27.そうだ海へ行こう!
「そうだ。海へ行きましょう!」
セシアはエレントスを見つめてそう言った。
「タイトル回収、早すぎだろ」
エレントスがそう言うと、ふわふわとキャッタンが近づいてきた。
「じゃぁ、魔界ビーチに行きましょうよぉ」
「良いですね!みんな誘って行きましょう!」
セシアがそう言うと、エレントスは目を逸らした。
「我は行かないぞ。三人で行ってこい」
「何でですか? ……もしかしてエレントス様、カナヅチなんですか?」
セシアはニヤニヤしながらそう言った。
「違ぇよ!……なんだ、日焼けするだろ」
「乙女ですか!?ほら、キャッタンも何か言ってくださいよ!」
セシアがキャッタンを見ると、アロハシャツを着て、派手なサングラスと浮き輪まで身に着けていた。
「行く気、満々じゃないですか!」
「何で、年中露出狂がアロハシャツ着てんだよ」
エレントスは呆れたようにそう言った。
「誰がぁ、年中露出狂ですかぁ! ……そもそもですねぇ、自分達の種族は服を着ないのが普通なんですよぉ。よく考えてみてください!猫が服を着てたら変でしょう? あ、自分は猫じゃありませんよぉ。そういうことを言ってるんじゃなくてぇ、あの――」
「よし!ミレカから水着借りてきます!」
「我は行かないからな!」
走り去るセシアへ、エレントスはそう叫んだ。
「……それで魔王様ぁ!上半身だけ着るかぁ、下半身だけ着るかぁ、どっちが良いと思いますぅ? 着るなら赤いシャツか赤いズボンですよねぇ?」
「お前はさっきから何の話をしてんだよ!」
エレントスはキャッタンを掴むと、そのまま窓の外へ放り投げた。
「お先に行きますううぅぅ!」
「ここは人間界だろ」
◇ ◇ ◇
セシア、エレントス、キャッタンの三人は魔界ビーチにいた。
「結局こうなるのかよ」
「ミレカには断られちゃいました!」
「我も断っただろ。何で我の意見は通されないんだ」
「やっぱりぃ、魔王様がいないと盛り上がりませんからねぇ」
キャッタンは赤い海パンに赤いラッシュガードを着ていた。
「……何ですか、その水着。返り血ですか?」
「ダサすぎるな」
二人は冷めた目でそう言った。
「ムキー!おしゃれですよぉ!」
「キャッタン、甘いですね。私の水着を見てください! 可愛いでしょう?」
セシアはライトグリーンのワンピース風水着を二人に披露した。
「似合ってますけどぉ、これをミレカが着てたと考えたらぁ……ちょっと面白いですぅ」
「まあ、若い人向けの水着だからな。あいつには少し歳が合わんだろ」
エレントスがそう言い放った瞬間、彼とキャッタンの頭に手が置かれ、そのまま二人は砂浜へ叩きつけられた。そこに立っていたのはミレカだった。
「誰がババアじゃ!」
「ミレカじゃないですか!?どうしてここに?」
「実は、このビーチの屋台を手伝うことになりまして。それで、王女様のお誘いは断らせていただきました。その間の魔王城でのお仕事は乞食魔族に任せていますので、ご安心ください」
「あの人、生きてたんですね」
「はい。魔王城で問題を起こしたら命はないぞと言ってありますので、大丈夫でしょう」
(そんなことしなくても、あの人、ミレカに惚れてるから大丈夫だと思うけど……)
「じゃぁ、屋台の食べ物奢ってくださいよぉ!」
キャッタンは起き上がりながらそう言った。
「仕方ありませんね。ついてきてください」
「レッツゴーです!」
セシアがエレントスを見ると、そこに彼の姿はなかった。
「あれ、エレントス様は……?」
「王女様ぁ!あれを見てくださぃ!」
キャッタンが指差した先では、エレントスが溺れていた。
「何であそこまで流されたんですか!?」
「潮の満ち引きですね」
ミレカは平然とそう言った。
「まだ私達の足元くらいの深さですよ!?」
「ですがこのままだと魔王様、ご臨終ですね」
その言葉を聞き、二人はエレントスのもとへ泳ぎ出した。
「本当にまずいです! ……というか、キャッタンは浮いて行けるでしょう!? 何で泳いでるんですか!?」
「自分は魔王様より小さいんでぇ、助けられないんですよぉ!」
「じゃあ何で助けに行こうとしてるんですか!?」
二人は必死に泳ぐが、一向に距離は縮まらない。
「全然近づけません!エレントス様、魔法は使えないんですか!?」
「あの状態じゃ無理ですよぉ!こっちが魔法を使うしかありません!」
その言葉を聞き、セシアは動きを止めた。
「そういうことですか……じゃあ、いきますよ!」
「……もしかして、水を凍らせる魔法ですかぁ?」
セシアはエレントスへ向けて手を伸ばした。
「氷弾を飛ばす魔法」
セシアがそう唱えると、氷弾がエレントスに向かって飛んだ。エレントスが氷弾に当たると、そのまま彼は氷漬けになった。
「いや、何で本人を凍らせるんですかぁ!?海面を凍らせるとかあったでしょぉ!」
「そんな魔法持ってません!それに、この方が被害は少ないですし、氷は沈みませんから!」
エレントスは氷漬けのまま、ぷかぷかと流されていった。
「やばいですぅ!自分が行きますぅ!」
キャッタンは水面から飛び上がり、エレントスの上へ着地した。
「冷たいですぅ!行っけええぇぇ!」
サッカーボールのように勢いよくキャッタンに蹴り飛ばされたエレントスは、一気に浜辺へ向かって飛んでいく。
「え、うわああぁぁ!」
セシアも慌てて浜辺へ戻ろうとしたその瞬間。
「……あれ、やばいです。足、つりました」
セシアはそのまま沈んでいった。
「王女様ぁぁぁ!」
「まったく、何をしているのですか」
ミレカがゆっくりと浜辺まで歩いてきた。
「ミレカぁ、助けてくださいぃ!」
「順風を送る魔法」
ミレカがそう唱えると、追い風が吹き荒れ、エレントスとセシア、キャッタンはその風に乗せられ、一気に浜辺へ流れ着いた。ついでに海洋ゴミや骸骨まで流れ着いた。
「何か、とんでもないものまで来ましたぁ!」
「助かりました!ミレカ、ありがとうございます!」
「魔王様は助かっていませんよ」
エレントスはまだ氷漬けのままだった。セシアは指先に小さな火を灯し、エレントスへ近づけた。
「それは……溶かしましょう!」
「いや、何してるんですかぁ!?」
しばらくすると氷は溶け、エレントスは元に戻った。
「はっ……!何か悪い夢を見ていた気がする」
「気のせいですよ!ほら、みんなで屋台に行きましょう!」
セシアに促され、四人は屋台へ向かった。
◇ ◇ ◇
「やっぱり、かき氷ですよね!……エレントス様?」
「何か……氷、怖い」
「「ええぇぇ!」」
しばらくの間、エレントスは氷を恐れるようになったのであった。




