25. 魔界剣豪編〜討伐〜(中編)
二人は路地裏にある倉庫のような建物の前に立っていた。
「ここだよ」
「うえー……いかにもって感じですねぇ!帰っていいですか!?」
「覚悟決めてね〜」
ラジアはそう言うと、真剣な表情になった。
「……じゃ、行くよ」
セシアが頷いた瞬間、建物の扉がゆっくりと開いた。
「……!」
中から現れたのは、一人の長身の女性だった。
「入りな」
セシアが口を開こうとした瞬間、ラジアが彼女の口を軽く押さえた。
「失礼するよ〜」
二人は建物の中へ入った。中は廃ビルのようで、かなり広い。床には瓦礫やゴミが散乱し、中央には場違いなソファと机だけが置かれていた。
「座れよ」
女性に促され、ラジアは向かいのソファへ腰掛けた。セシアもその隣に座った。女性は机から煙草を一本取り出した。
「火、付けてくれ」
「僕はライター持ってないな〜王女さん、魔法でお願い」
「えっ……!わ、分かりました」
セシアは指先に小さな火を灯し、煙草へ火を移した。女性は一服すると、ゆっくり煙を吐く。セシアは周囲を見回した。
(ソイレース様はどこにいるんだろ。それに、この女性は……?)
女性はセシアへ視線を向けた。
「そこのお前は誰だ?」
「えっと、私はセシア・プレーセスと申します」
「今、僕達の店で働いてもらってるんだよ〜」
女性はラジアの方へと向いた。
「……あの男が見えないな。まさか死んだのか?」
「僕も、もう何年も会ってないから分からないな〜でも、そんな話をしに来たんじゃないことぐらい、分かるよね?」
ラジアが笑うと、女性は煙草を床へ落とし、足で火を消した。
「前にも言ったが、最期に話を聞いてやるのが私の殺しの美徳だ」
二人はそのまま立ち上がった。
「……もしかして、この方が」
「極致の剣豪――ソイレース。立ちな。戦闘だ」
いつの間にか、ソイレースの手には刀が握られていた。次の瞬間、彼女はラジアへ斬りかかった。ラジアは光線を放つが、その全てを刀で弾き返された。
(あれは……魔法だよね?無詠唱の魔法であの威力。そっか、詠唱する隙もないんだ)
「でも、こっちは狙われてません!」
セシアは立ち上がり、横へ駆け出した。
「火炎魔法」
セシアがそう唱えると、炎がソイレースへ向かって放たれる。だが次の瞬間、ラジアが勢いよく蹴り飛ばされ、炎の軌道へ飛ばされた。
「やばっ、これ」
振り返ったラジアを見て、セシアは慌てて魔法を放ち、炎を相殺した。
「危なっ……!」
その一瞬の隙だった。ソイレースがセシアを蹴り飛ばした。セシアは壁へ激突し、口から血を吐いた。
「……ごはっ!」
「王女さん!」
ソイレースはすぐさまラジアへ斬りかかった。光線はことごとく打ち返されていく。
「弱い。連携がなっていない。死にに来たのか?」
「生憎、そういうわけでもなくてね」
ラジアは刀を押し返し、大きく距離を取った。
「霧魔法」
そう唱えると、濃い霧がアジト内を包み込んだ。
「剣士は視界に頼らない。呼吸、足音、地面の振動……その全てを感じ取る」
ソイレースは迷うことなく魔法を弾き返した。そして、霧の中へ刀を振り下ろした。
「ぐっ……!」
そこには、肩を斬られたラジアがいた。彼は肩を押さえながら後退し、壁際へ視線を向けた。そこには、壁に寄りかかったセシアが笑みを浮かべていた。
「……ハァ。そういうことねぇ。まあ、死なない程度に頑張るよ〜」
ラジアは再び光線を放つ。当然のようにソイレースは刀で弾き返した。
「終わりだ」
そのまま刀がラジアの腹を貫いた。
「……が、はっ!」
「ラジア様!」
セシアはそのまま駆け出した。
「岩弾を飛ばす魔法」
セシアがそう唱えると、無数の岩弾がソイレースに向かって飛んだ。だが、それすらも刀で斬り落とされた。ソイレースは一瞬で距離を詰め、セシアの脳天に刀を振り下ろした。
「自分がマークされていないから隙を突けるとでも思ったか?お前はそもそも眼中にない」
その直後、ソイレースの左手が宙を舞った。切断された左手から大量の血が流れた。
「……!」
ソイレースが振り返ると、そこには無傷のセシアが立っていた。
「やっと油断しましたね」
「……どういうことだ」
「私は多くの魔法を扱えます。幻影魔法くらい当然使えますよ!この国防の大魔法使いを甘く見ないでくださいね!」
セシアは笑みを浮かべ、駆け出した。
「お前も、あの男の元へ送ってやる」
左手を失ってなお、ソイレースは顔色一つ変えず、驚異的な速度で斬りかかった。
「は、速すぎませんか!?」
セシアはしゃがんで斬撃をかわし、そのまま足払いをした。体勢を崩したソイレースへ光線魔法を放った。煙が室内に立ち込めた。
煙が晴れると、そこにはソイレースの姿はなかった。
「どこに――」
「死ね」
背後から声が響く。刀が振り下ろされようとした、その瞬間、ソイレースの右手から刀が滑り落ちた。カランと音が室内に響いた。
「……は?」
ソイレースが振り返ると、そこには血まみれのラジアが立っていた。
「ハハ、やったげるよ、王女さん。だから、一撃で仕留めてね」
ラジアはそう言うとソイレースを後ろから羽交い絞めにした。
「お前、何でまだ生きて……離せ!」
「ぐっ……!早く!」
暴れるソイレースの前へ、セシアは落ちた刀を拾って立った。
「……さようなら。またどこかでお会いしましょう!」
刀が振り下ろされた。ソイレースの身体から力が抜け、そのまま崩れ落ちた。ラジアは静かに彼女を床へ横たえた。
「はぁ、はぁ。大丈夫ですか、ラジア様!?」
「ハハ、微妙かな〜傷口がドクドクうるさいし、視界もやばくなってきた」
ラジアは腹を押さえながらそう言った。
「ラジア様。私のわがままに付き合ってくださり、ありがとうございました」
セシアはそう言って微笑んだ。
「まさか僕を囮にするなんてね〜」
ラジアは苦笑しながら部屋の奥のロッカーを開けた。中には、一人の女性が閉じ込められていた。
「いた」
「彼女さんですね!?」
ラジアが女性を背負おうとした時、セシアが慌てて口を開いた。
「いやいや、死んじゃいますって。私が背負いますから」
「大丈夫だよ〜君にはソイレースを運んでほしいな」
ラジアは倒れているソイレースへ目を向けた。
「ま、まだ生きてるんですか!?」
「さあね。でも、生きてようが死んでようが、魔衛隊に引き渡せば懸賞金がもらえるよ」
「行きましょう!」
セシアはソイレースを背負い、二人はふらつきながらアジトを後にした。




