26. 魔界剣豪編〜討伐〜(後編)
「大変です!ラジア様!」
セシアは足早に店へ戻ってきた。
「おかえり〜ソイレースは引き渡せたかい?」
「はい! ……それより、ラジア様の怪我は大丈夫ですか?」
「うん。カラリリに治してもらったよ。そのまま死ねばって言われちゃったけど、素直じゃないよね〜」
ラジアはそう言って微笑んだ。
「嫌われすぎじゃないですか? ……でも、カラリリ様の治癒魔法って本当にすごいですね!」
「それで、何が大変なの〜?」
ラジアにそう尋ねられると、セシアは巾着袋を机の上に置いた。
「これは?」
セシアは勢いよく袋を開いた。ラジアが中を覗き込むと、そこには大量のDプリージ金貨が入っていた。
「D、Dプリージ金貨だああぁぁ!」
「全部で30枚ですよ! やばくないですか!?」
「予想はしてたけど……すごい金額」
ラジアは笑みを浮かべた。
「もちろん、私も貰えますよね!?」
セシアは両手を合わせてそう言った。
「うーん。どうしよう」
「悩まないでください!」
「というか、鏡って修理代なんだから元の値段以上にはいらないでしょ……10枚かな〜」
「えー!」
セシアがそう言った時、店の扉が開いた。そこには、依頼人の男性とその彼女の女性が立っていた。
「あ、いた」
「あの人なのー?」
女性はそう言ってセシアを見た。
「もう動いても平気なの?」
ラジアは女性にそう問いかけた。
「はい。もう大丈夫です!普段からよく食べて、よく寝ていますから!」
女性は笑顔でそう答えた。男性はそのまま店に入り、セシアの前で深く頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
顔を上げて微笑むと、今度はラジアの前へ歩み寄り、D金貨20枚を差し出した。
「ほんの気持ちですが、受け取ってください。本当に助かりました」
「ありがとうございました!」
二人はお礼を言って店を後にした。ラジアはその場に立ち尽くしたまま、頬を緩めていた。
「やばい。口角が戻らない」
「相変わらずの守銭奴ですね。気を付けた方が良いですよ?」
セシアはそう言ってソファに腰を下ろした。
「……ソイレース様を魔衛隊へ引き渡した時、まだ息があったんですよね」
「え、そうなの!?」
「はい。そして魔衛隊に連れて行かれる前に、小さな声でこう言ったんです。強くなったら、もう一度挑みに来い。あの男にも伝えろって」
◇ ◇ ◇
刀を持った一人の男性が、牢獄の廊下をゆっくりと歩いていた。やがて一つの牢の前で足を止めた。
「あ、ここにいたんだ……ソイレース」
「……お前か。それ、早く寄越せ」
ソイレースは床に寝転んだままそう言った。
「なんで捕まっちゃったの? お前、そんな弱かったっけ?」
「わざとに決まっているだろ。あの男が死んだと聞いて、つまらなくなってな。他のメンバーもあの程度じゃ拍子抜けだ」
「あの男って、確かストラントっていったっけ。お前、ほんとそいつ以外には興味なかったもんな」
男性は苦笑しながらそう言った。
「ソルブの天秤にそこまで執着しているの、お前くらいじゃないか?」
「理由があるからね。俺はお前と違って戦闘狂じゃないんだよ……んで、捕まって何する気? こうして、お前の刀を持ってきてやったわけだけど」
「ここの魔衛隊を皆殺しにすれば、多くの野郎が私に殺意を向ける。そうすれば、また強い奴と殺り合えるかもしれない」
ソイレースは立ち上がり、ゆっくりと男性へ歩み寄った。
「ふーん。まあ良いや。ほら」
男性は刀を渡すように見せかけ、そのままソイレースの腹を突き刺した。ソイレースはそのまま床へ倒れた。
「……刺した感覚がない」
男性がそう呟いた瞬間、牢の中から足を掴まれ、勢いよく転倒した。ソイレースはすぐさま立ち上がり、鉄格子の隙間から刀を奪い取った。
「痛たたた……」
立ち上がった男性へ向け、ソイレースは鉄格子の隙間から腕を伸ばし、その首元へ刀を突き立てた。男性はなおも笑みを浮かべた。
「俺のこと、信用してなかったの? 悲しいなぁ」
「殺意が丸分かりだな」
その瞬間、背後にいた顔の見えない魔衛隊がソイレースへ向けて銃を撃った。ソイレースは身体を傾けてかわし、銃弾は壁へとめり込んだ。その隙に、男性は牢屋から離れた。
「この階にいる魔衛隊は、私達の仲間ではなかったか?」
「お前じゃなくて、俺の仲間ね。お前と違って、俺にはたくさんのお友達がいるからさぁ」
「ちょうど良いな。お前とは一度、本気で殺り合ってみたかったものだ」
そう言うと、ソイレースは刀を床へ落とした。金属音が牢獄に響いた。
「俺が何の準備もなく、お前を殺しに来ると思った? さすがにタイマンはキツイって」
「お前……」
「この階の牢獄に、毒ガスを充満させておいた」
「……そういえば、お前はそんな魔法を使えたな。ふん、何がお友達だ」
震える手で刀を拾い上げ、ソイレースは鉄格子を何度も斬りつけた。だが、鉄格子はびくともせず、逆に黒い光を放ち始めた。
「俺達特製の、絶対に壊れない鉄格子〜どう、気に入った? 魔法の使えないお前にはどうしようもないがな」
男性はそう言い笑った。ソイレースは何も答えず、無言で鉄格子を斬り続けた。
「だから無理だって」
(もう5分以上は経ってるのに……相変わらずのバケモンが)
男性が鉄格子を見ると、小さなヒビが入っていた。
「……!」
だがその直後、ソイレースは刀を落とし、そのまま床へ倒れ込んだ。
「残念だったね。無駄に足掻かなければ、もう少し長生きできたかもしんないのに」
男性はそう言って牢へ歩み寄った。
「お前みたいな殺人鬼、生かしておいても害しかないからね。向こうの剣士が死んだ今、お前が生きている意味なんてないよ」
男性がそう言うと、ソイレースは床を這い、震える手で刀を掴んだ。
「……まだ動くの?」
ソイレースは刀を握ると壁にもたれ、その切先を自らの腹へ押し当てた。刃が深く食い込み、鮮血が牢の壁へ飛び散った。彼女の体は真っ二つに分かれた。
「……!ふふ、剣士としての誇りを守るためかな。じゃあね、自ら命を絶った剣士さま」
男性はそう言うと、牢獄を後にした。




