはいかない)
「ねぇ……」
「何かい?」
「後ろにセシアがいるよ」
「え、王女さん?」
ラジアがそう言って後ろを振り返った。その隙に、カラリリは財布へ手を伸ばした。
「……取った!」
カラリリは起き上がり、手に取った物を見る。だが、それは一本の大根だった。
「何……だと?」
「惜しかったね。財布はここだよ」
カラリリが振り返ると、そこには花柄の財布を手にしたラジアが立っていた。ラジアはゆっくりと財布を開け、中身を確認した。
「……うん?」
ラジアはそう言うと、その場に立ち尽くした。
「どうしたの……?」
カラリリはラジアに近寄り、財布の中身を見た。そこには、一枚の紙だけが入っていた。カラリリはその紙を開き、ゆっくりと読み上げる。
「この財布を拾ったら、あなたは10時間以内に20人にこの財布を拾わせてください。さもなくば、10時間以内にあなたの家を破壊しに行きます。これは嘘ではありません。いや、たとえ来なくても訴えないでください。嘘ではないけど嘘になることもあります。許してください(笑)」
「いや、イタズラだよ!僕らは何してたんだ!」
カラリリはその言葉を聞くと、そのまま財布をゴミ箱に放り込んだ。
「無駄なことに時間を使った。セシアが財布を手にしたかもしんない。戻ろ」
「ハハ、そうだね」
二人が店の方へ戻ると、そこには花柄の財布を先ほどの店主に手渡しているセシアがいた。
「ちょっと、王女さん、何やってんの!?」
「え?あの……銭湯に入らせてもらったら、財布を貰えたんですけど。この方の物らしくて」
「ありがとな、嬢ちゃん!……嬢ちゃん、コイツら連れかい?」
「そうです」
「……今回はこの嬢ちゃんに免じて許してあげるけど、次はないからな?」
店主はそう言うと、二人を睨みつけた。
「は、はーい……」
「これはラッキー。よくやった、セシア」
「お前ら、反省してねぇだろ!」
三人は、そのまま店へと戻った。
◇ ◇ ◇
店に戻ると、依頼人である女性が店の前にいた。三人が口を開く前に、女性が頭を下げた。
「あの……財布、カバンの中に入ってました。申し訳ございませんでした!じゃあ、失礼します!」
女性はそう言うと、そのまま店を立ち去った。三人は、しばらくその場から動けなかった。
「「「……」」」
三人の財布探しは、何の意味もなく終わったのであった。




