24.魔界剣豪編〜討伐〜(前編)
ひとまず男性が立ち去ったあと、店内でラジアは軽く体を動かし、準備運動を始めていた。
「君も体動かしておきなよ〜」
「ソイレース様というのは、どんな方なんですか?」
「さっき言った通りさ、狡猾で悪逆非道。十二団の中で一番、話が通じない相手だよ」
「お強いのですか?」
セシアがそう尋ねた。
「そうだね〜僕達にとって彼女は相性が悪いんだ」
「……と、いいますと?」
セシアはソファに腰掛けたまま、ラジアを見つめた。
「彼女は魔法を捨て、剣を手に戦う――いわば剣士さ」
「剣士……」
「君も分かるだろう?だからこそ、剣士には剣士をぶつけるのが一番なんだけど……今はいないからね」
そう言って、ラジアもソファに腰を下ろした。
「私の兄も剣士でしたけど、結構弱かったですよ?」
「ハハ、それは相手次第さ。でもソイレースは魔界一と言われるほどの剣の使い手で、極致の剣豪とも呼ばれているんだ」
「私達、勝てますかね?」
「絶対とは言えないけど……君がいなかったら、彼女に挑もうとは思わなかったさ」
ラジアはそう言って微笑んだ。
「ラジア様……そうですね。私達の力があれば大丈夫です!彼女さんを取り戻しましょう!」
「ハハ、良い心意気だね……でも一つだけ言っておくよ。さっきみたいな手加減はしないでね。あれは魔法の出力を抑えていたんだろ?ソイレース相手には、本気で殺すつもりで戦ってね」
ラジアは真っ直ぐにセシアの目を見つめた。セシアは視線を逸らし、小さく口を開いた。
「……殺さなきゃ、いけないんですか?」
「もちろんだよ。彼女は魔衛隊に指名手配されている。そして身柄の引き渡しは、生死を問わないことになってる。たとえ僕達が殺さなくても、彼女は魔衛隊で処理される。だから安心していいよ〜」
「でも、殺すのは……」
セシアはソファから立ち上がった。
「……君がそんな考えなら、この依頼は取り下げるよ。殺す覚悟がなければ、殺されるだけだ……僕は生きていたいし、君にも死んでほしくないからね」
「……」
セシアは俯き、しばらく黙り込んだ。やがて決意を固めたように顔を上げた。
「……分かりました。でも、自分の手で引導を渡したくはありません。まだ息があるなら魔衛隊へ引き渡します。手加減はしません!だから、一緒に行きましょう、ラジア様!」
「ハハ、良いね。分かった。それじゃあ行こうか。極致の剣豪に挑みにね」
ラジアは立ち上がり、二人は店をあとにした。
◇ ◇ ◇
「でも、アジトの場所を知っていたんですね?」
「ずっと前にカラリリと共に、乗り込んだことがあったんだ」
「……それで、どうなったんですか?」
歩きながらセシアが尋ねた。
「……尻尾を巻いて逃げたよ。カラリリが治癒魔法の使い手で本当に助かったんだ〜僕は両腕を失ったし、彼女は両足を失ってたからね〜」
「……そ、そうなんですか!?なんだか一気に怖くなってきました。カラリリ様にも来てもらったほうがいいんじゃ……」
「うーん。君の頼みなら来てくれるだろうけど……多分、死んじゃうね」
「ど、どういうことですか?」
「前はソイレースのコンディションが悪い時だったから、なんとか逃げられた。でも今回は無理そうだね。それに彼女は強力な攻撃魔法を持っていない。治癒魔法を使う暇もなく殺されるだろうね〜それに、もし彼女が死んだら……多分僕、エレントスに殺されちゃうしね」
ラジアは苦笑しながら微笑んだ。
「そうですか……ま、まあ、よ、余裕ですよ」
「声、震えてるけど、大丈夫?」
「というか、ラジア様は剣使えないんですか?」
「使えはするよ。でも僕は剣士じゃないし、あのレベルの相手には敵わないさ。こういう時、ストラントがいてくれたらよかったんだけどねぇ」
「ストラント様は剣士だったんですか?」
「そうだよ……強くて頼りになって、バカ正直で頭は悪かったけど、誰よりも仲間想いな剣士だった」
ラジアは微笑んでいたが、その表情にはどこか寂しさがあった。
「なら、そのストラント様にも負けるわけにはいきませんね!私達は勝ちますよ!」
そう言うとセシアは勢いよく歩き出した。ラジアもその背中を追った。
「君、僕より前を歩いてるけど、道分かるのかい?」
「まったく分かりません!早く先導してください!」
「前に出たのは君なんだけどね?」
二人は軽口を交わしながら、ソイレースのアジトへと向かっていった。




