23.魔界剣豪編(後編)
「何ですか!?」
セシアは驚いたように声を上げた。
「お前らがソルブの天秤か?」
セシアが振り返ると、そこには四人の男女が立っていた。
「君達、誰だい?」
ラジアがそう問いかけた。
「俺らのことなんか、知らんくて良いよ」
「そうね。どうせあなた達は死ぬのだから」
「そこの女は見たことないな。本当にソルブの天秤なのか?」
男はセシアを見ながらそう言った。
「……そんなことはどうでも良い。私達を見た以上、生きて帰すつもりはないのだから」
「ハハ、王女さん。この状況、どう思う〜?」
ラジアは微笑みながらセシアに尋ねた。
「問題ありませんよ!そうですね……穏便に解決しましょうか!」
セシアがそう言うと、男女二人が彼女へ襲いかかった。
「雷を落とす魔法」
「海水を叩きつける魔法」
二人は同時に魔法を詠唱した。
「感電させるつもりですね!」
セシアは落雷と放たれた海水を走りながらかわすと、そのまま口を開いた。
「火炎魔法」
詠唱と同時に巨大な炎が二人へ向かって放たれた。
「へ?」
二人は炎をまともに受け、そのまま床へ倒れ込んだ。
「あ、縛っておかないとですね!」
セシアは倒れた男性へ近づいた。
「……っ」
男性は目を閉じた。
しかしセシアは、その男性の体から鎖を外した。
「えっ?」
「縛ってしまって申し訳ございませんでした……後で事情を聞いても良いですかね?」
セシアは男性に微笑みかけると、その鎖を倒れている二人へ巻きつけた。
「終わったよ〜、王女さん」
ラジアはゆっくりとこちらへ歩いてきた。
「……殺してませんよね?」
「ハハ、大丈夫。気絶させただけだよ〜」
ラジアは奥に倒れている男女を指差した。そして男性へ視線を向けた。
「話を聞きたいところだけど……」
ラジアが振り返ると、廃ビルの奥で炎が勢いよく燃え上がっていた。その瞬間、ビル全体が先ほどより激しく揺れた。
「僕はあっちの二人を運ぶから、王女さんはそっちの二人をお願いね〜」
「待ってください!ここに彼女さんがいるんですよね?」
セシアは大声で尋ねた。
「ハハ、いないよ〜」
「え?……ど、どういうことですか!?」
「後で説明するから、とりあえずビルから出ようね」
◇ ◇ ◇
三人は廃ビルを脱出し、少し離れた場所へ四人を寝かせた後、店へ戻っていた。
「つ、疲れました!飛行魔法とか持ってないんですか!?」
「僕はそういうの持ってないよ〜」
ラジアは苦笑しながら答えた。
「あの……申し訳ありませんでした!」
男性は深く頭を下げた。
「彼女さんはいないんですか……?」
「……います。でも、人質に取られているんです」
「人質……?」
セシアは首を傾げた。
「ああ、コンプリケートの十二団の誰かかい?」
「コンプリケートの十二団……?何ですか、その長い横文字は!?」
「この店の反対勢力さ。構成員は十二人いたんだけど、僕達が壊滅させたから、今は三人くらいだと思うよ〜」
「それ、もう組織とも言えないじゃないですか!」
「手段を選ばない姑息な相手……ハハ、ソイレースかな」
ラジアは微笑みながらそう言った。
「それで……彼女さんがあのビルにいないというのは?」
セシアが尋ねると、ラジアは先ほどの写真を取り出した。
「ここに写ってる女性は君の彼女じゃないね」
「……え?」
セシアが男性を見ると、彼はうつむいていた。
「そうです。ある女性から渡された写真なんです」
「……何があったんですか?」
セシアがそう尋ねた。
「それは――」
男性はゆっくりと語り始めた。
◇ ◇ ◇
それは、ある日の昼のことだった。
「食べ過ぎじゃない!?」
「これでも少ないくらいだよ!」
彼女は両手に唐揚げ棒を持っていた。僕は彼女と話しながら歩いていると、一人の女性がふらふらと路地裏へ入っていくのを見かけた。
(……何だ、あの人?)
