30.暑い夜は悪夢を見やすい
「セシア、お兄ちゃんと一緒にお風呂入ろう!」
カトラスはセシアの肩に腕を回して、そう言った。セシアは無言でカトラスに飛び蹴りを叩き込んだ。
「ぐああぁぁ!そういうツンデレなところも可愛いぞ!お兄ちゃん、こんな妹を持てて幸せ者だな!」
「死んでください」
セシアは冷めた目でカトラスを見ると、そのまま立ち去ろうとした。
「待ってくれ、セシア!プレゼントを用意したんだ!」
「どうせ盗聴器と隠しカメラですよね。何回やるんですか。死んでください」
セシアはそう言うと、走り去った。
「待ってくれ!セシアーー!」
◇ ◇ ◇
セシアはしばらく王宮の廊下を歩いていた。そして、少し離れた場所でため息をついた。
「はぁ……何であの人はずっと、あんな感じなんですかねぇ」
セシアは周囲を見渡していると、庭に見覚えのある少女を見つけた。
「……ローラ!」
庭では、セシアに手を振っているローラがいた。
「久しぶりだね、セシア」
「一週間ぶりですかね……?」
セシアは微笑むと、左右を警戒しながら庭へと出た。
「今、話して大丈夫?」
「はい。大丈夫ですよ!今日は何を話しましょうか?」
セシアがそう問いかけたが、ローラは口を開かなかった。
「……ローラ?」
「お前は何をしているんだ」
ローラは、ノイズのかかったような声でそう言った。
「えっ……?」
「いつまで地獄でままごとをしている?国民は皆、お前が魔王の首を討ち取ってくれると期待しているというのに。なあ、お前は王国を見捨てるつもりか?」
「……一体、何の話ですか?」
「国防の大魔法使い……いや、セシア・プレーセス。今のままでは、必ず後悔することになるぞ」
◇ ◇ ◇
「はっ……!」
セシアはベッドから飛び起きた。時計を見ると、夜の2時だった。
「はぁ、はあ……夢でしたか……」
セシアはそう呟くと、再び布団に入った。
「暑い夜は悪夢を見やすいって、よく言いますもんね!よし、寝ましょう」
セシアがそう呟いた瞬間、窓際からシャッター音が響いた。セシアは音がした方向を向く。そこには、窓にしがみつきながらカメラを構えているカトラスがいた。
「あ、久しぶりだな!セシア!」
セシアはゆっくりと窓際に近づき、窓を開けた。そして勢いよく、カトラスの顔面にパンチを叩き込んだ。
「ぐああぁぁ!そういうツンデレなところも可愛いぞ!お兄ちゃん、こんな妹を持てて幸せ者だな!」
カトラスはそう言うと、そのまま落ちていった。
「夢ですね……夢に決まってます」
セシアはそう呟くと、そのままベッドに入った。
◇ ◇ ◇
「……こんなところにいると、風邪引くぜ?」
雨が降る路地裏で、一人の男性が、黒い角が二本生えた小さな猫のような魔族にそう声をかけた。
「……」
「とりあえず、俺らんとこ来るか?」
「……」
魔族は虚ろな目をして、ずっと下を向いていた。
「良いってことだよな。よっしゃ、行くぞ!」
男性はそう言うと、魔族を掴んだ。
「……!」
魔族はバタバタと足掻くが、びくともしない。そのまま男性に運ばれ、視界が暗転した。
(ここで死ぬのかなぁ……もう、別にいいかぁ。利用されるだけ利用されて、殺される。それが、自分達一族の宿命だったんだしぃ……)
「……ここはぁ?」
意識が戻った魔族は、連れてこられた城の中を見てそう呟いた。
「名乗り忘れたな!俺はストラントだ」
ストラントはそう言うと、そばにいた仏頂面の男性の肩に手を乗せた。
「んで、こいつが魔王のエレントスだ……お前は?」
「……」
魔族が黙っていると、エレントスが口を開いた。
「捨て猫、拾ってくんなよ」
「猫じゃありません!」
魔族はそう言ってから、ハッとしたように口をつぐんだ。そして、再び下を向いた。
「……ここで一緒に暮らさないか?あそこは少し寒いだろ。嫌だったら、いつでも出て行っていい」
「おい、何勝手なことを言って――」
「まあまあ、良いだろ!ごめんな。こいつ、こういう奴なんだわ」
ストラントは親指でエレントスを指しながら、そう言った。
「……」
「でも、呼び名がねぇと、あれだな……そうだ!キャッタンはどうだ!?」
「何だよ、その名前?」
エレントスがそう問いかけた。
「猫と悪魔に似てるから、キャットとサタン。合わせてキャッタンだ。どうだ?我ながらセンスがありすぎるな!」
「いや、センスなしだろ……」
「……キャッタン」
魔族は、小さくそう呟くと頬を緩めた。
◇ ◇ ◇
「うぇ……!」
キャッタンはベッドから飛び起きた。時計を見ると、夜の2時だった。
「ゆ、夢でしたぁ……」
キャッタンがそう呟いた時――大きな音が響いた。
「ドォン!」
「何ですかぁ!?」
キャッタンは慌てて音がした窓を覗き込んだ。すると、そこには毒沼へ向かって落ちていくカトラスの姿があった。
「や、やばいですぅ!」
キャッタンはそう言うと、カトラスを助けにそのまま窓から飛び立った。
◇ ◇ ◇
翌朝。
「なんか昨日の夜、悪い夢を見たんですよね」
「自分も悲しくなる夢を見ましたぁ!魔王様は?」
「仕事があってオールだ」
「「あ……」」
こうして二人は、寝られるときに寝たほうが良いと学んだのであった。
「いやぁ、小学生ですかぁ!」