僕が女性を見ていると、彼女もその視線に気づいた。
「あ、他の女の子見てるね!こんなに可愛い女の子が横にいるというのに!」
「違うよ……何かあの人、様子がおかしい気がして」
僕は女性を指差した。
「確かに……二日酔いとかかも!ちょっと様子見てくるね!そこで待ってて!」
彼女はそう言って駆け出した。
「えー!」
(追いかけても良いけど、ウザがられたら嫌だしな)
僕はその場で待っていた。しかし、どれだけ待っても彼女は戻ってこなかった。
(……何かあったのかな)
心配になった僕は路地裏へ駆け込んだ。辺りを見回すと、さっきの女性が地面に倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
そう声をかけた瞬間だった。首元に冷たいものが当てられた。僕は直感的にナイフだと思った。
「いい感じのバカップル発見〜!」
「まだ殺さないでちょうだいね」
四人の男女の声が聞こえた。一人の男が僕の前へ歩いてきた。男は目を閉じた彼女の首に、ナイフを突きつけていた。
「その手を離せ!」
僕は思わずそう叫んだ。その瞬間、倒れていた女性が立ち上がった。僕の首元に当てられていたナイフを奪い、そのまま僕の腕を切り裂いた。
「うわあああっ!」
激痛が走り、大量の血があふれる。僕は腕を押さえながら女性を睨んだ。女性は僕と目を合わせ、短くこう言った。
「敬語使えよ」
それだけ言うと背を向けた。すると別の男が僕の前へ出た。
「彼女、殺されたくないよね?だったら僕達に協力してくんない?」
男は微笑み、一枚の写真を差し出した。そこにはカフェで撮られた一人の女性が写っていた。僕が写真を見ると、後ろの女が口を開いた。
「ちょっと、それどこから手に入れたのよ!」
「君の若い頃の写真だね。今より綺麗じゃん。何があったの〜?」
男が笑うと、女は男を勢いよく蹴り飛ばした。
「ひええぇぇ!」
土煙が舞い上がった。
「喧嘩している場合じゃない」
違う女がそう言うと、僕へ一枚の名刺を渡した。
「ソルブの、天秤……?」
「そこに書いてある住所へ行って、彼女さんを捜していると依頼して。その写真を見せてね」
女性は僕の腕を見た。
「今すぐじゃなくても良い。でも私達はせっかちだからね。モタモタしてると彼女さん、殺しちゃうかも」
女性はそう言って微笑んだ。
「何でこんなことするんだ!」
僕が涙目で叫んだその時だった。彼女へナイフを向けていた男が彼女を地面へ突き飛ばし、今度は僕へナイフを突きつけた。
「お前に残された選択は二つだ。ここで女と一緒に死ぬか。俺達の頼みを聞いて生き残るか。どっちを選ぶ?」
ナイフは少しずつ首へ食い込み、血が流れ落ちた。
僕は震えながら叫んだ。
「……協力します!」
男は満足そうにナイフをしまった。
「奴らは廃ビルへ来る。そこには武器も置いてある。その時、お前も協力しろ」
男がそう言うと、五人は歩き始めた。その時、倒れていた女性が小さく呟いた。
「待ってろよ、ソルブの天秤。今度こそ潰してやる」
◇ ◇ ◇
「なるほどね。その憎みよう……やっぱりソイレースだね〜」
ラジアは納得したように頷いた。
セシアは男性へ歩み寄った。
「大丈夫です。きっと彼女さんは無事ですよ!私達ソルブの天秤が、必ずこの事件を解決します!」
セシアは微笑んだ。
「良いこと言うね〜でも言っとくけど、ソイレース結構強いよ」
「問題ありません!私が守るのは国だけではありません。仲間もです!それに……こんな酷い目に遭わされた人を放っておくのも、王女としての威厳がありませんから!」
「ありがとうございます……」
男性は震える声でそう言った。
「……分かったよ。じゃあ準備して。ソイレース討伐といこう」
ラジアはそう言い放った。




